第七話 『皇太子レヴェータと悪霊の古戦神』 その127
―――星の祈りを聴こう。
大地の底の暗い場所から、死と命の輝きを浴びて。
勇気と共に、二人で歩く。
少女と老人の最後の旅路は無数の光に導かれ、迷うことなくただ進む。
―――暗がりへと二人は呑み込まれていくが、星がときおり落ちて来た。
二人の周りでまばゆく輝き、その道を照らしてくれる。
『往古の風』の祝福でつながれた者たちが、『プレイレス』の各地で声を上げた。
死んでいった者だ見える、同じ戦場で死んだ者の姿を流れ星に見つけたからだ。
「兄さん……っ」
「ああ、レオナルド……」
「……そこにいたのかよ」
「見守っていて、くれるんだね」
―――願いのままに戦って、祈りとなって死んだ者たちがいる。
多くの魂が、その不思議な世界には招かれていた。
アリーチェの勇気と共に千年の呪いが逃げ落ちる、最も深い場所に向かうのだ。
どこかさみしくて二人ぼっちではあるものの、その旅路は孤独ではない。
「たくさん、一緒に来てくれているね、アルガスおじいちゃん」
「そうだなあ。千年前も、必死になって仲間を集めたが……今度は、あのときよりも、ずっと多くの祈りが集まってくれている」
「えへへ!あのね、きっとね、みんなねー!変えたいんだよね!!」
「……ふむ。そう、じゃのう」
「みんなね、世界を変えたくて戦ったんだよね。昨日よりも、今日よりも、良い未来がほしいから。だから、みんな……死んじゃった今でも、私たちと一緒に来てくれる。生きていなくても……生きている人たちと、もうずっと会えなかったとしても……つながってるんだ!」
「ああ。つながっているな。とくに、お前は……多くとつながっているぞ。ほうら、暗がりを照らすために……また、星が来てくれる」
「わー!大きな流れ星が、来るよ!」
「……うむ。お前のために、彼らは来たのだ」
―――アリーチェのために、星が落ちて来る。
大地の底の深くまで、古い伝統を血に継承する者たちが。
暗く濁る闇を、流れ星のまばゆい光が打ち払う。
『ファリス王国』の騎士たちが、ここに現れる……。
「わーい!アンクタンおじちゃんだ!あのね、ちょっと意地悪なところがあるけどね、やさしいんだよ。『狭間』の私にもね、こっそりね、お菓子をくれたんだ。すっごくね、甘いやーつ!」
「ひねくれ者というのはなあ、無垢な者にはやさしくなれてしまうものだ。お前が正しい存在だったからこそ、あの者も素直になれたのだろう」
「えへへー。アリーチェ、いつもね、良い子だもん」
「そうだ。『狭間』であろうがなかろうが、そんなものはどうでもいい。真に大切なことと、血や姿は関係がない。お前は、いつも、良い子であったのだな」
―――また星が降る、二人が闇に呑み込まれないように。
白い光が激しく輝いて、『死貴族』たちがまた現れる。
ソルジェたちとツイストの浅瀬で戦った男、ガレスがいた。
アンクタンと仲の良かったコペンバーグも、まばゆい輝きになって道を照らす。
「ガレスおじさん、いつもマジメだったよー」
「そんな顔をしておるな。良いことだ」
「コペンバーグのおじちゃんは、よくアンクタンおじちゃんにからかわれてた」
「まっすぐな男は、ときにユーモアで救ってもらう必要がある。その逆も然り。良いコンビであったということさ。人生は、そういうバランスを取り合う友情も良いものだ」
―――二人の周りはどんどんと、闇の深みに変わっていくが。
それでも迷うことはないほどに、闇に応じて星が流れた。
闇に多くの死者たちが戦いを挑み、道を切り開く。
ドワーフの男もいたよ、戦斧を振り回す海賊然とした男……。
「あ、アントニウス船長……っ。そ、そうですよね。貴方なら、やっぱり……行きますよね。死者しか参加が許されない、その戦いに。だって……だって、貴方は、誰よりも、勇敢で……とてもやさしい方だったから……っ」
「……私は、忘れないよ。君の戦いが示した信念に応える。君の名前は、『アントニウス』だ。私が……かつて応えられなかった友情に、今度こそ報いるために、これから後の人生の全てを捧げよう。『ショーレ』のラフォー・ドリューズの名にかけて、この中海に……奴隷が働く農園など、二度と作るものか。死者から名を奪うようなことなど、二度と、許しはしない。私が……その生を全うし終えるその日まで、さらばだ。親友よ」
―――暗がりが、どんなに強く深くなろうとも。
流れ星が二人を守り、輝きながら散っていく。
そこには敵も味方の線引きなど、ありはしない。
それぞれの願いと祈りのままに、星は力と成っていく。
「あ。さっきのおじちゃんだー!」
「……帝国軍の将軍か。なかなかの気高さであったな。呪いの力を失って、動けるはずのない体を動かした……」
「姫さまのためにも、来たんだよね」
「良い将軍であったということさ。敵ながら、あっぱれだ」
―――将軍の星が輝けば、その男もやって来る。
彼に才能を認められた、最高の軍人が一人。
光を散らして、道を作る。
将軍に続き、軍人らしい毅然とした敬礼を遺して光に消えた。
「……マイク・クーガー少佐よ。貴殿との戦いは、忘れぬよ。私の人生における最大の敵であった。『ペイルカ』の歴史最大の敵である。しかし、誰よりも有能な軍人であった。それは、変わらぬ真実なのだ」
「……ヘヘヘ。そのうち、墓に酒を捧げに行ってやるからな。メイウェイも一緒に行くよ。あんたらは、きっとハナシが合ったはずだぜ。どっちも、とんでもない天才軍人だ。オレみたいな傭兵なんかとは、ちょっと毛色が違ったよ。ほんと、スゲー男だったぜ、少佐!」
―――第九師団の一員だった帝国兵キートたちも、その姿を見ていた。
『往古の風』は彼らも認めていたのだ、共に戦う者であると。
尊敬していた将軍と少佐を見て、その死を確認するのは辛くもあったが……。
しかし、泣きながらでも敬礼を捧げた。
「『第九師団』、万歳ッッッ!!!……オレたちは、軍人として、兵士として、戦士として……と、とにかくよう、全力で、全うしたんだ……戦いを、役目を!!!市民を、守るために、オレたちは死にながらだって、戦いましたよ、将軍!!!少佐!!!我々は、お二人のおかげで……最後まで、気高く戦う……『第九師団』の兵でした!!!」
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