第14戦【期末テストの行方は】
幸か不幸か、STREAMERカップへの出場は棄権。期末テスト前の土日が何の予定もなくポッカリと空いたまま。最後に詰め込むにはおあつらえ向きだ。
そして遂に来たる期末テスト。万全の用意を携えてそれぞれの思惑を胸に、彼らは答案用紙と向き合うのだった。
(夏休みの補習をなくす条件で担任のメガネにかけあったのは俺だ。クラスの皆は俺の我が儘についてきてくれている!それで俺が赤点なんて、格好つかないマネできないぜ。学級委員らしく、サクッと突破だ)
(瑞樹ちゃんを巻き込んで勉強会しようなんて最初に提案したのはあたし。言い出しっぺなんだもん、勿論足を引っ張る訳にはいかないよねって感じ)
(僕が勉強もできるということが判明すれば、クラスの女子はますます僕の虜に!この前田、赤点突破の暁には涌井さんへの再アタックを誓おう!)
(1人の時間も好きだけど、皆でひとつの目標に向かって頑張るのも悪くはなかったわ。勉強だって、やればできないことないのよ)
(皆さんの講師役を請け負いました。もしクラスの誰かが赤点を取ってしまったらそれは私の責任です。……ですが、私から教えられることは全てお伝えしたつもりです。頑張ってください!)
(全く迷惑ばかりかけちまったな、責任は感じてる。だからこそアイツらをアッと驚かせるような点数を取ってやるんだ。クラス1位で、ひと泡吹かせてやるぜ)
怒涛のテスト週間は嵐のように過ぎ去った。各自、最後まで怠けることなく持てる実力は出し切ったはずだ。
そして夏休みの直前、運命のテスト返しがやってきた。
放課後、教室に各自で答案用紙を持ち寄って、最後の勉強会が始まった。
・池辺 正志 クラス順位 35/40 11教科得点 462/1100
現代文 42点 英語 48点 生物 34点
古文 35点 日本史 36点 化学 52点
数Ⅱ 48点 世界史 35点 物理 48点
数B 44点 地理 40点
「よっしゃ、全体的に危なっかしいけど文句なしの赤点クリアだ!杉本さんに教えてもらったおかげで分かった問題、沢山あったぜ」
・陽野 優美 クラス順位 29/40 11教科得点 489/1100
現代文 59点 英語 64点 生物 32点
古文 52点 日本史 54点 化学 34点
数Ⅱ 36点 世界史 44点 地学 42点
数B 32点 地理 40点
「64点なんて点数取ったの小学生以来かも!数学は難しくて分からないところも多かったけど、それでもギリギリセーフ!」
・前田 光 クラス順位 18/40 11教科得点 616/1100
現代文 62点 英語 50点 生物 44点
古文 55点 日本史 73点 化学 38点
数Ⅱ 58点 世界史 75点 地学 54点
数B 45点 倫理 62点
「ふぅん。全教科満点だと思っていたので少々不満ですが、次は今回の2倍勉強すれば全教科100点取れるということですね。あぁ……今から武者震いが止まらないよ」
・涌井 蓮花 クラス順位 5/40 11教科得点 819/1100
現代文 64点 英語 82点 生物 75点
古文 66点 日本史 64点 化学 89点
数Ⅱ 88点 世界史 68点 物理 73点
数B 72点 地理 78点
「フン、アタシがちょっと本気で勉強したらコレよ。テストなんて恐れるに足りないわ……な~んて。今回ばかりはアタシだけの力じゃ乗り切れなかったわね」
・財津 総一郎 クラス順位 2/40 11教科得点 881/1100
現代文 84点 英語 88点 生物 78点
古文 70点 日本史 91点 化学 68点
数Ⅱ 70点 世界史 93点 地学 83点
数B 62点 倫理 94点
「クソッ。流石に付け焼刃じゃアイツには勝てなかったか。しかし、寝る間も惜しんで勉強した甲斐があったな。まあよくやった方だろ」
・杉本 瑞樹 クラス順位 1/40 11教科得点 1047/1100 学年3位
現代文 94点 英語 98点 生物 100点
古文 88点 日本史 100点 化学 96点
数Ⅱ 100点 世界史 98点 物理 88点
数B 89点 倫理 96点
「私は学年1位から落ちてしまいましたが、それより皆さんが赤点を回避してくれたのが凄く嬉しいです。講師として、使命を果たすことができました」
各々、つけられた点数を眺めながらの感想戦に耽る6人。
危ういと思われていた池辺は、ギリギリだったがなんとか赤点を回避した。
そして、池辺より下位のクラスメイトもすんでのところで赤点を免れたと連絡があった。こうして、晴れて彼らは夏休みの補習を回避することに成功したのだった。
「つくづく、流石だな。俺達にこれだけ時間を割いておきながら、俺と150点も差をつけて堂々のクラス1位か」
総一郎がお手上げと言わんばかりに両手を掲げて瑞樹の元へ歩み寄る。瑞樹はひと月前なら考えられない程、柔らかい笑顔で総一郎を出迎える。
「いいえ、私のセリフです。1番教える時間が取れなかった財津くんが、まさかクラス2位の成績を収めるなんて」
「いいや、お前のおかげだよ」
総一郎は、黒い革製のリュックからボロボロに擦り切れたプリントの束を取り出した。紙面には何度も何度も書き殴った跡がある。
「お前が作ってくれた想定問題集、完璧だったぜ」
それは瑞樹が、教える時間が取れない総一郎に対してこれだけでもと作成したお手製の問題集だった。彼女の鋭い勘は本番でズバリ的中し、問題集をしっかり解いていた総一郎には朝飯前の難易度だった。
「……ありがとうな。それと、改めてよろしく」
「ふふ、こちらこそ。文化祭も一緒に成功させましょうね」
こうして、総一郎たちの1学期の登校日の日程は終わり夏休みに突入した。
橘高校の文化祭は、校内外から沢山の人が訪れる一大イベントだ。高校が総力をあげて催しに協力してくれるので、その規模たるや凄まじい。
出し物のテーマを決めて提出するのは原則夏休みが明けた9月からだが、夏休み中に準備をしてはいけないという決まりはない。故に、最優秀賞を獲得するクラスは例年、休みが始まった段階から入念に準備を始めている。
(まずはひと段落か。最近は配信サボり気味だったから、夏休みこそは力入れないとな。しかし、俺としたことが文化祭なんかに心躍ってるなんて。このクラスが、少しずつ俺を変えていってるのかもしれないな)
夏休み初日。総一郎は目覚ましもかけずに優雅に起床する。
ベッドの中でもぞもぞと動きながら、眠気まなこでスマホを探す。時刻は午前11時。
まず日課としてSNSに送られてきているファンや活動者からのメッセージを確認する。最近は有難いことに量が増えてきて、全てに目を通すのが難しくなってきた。
ざっと流し見していると、眠気を吹き飛ばすほど衝撃的な内容のメッセージが1通あった。その送り主の名前は、『ai』。総一郎が神童『sou』として競技シーンで活躍していた際の、唯一の心の拠り所だった女性だ。
ai という名前と、ゲームが上手いという情報以外は知らない。同い年だったのか、年上だったのか、それさえも定かではないのだ。それでも、総一郎を語る上では必ず欠かすことのできない大切な存在だ。
(ai なんて名前、なにも珍しくない。俺はなにを過剰に反応しているんだ)
心臓の鼓動を自制して、恐る恐る指でメッセージの中身を開いた。
『そう君、久しぶりだね。しばらく連絡を取り合わないうちに、大人気の配信者になってて驚いちゃった。配信頑張ってるんだね。そう君は話も面白いから、もっともっと伸びると思う。応援してるね!』
「……間違いない。これは、あの時の『ai』だ」
読み終わった総一郎は頭が真っ白になって、崩れ落ちるようにベッドへ大の字に倒れ込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます