第79話 ドラゴンの卵は美味らしい

 そして翌朝。

 ファーランが小さいドラゴンを四匹も持って帰った。


 朝飯の材料らしい。

 夜間に罠を仕掛けており、十匹くらい掛かっていたが、食べきれない分は逃がしたそうだ。


「どんな味がするのだ?」

「そうですね……」


 味そのものは鶏肉に似ており、煮ても焼いても塩漬けにしても美味しいのだとか。

 身近なタンパク源として、ドラゴニアの人々は、小さい竜を好んで食べるらしい。


「大型ドラゴンの肉は、瘴気しょうきがあるから食用になりません。ですが、小型のドラゴンであれば、皮から内臓まで料理に使えます。この種は木の実やフルーツが主食ですから、お肉もほんのり甘いのです」


 ファーランは短刀を抜き、器用に皮をはがしていく。


「ファーランも料理ができるのだな。見事なナイフさばきだ」

「買い被りです。竜の捌き方は兄様に教わりました。他はさっぱりです」

「なるほど……」

「これは竜の脳みそです。一番美味しい部位ですよ」

「うっ……脳みそも食べるのか?」

「はい、生でも焼いてもイケます。たくさん栄養がつまっています」


 ナイフにのせた脳みそを、ファーランが見せつけてくる。


「王都になかった料理だ」

「新鮮な竜の肉が必要ですからね」


 ゴクリと。

 グレイののどが鳴る。


 嬉しいわけじゃない。

 むしろ逆、少しビビっている。


(いや、未知の食べ物はいつだって怖いわけであって……)


(まあ、ファーランがお勧めするのだから、美味しいに決まっているか)


 ネロやレベッカも起きてきて顔を洗う。

 グレイは乾燥した木を集めると、朝食のため火を起こした。


「朝食はファーランが用意してくれるんだ。もしかして料理が得意なの?」

「ドラゴン料理専門です。ドラゴンを殺して、肉をカットすれば、ほぼ完成なのです。ほら、これが竜の脳みそです。ネロにも食べてほしいのです」

「お……おう」


 今回は焼き鳥ならぬ焼きドラゴン。

 塩をまぶして表面がパリッとなるまで肉をあぶる。

 ジュワッと中から肉汁が出てきたら食べ頃だ。


「うん、モモ肉は普通に美味しい。酒を一杯飲みたくなる味だ」


 脂っこくなく、変わったクセもない。

 目隠しした状態で食べたら、鶏肉かヘビ肉と間違えるだろう。


「これは竜の脳みそです。四人分あります。レベッカも食べてください」


 いよいよ勇気を振り絞る瞬間がやってきた。

 ネロもレベッカも動揺しているので、グレイが人柱になった。


 食らいつく。

 プリッとした食感に目を見開く。


「おっ……これは……」

「どうですか、グレイ」

うまい! 普通に旨い! いや、かなり旨い!」

「でしょう」


 ファーランの話に嘘はなかった。

 今日食べたお肉の中で脳みそが一番美味しい。


「食感も悪くないな」


 栄養がギュッと凝縮されており、グレイの舌も喜んでいる。

 美味しさのあまり、上半身にゾクゾクっとあわが立つ。


「ネロとレベッカはお腹いっぱいか? なら、俺が食べてやろうか?」


 グレイに背中を押された二人も食らいつく。


「うっ……」

「これは……」

「想像と全然違って……」

「柔らかくてクリーミーだ!」


 高級料理にも使えるよ! とレベッカが太鼓判を押せば、ファーランは得意そうな顔になる。


「ドラゴンは強い生き物ですから。その肉を食べると人間も強くなれると、私たちは考えています。竜の脳みそを食べると、知恵がつくのです」

「食は、まさに文化だな」


 パリパリに焼いた皮も美味しく食べた。

 エリシアへの土産話が一つ増えた。


 ……。

 …………。


 フェイロンを捜索するにあたり、一番頼りになるのが魔剣コクリュウソウだ。


「二本の川が、ここで合流していますね。右の川をさかのぼるべきか、左の川をさかのぼるべきか」


 魔剣に決めてもらおう、という方針だ。


「どっちへ向かうべきでしょうか? ……むふむふ、右に進むのが吉ですか」


 魔剣がそう答えた気がする、というファーランの直感である。


 水辺は要注意だ。

 草食のドラゴンが喉をうるおしにくるわけであるが、それを狙って肉食のドラゴンが待ち伏せしていたりする。

 グレイは常に周囲を警戒した。


「ドラゴンの脳みそ、美味しかったけれども、アレより美味しい部位はあるの?」

「ドラゴンの卵ですね。大型ドラゴンの肉は、瘴気があるので食べられませんが、卵なら話は別です。しかも、これが絶品なのです」

「ほうほう」


 ネロとファーランがおしゃべりしていると、龍騎りゅうきがピタリと脚を止めた。


 前方に何かある。

 一見すると単なる水たまりであるが。


「おい、見てみろよ。これ、でっかい足跡だぜ」


 ネロが両手を広げる。


「オイラの身長より余裕で大きい」


 グレイも水たまりをのぞいた。


 シルエットから察するに肉食の足跡。

 一目でヤバいと分かるモンスター。


「こいつの卵なら絶品じゃね。もし巣穴を見つけたら、今日のお昼は卵料理にしようよ」

「フェイロンを探すついでに竜の卵も探すわけか。どの道、食べ物の確保は必須だしな」


 最終決定はファーランにしてもらう。


「竜の卵を食べると精がつきます。ミッションの長期化に備えて、スタミナを蓄えておくのも一案ですね」

「なら、決まりだな」


 レベッカも未知の生き物に興味あるのか、猛者もさの足跡をしげしげと見つめた。

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