第13話

 



「ここが王都の冒険者組合の建物か」


 昨日、昼寝してから1日経過。現在僕とミルアは本来の目的を達成するため王都の冒険者組合の建物へとやってきた。


「…眠い」


「うん、起きてからまだ30分しか立ってないから仕方ないとは言え…」


 取り敢えず…寝起きのツボ押してみようか。


「ひぎゃっ………むむむ、意地悪」


「意地悪じゃないからな?それより行こうか」


「うん」


 …しかし、周りの冒険者を見て分かる。そんなに強くない…と。そして、装備もそんなに良くない。一部の人はいいけど、ほとんど人は…って感じだ。


「?レオ、どうしたの?」


「なんでもないよ」


 僕はミルアと手を繋いで中へと入る。




 周りの冒険者から向けられてる視線…主に、男の冒険者から向けられてる妬みの視線には気付いてる。あと、「チッ」と言う舌打ちにもね?…まぁ、一つ気になるのは女性冒険者からミルアに対して向けられてる謎の視線。なんだろうな、悪意とかはないんだが…例えるなら、ミルアを可愛らしいものを見るような目で見てる。


「すみません」


「はい」


「ミスリル冒険者の試験を受けに来たレオです。…これ、招待状です」


「はい、少々お借りしますね?………確かに。分かりました、現在幸運なことに鮮血の大賢者様がいらっしゃいますので直ぐにでも試験を受けることが出来ますが…どうしますか?」


「お願いします」


「分かりました。大賢者様にお伝えしてきますね」


 受付さんが何処かへ行った。…うーん、ここで待っておけばいいのかな?


「いいご身分だな、お前」


 やっぱり来たか。…まぁ、相手をするメリットがないので無視しよう。


「おい!お前に言ってんだよ!」


 こちらに手を伸ばしてきたな。僕はそれを横に少し移動することで避ける。


「おい、その辺でやめておけ。お前。今月で何回目だ。そろそろ本当に冒険者資格が剥奪されるぞ。それに、聞いてたのか?こいつはミスリル試験を受けに来たゴールド冒険者だ」


 他の冒険者が僕達に絡んできてる冒険者に注意する。…こいつ、こんな事を何回もしてるのか?


「あぁ!?だからなんだよ!!お前はイラつかねぇのかよ!」


「…はぁ、すまねぇな。あんたら。こいつはミスリル試験に3回も落ちて、更に最近女に浮気されててな荒れてんだ」


「それは大変ですね。…だからと言って人に当たるのはお門違いってやつですよ」


 そこでようやく僕は後ろに振り返った。


「っうるせぇんだよ!」


「ミルア、無視していいからな」


「うん、相手する価値がない」


「んだと!!」


 おぉ、言うねぇ、ミルア。煽り性能あるじゃん。


「吠えるな」


 …ミルア?


「ぐぎぎ…!」


 男が歯軋りをする。怒りに染まってるのが一目瞭然だ。


「ミルア、その辺にしとけ」


「うん、分かった」


「このクソアマがぁぁ!!」


「おい、誰の奥さんに手を出そうとしている」


 殴りかかってきた男の手首を掴み、そのまま折る。バキッ!!という鈍い音が鳴り響き、男の手首が向いてはいけない方向へと曲がった。そして、遅れて男の悲鳴が建物内に響き渡った。


「っぎゃぁぁぁ!!!!」


「っおい、お前。これは流石にやり過ぎだ!」


「すみませんね。大事な奥さんに殴りかかってきたのでつい、やってしまいましたよ」


「だからと言って」


「うるさいの、なんの騒ぎだ」


『っ!!』


 その声は何故か、騒がしい中でも透き通るように聞き取れた。


 全員が声がした方向を見る。…何人かは顔が青ざめてるようだ。

 一体誰が来るのだろうか、でも声からして女性だ。そんな事を考えながら声の方向を見ていると、やがて一人の幼女と先程の受付さんが一緒にやって来た。


 …受付さんが来たって事は、あの幼女は……まさか、鮮血の大賢者様?


 その人がこちらを見た。ゾワッとした…まるで、例えるなら竜に睨まれたような。幼生竜より遥かに恐ろしい。


「…レ、レオ。あの人はやばい」


 ミルアも震えてる。…かくいう僕も膝が微かに震えてるだろう。でも、何故だろうか……そんなに恐怖を感じない。矛盾みたいだけど…


「で、何の騒ぎだ?……お前らか?」


「だ、大賢者様…これは」


 先程俺が手首を折った男が冷や汗をかき、しどろもどろになりながら必死に言葉を紡ごうとしてる。


「…ふむ。どうせそっちの手首が折れてる方が馬鹿やらかしたんだろ。違うか?」


「あ…これは……はい、俺が原因です」


「…お前をストーンに降格させる。そして3ヶ月間、ランク昇格を禁ずる」


「なっ!それは」


「なんだ?文句があるのか」


 大賢者様が男を睨みながらそう言うと、男は押し黙った。


「ストーンに落ちて最初からやり直せ。今のお前には実力は伴ってるかもしれないが心が伴ってない」


「っ!!」


「薬草取りや市民の手伝いで優しい心を学び直せ」


「分かりました。俺、心を入れ替えます」


「うむ。励むが良い。おい、早速変更させろ」


「分かりました。では、こちらの方へ」


 一連のやり取りを目の前で見てた俺は言葉が出なかった。


「そっちのお前らが試験を受ける者か?」


 大賢者様が消えたと思ったら目の前に現れた。


「っ!…は、はい。…僕が試験を受けます」


「ふむ、そいつは?」


「僕の奥さんのミルアです。ミルアはシルバー冒険者なので付き添いみたいなものです」


「………なるほどな。なら早速試験を開始しよう。嫁にはここで待ってもらう」


「分かりました、ミルア。それでいいよな?」


「…うん。先に宿で待っておく」


「分かった。…準備は出来ました」


「うむ。なら行くぞ」


 大賢者様の付けている指輪の一つが突如、大賢者様の身長より少し高めの杖へと変化した。先端には白色の宝玉があり、その周りをまるで木が守るかのように絡み合ってる。


「では、行こう。転移」


 大賢者様がそう告げた瞬間、視界が識別不可能なほどにブレた後、そこは辺りが少し開けた森だった。


「ここは…?」


「墓夜の樹海だ。アンデット共が昼夜問わずうじゃうじゃいる」


「ここに連れてきた?目的は一体…」


「なぁに、簡単な事だ。お主には一体のアンデットと戦ってもらう」


 そう言い終えたと同時に何やら汚れたような気配を感じだ。


「ここは墓夜の樹海の中でもかなり奥の方じゃ。ここには強力なアンデットが沢山おる。お主にはその内の一体と戦ってもらう」


 やがてやって来たのは、一体のスケルトンだった。…いや、スケルトンじゃない。鎧を身に纏い、剣を片手に蒼炎が目にユラユラと宿っている。


「あいつはスケルトンジェネラル。強さはミスリル冒険者以上、アダマンタイト以下。これを倒さなくてはミスリル冒険者は名乗れん。安心せい、死にそうになったら助けてやる。だが、油断するなよ?油断すれば、普通に死ぬぞ。あっさりとな、くくく」


 大賢者様が宙を浮かび始める。


「ワシは見学する。さぁ、剣を構えろ。相手は待ってくれないぞ?なにせアンデットなのだからな」


「っ!!」


 僕はその言葉を聞くと同時に剣を抜き構える。スケルトンジェネラルもそれに応えるように剣を構える。



 絶対勝つ。いや、苦戦するかもしれないけど勝てる…そう僕には感じ取れた。




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