第二話
それがどこからやって来てなぜここにいるのかということはとりあえず横に置いておいて、生まれたばかりの赤子が無事であることに安堵する。
暖かな日差しと青い澄み渡った空。縁側は明るく、置かれた籠の中ですやすやと眠る赤子の顔はどこまでも穏やかだった。
その籠を守るかように丸くなって眠っている黒い物体もまた居心地が良いのか、まったりとくつろいでいるように見える。
「あらあら。立派な毛並みのわんちゃん。どこから入って来たのかしら?」
よく見れば門が少しだけ開いていた。そこから入って来ただろう、野良犬には到底見えない、立派な毛並みの黒い大きな犬に話しかける。
邪魔をしないようにその場にしゃがんで、赤子の頭を撫でながら優しい声をかける。
「
その声に応えるようにぱちっと大きな瞳を開いた赤子が、その翡翠の瞳に
包まれている白い布に貼られた封印符が剥がれそうになって、慌てて手で押さえると、
「あなたの父上が頑張ってくれてるから、どうか、もう少しだけ我慢してね?」
気付けば黒犬はお行儀よくその場に座っていた。黒犬は思った以上に大型で、
それに気付いてかどうかは解らないが、黒犬は自ら頭を下げて覗き込むように鼻を差し出す。触れられたことに満足したのか、赤子はご機嫌な声を上げてきゃっきゃっと笑った。
「ふふ。この子、あなたのこと好きみたい」
首を下げ赤子に鼻を触らせたまま、金色の眼が様子を窺うように少しだけ
首を傾げて
「私のせいで、この子が苦しむのは嫌だわ」
黒犬は顔を上げ、
「あなたは、ただのわんこちゃんじゃないわね?」
黒犬は金色の眼を見開いて、ひどく驚いたように耳をぴんと立てた。それを確認して得意げに
「そう、あなたはわんこちゃんじゃない······そう、狼さんね!」
ドヤ顔で言い放った
(なんだか懐かしいな、この感じ)
表情をくるくると変える
(
黒犬はすやすやといつのまにか眠ってしまった赤子に視線を落とす。黄色い封印符がべたべたと貼られた白い布に包まれた、赤子。
まるで、その事実を隠したいかのようだ。
「あなたがなんであっても、この子を大切に想ってくれるなら、私は、嬉しいわ」
それは、どこまでも見透かしているかのような。不意打ち。
「もし、万が一、この子がひとりで危ない目に遭ったら。今みたいに、近くで見守っていてくれる?」
まっすぐに見つめられ、黒犬はこくりと頷く。それを確認して、
春は、あのひとが生まれた日。優しい陽だまりの匂い。桜が雪のように舞い散る縁側で。何度も笑いかけてくれた日々。
たったひと月だったが、永遠ほどに愛しい時間だった。
そして、あの日から七年が経った。
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