ロリゴン
ピエンデルバルド
第1話 犬を拾ったの?――いいえ、ドラゴンです。
とある神が言った。“何を間違えたのか”と。
とある龍が言った。“全てだろう”と。
とある人間が言った。“だとしてなんなのか”と。
とある獣が言った。“滅ぼせばよかろう”と。
とある落ちこぼれが言った。“希望はあるはずだ”と。
神は言った。“獣よ、下界を滅ぼせ。龍よ、下界を守れ。人間よ、下界を作り直せ。落ちこぼれよ、下界を覆せ”
彼らは動き出す。
人間時刻で二の刻二半。
人間の国“カダンタ”その中心にある王宮には、衛兵育成学園がある。
そこでは、主に神獣等を使役し、要人を守るためのいわゆる傭兵を育てており、全国から有志が集い日々ここで勉学、実技に励んでいる。
「だからさ、正直言って使役獣の召喚には実力なんて関係ないんだよ、その人の持つ才能、人格、カリスマ。そういうものが、召喚に影響する。事実、魔力の少なかった第二王子も龍を召喚してあれだけ偉くなった。俺はそう考える」
「よし、よろしい。席に戻れ。それじゃぁ、時間が無くなってしまったな。今日はここで区切ろう。それじゃぁ、三の刻までは敷地から出るなよ」
その学園の中の一場面。
教室の後ろの方に座っていた気の弱そうな少年はそそくさと教室を出ようとしたが、あと少しの所で呼び止められ恐る恐るといった感じで振り返る。
「おいおい、ヴェリエル。お早い帰りだなぁ」
「明後日に向けてお勉強でもしてんのかよ」
「意味ねぇって。あいつは魔力は関係ないとか言ってたが、お前は論外だって」
彼が振り返った先にいたのは、三人の男子生徒。真ん中の男は筋骨隆々で、おそらく実力のある奴だろうということは一目でわかる。しかし後二人は明らかに実力のないことが分かるような奴らだ。龍の威を借るゴアラということわざがあるが、誰もそんなことは言わない。
ちなみにゴアラとは体は小さいが動きが速い猛禽類である。
「べ、別に、何でもないよ」
「あん?なんだよ、入学式で魔晶石が全く光らなかったような奴が、いっちょ前に口答えか?」
魔晶石とはその人の持つ魔力の量を図るための石であり、入学式にて全員がこの石に触れ魔力量を調べられる。
卑しく笑う三人からサッサと離れた少年、ヴェリエルはすぐに寮の自室に帰ると持っていたカバンをベッドに放り投げた。
「……そのぐらい、分かってるっつーの」
口から洩れるは先ほどの奴らへの反論。正面切っては言えないため、こういう自分以外いないような場所でしか何も言えないのだ。
「全く、どうしてあそこまでしつこく言ってくるんだろう。自分たちに何か利益でもあるのかな?」
いじめっ子の心理は、いつだっていじめられている側には分からないもので、彼は本気で首をかしげていた。
「まぁいいや。ちょっとだけ寝よう」
彼はそう言って制服のままベッドに寝てしまった。
そして、彼が眠りから目覚めたとき、外は夕暮れに赤く染まっていた。
「あー、ちょっと寝すぎちゃったなぁ」
時刻は五の刻三半。
彼はベッドから起き上がると、しわのついた制服を綺麗な制服に着替えると、特に意味もなく外に出る。人通りもだいぶ少なくなっており、王宮に使える人たちもそれぞれ仕事場か自室にこもっているようだ。
「こうして見ると、やっぱり王宮は広いなぁ」
彼は特にどうでもいいことを考えながら、城壁沿いにある森へと向かっていた。そこへ行く理由もとくにはないが、そこは静かなので気に入っているのだ。
「……何か、落ちてきてる?」
彼がふと目線を上げたとき、その先には真っ逆さまに落ちてくる物があった。
「あれ、森に落ちそうだけど、大丈夫かな」
彼は妙に落ち着いた様子で森へと向かって行く。
そして、彼はそれを目にした。
上から落ちてきたであろうものを。何か苦しそうに呻いているその人を。
「人……!?だ、大丈夫ですか!?」
彼が駆け寄ると、その人は苦しそうに呟いた。
「は、腹が減った…………」
「……は、腹が減った」
どうやら、その人は落ちた痛みで動けないのではなく、空腹で動けないらしい。
「え、えっと、え?あ、ご飯。部屋にある?それを持ってくるか?いや、でも放置するわけにもいかないし……」
そこで散々迷った挙句、結局彼はその人を背負ってどこか安全な場所に連れていくことにした。それ以外の選択肢を取らないのは、彼の優しいのと、あとからの報復が怖いという恐怖からだった。
「でも、どこがいいかな……」
「む、お主の部屋に飯があるのじゃろ。そこへ連れていけ」
「いや、でもお、女の子だし」
そう。その人は声的には完全に女性だった。体は小さいのでおそらく子供だが、なぜか古風なしゃべり方をしている。
「安心せい。わしは何もせんし、お主は何もできんじゃろう」
「はぁ……」
彼には何を言っているのかよく分からなかったがここでグダグダとして、あの三人に見つかりでもしたら大変だ。そう思った彼は諦めて自分の部屋に連れていくことにした。
「えっと、じゃぁ何か適当に作るから待ってて」
「む、承知した」
そして、彼は保管庫に会った食材を幾つか取って簡単なものを作る。作るものは厚めの肉にエルガの卵をかけて、さらにそれをパンにはさんだもの。
「ほう、お主は料理が上手じゃな」
「まぁ、誰だってできる程度だよ」
彼は少し照れたように完成した料理を机に置く。
「あ、結構肉が分厚いから気を付けてね」
「ふん、問題ない。このぐらい一口じゃ」
「そう?」
彼はそれを単なる隠喩だととったが、実際に彼女は一口で食べた。大きく口を開けて。そして舌をやけどしたらしい。
「あふっ」
「あ、大丈夫?ごめん、言えばよかったね。焼きたては相当熱いから……」
「ふ、ふん、この程度の傷すぐに治るわ」
確かに、次の瞬間には何事もなかったかのようにケロッとしていた。
「うむ、うまかった」
「それは良かった。それで、どうして空から落ちてきたの?」
「む?あぁ、見られておったか。いやな、空を飛んでおったのじゃが空腹で眩暈がしての。このまま落ちてはいかんとこの体になって、あとは真っ逆さまじゃ」
彼女はやれやれといったように首を左右に振る。
「空を……飛行魔術?というかこの体って?」
「質問は一つ一つせい。まぁ、この姿じゃぁ分からんと思うが、いやまて?この角が見えんのか?」
そう言って彼女が手を伸ばした場所には確かにきれいな角が生えていた。そこそこ大きな角が。
「つ、角!?え、どういうこと?」
どうやら本当に気づいてなかったようである。
「そうじゃな。最近の神獣は人間の姿になれんから知らんでも仕方がない。では、改めて自己紹介と行こうかの。ワシは太古、創世龍が一柱」
彼女はそこで一旦間を置くと立ち上がり窓側を背にして、
「マニダンじゃ」
キメ顔でそう言った。
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