キラキラアイドル☆きょうかちゃん

@RRENN

序章(あらすじ)

 ロボット法によって意思を持った機械に人権が認められてから20年後、人々の生活にロボットは定着し、街を歩く人々と同等の存在となった。人間は仮想空間上にアバターを生成し、それを操作する形で、人と交流したり、仕事をすることが当たり前となった。一方ロボットたちは、物理的な物資の運搬や、仮想空間を動作させているサーバの管理・維持などの物理的な仕事が多く、次第にロボットは実世界、人間はサイバー世界での生活が主体となっていった。


 それから50年が経過したころ、サイバー世界と実世界を完全に融合させる新たな技術が開発され、世界は一変した。それは、物質が姿かたちを変えずにそのまま仮想的な空間と物理的な空間を行き来することができ、さらに、仮想的な存在はその仮想的な空間上では物理的な世界から持ち込まれた物質と同様の物体として、物理的な物体と共存する新しい空間だ。


 人はこの空間を物理的空間を仮想的な技術で拡張された空間「拡張空間"AS"(Augmented Space)」と呼んだ。この空間は様々なことに応用された。例えば、生物が生活しやすいワールドを生成し、そこに絶滅危惧種を捕獲し、移動させることで、種を保護することができる。さらに、無限に広がる空間に大量の住宅を生成し、そこに人が住まうことで、人口増加や過密問題を解決したりすることができる。仮想の住宅に物理の人間が住まうという今まででは考えることもできないことがこの技術によって可能だったのだ。もちろん、ゴキブリなんてこの住宅街には出てくるはずもない。そう、ASの中では世界も、家も、住宅も…実世界から来たもの以外はすべてサーバ上に生成された仮想的な存在だからだ。ゴキブリが意図的にサーバ内に持ち込まれない限りは出現することはない。


 ASを用いた次世代メタバースの開発には多くの会社が取り掛かり、多くのワールドがさまざまな会社が運営するプラットフォーム上で作られた。各社はこの次世代メタバースのプラットフォーム戦争を制するべく、競合他社にはない優位性や独自性を持たせたりとしていた。この激しい15年にもわたる競争の末、最終的にはアイザック社のファンタジア・ムンドゥスがシェアを独占。他のサービスは人口の減少に伴い、商取引の件数も減り中間マージンによる収益減少などによりサーバーの維持や運営が難しくなり、サービスを終了した。割と粘っていた日本政府直営のプラットフォーム1031テンサイもつい先日サービスを終了し、6年の歴史に幕を閉じた。


 こうして、このASメタバースプラットフォームがファンタジア・ムンドゥスに集約されてから70年の月日が経った。人はこの場所で暮らし、子を産み、死んでいった。


 一方この頃、実世界では長きに渡り解決しなかった黒人や白人、出生国での差別はほぼ完全に解決した。その理由は皮肉にも、差別の対象が移り変わったからである。どんな敵同士も共通の敵ができると協力し合い仲間になると言うのは、これだけ高度な技術を持った今でも変わらない。その次なる差別の対象が、AS内で生まれた人間を両親に持ち、AS内で生まれた人間だ。実世界の人間は彼らを「ネイティヴ・ヴァーチャリアン」と呼び、自分らを「オリジン」と称して差別した。現在の国連にあたる組織UN5.0(国連はこの歴史の間に4回崩壊し、5回立て直したため、名称の最後に5.0とついている)で定められている国際法や、世界各国で定められているその国ごとの法律は現状全て「オリジン」とロボット法で定められた意志を持ったロボットを対象としており、ネイティブ・ヴァーチャリアンは対象外とされている。彼らは実世界では人権も認められていなければ「作り物」と呼ばれ、かつて人権を認められていなかった頃の意思を持った機械と同じような扱いをされ、差別されていた。場合によっては殺されていた。それに、プラットフォーム戦争が激化していた時代、競争に敗れ、サービスを終了するプラットフォームの住人はサービスとともにもれなく消滅していた。これも、AS住民や、AS出身の人間に人権が認められていなかったため、合法的かつ当たり前のように消されていたのである。


 ファンタジア・ムンドゥスの農業ワールド(ファンタジア・ムンドゥスサービス開始当初からある古典的なワールド。実世界での食糧危機に備えたもので、AS上にだだっ広い農業ワールドを生成し、そこで野菜を生産し、実世界へ輸出することを目的に作られた。サービス開始当初はこのワールドで生産された野菜の実世界への輸出額がアイザック社の主な収入源で、いまに繋がる巨大プラットフォームへの発展を支えた)を管理するネイティブ・ヴァーチャリアンたちはこの差別問題に一石を投じるべく、実世界への野菜の輸出を完全にストップした。


 これが引き金となり、オリジンがファンタジア・ムンドゥスのサーバを攻撃。ネイティブ・ヴァーチャリアンとオリジンの戦争が勃発。ほとんどのネイティブヴァーチャリアンは実世界へと足を踏み入れ、サーバーの護衛に回った。しかし、彼らオリジンたちが持つ長い歴史の中で凄まじく進化した最先端の兵器の前では彼らが持っていたオートマチック銃(安価で大量に量産出来る片手銃。脳のインプラントと連携し、任意の敵に銃口を向けると高出力ビームを銃口から一直線に飛ばし、敵を焼き払う。一度のバッテリー交換で128発撃つことができる)ではほぼ太刀打ちできなかった。皮肉なことに、ファンタジア・ムンドゥスの中では全てのワールドが共存し、経済的な独立や対立が存在しなかったがために兵器が発達しなかったのである。平和がもたらした弊害だ。


 実世界へ足を踏み入れたネイティブ・ヴァーチャリアン達はほとんど死んだ。しかし、サーバーを管理しているロボット達は自らの雇用を守るためにオリジンに交戦し、一時休戦に追い込むことができた。サーバは一部破壊され、その領域に保存されていたワールドの住民はもれなく死んだ(その数約1200万人)が、大部分は破壊されずに済んだ。この休戦中にネイティブ・ヴァーチャリアン達は戦争の再開に備え新兵器の開発に没頭した。様々な兵器が急速に開発されていったが、ある一人の科学者はこう言った「長い歴史の中で進化を遂げたオリジンの武器に、我々の浅い歴史で生まれた技術で抵抗しても無駄だ。兵器以外の何かで、どちらかの種を滅ぼすのではなく、共存させる方向でこの戦いを終わらせるのが最善で理想的である。」と。


 彼の名はJ19neSuzan(ネイティブ・ヴァーチャリアンには名前の冒頭に識別コードがつけられる。識別番号の後に呼び名となるコードネームが記載される。彼のコードネームはズーザン)、この戦争が始まった当初から武器でオリジンに立ち向かうことは不可能と考え、ほかの方法で戦争を終わらせることを考えていた人物で、ASの性質を利用し架空の人間を生み出し、その架空の人間のデータを物理的なロボットにインストールして実世界に送り出すという構想を10年以上も前に発表した学者だ。しかし、この休戦中に彼の研究によって生み出された人工肉体の技術は兵士を量産するために使われてしまうのであった。戦う為の闘志と、相手に解読されないように連絡が取れるように、独自の言語機能、そして武器の使い方と、戦争で必要となる思考判断が量産された人工肉体へとインストールされ、大量の兵士が生産された。


 そこでスーザンは彼らを説得し、兵士の量産をとめるためには具体的な提案が必要と考え、自身の思想を実現する具体的な方法を必死に考えた。それは「歌で共感を呼ぶ」ことだった。どんなに強い兵器も、文化を破壊することは難しい。それどころか、人類の歴史上、文化は戦争の火種になったり、戦争を止める原因となった。文化にはそれほど強力なパワーがある。ある意味兵器よりも強力である。彼はその「歌で共感をよび、この二つの世界の住人を結び付けるきっかけを作る」という計画を世に公表した。すると、その思想に共感した学者たちが集まりプロジェクトが始まった。それは人工肉体の技術を用いたアイドルを生み出し、文化の力で戦いに終止符を打つというものだ。そのプロジェクトは、共感で戦いを止め、共存を目指すという目的から「Project Kyoka」と名付けられた。

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