第45話 一瞬のチャンスを拡大する

 流星乱舞コズミック・カーニバルを受け止めたせいで、ネロとの距離が広がってしまう。


 これで五回目だ。

 手も足も出ない

 今のところは。


「素晴らしいぞ、ネロ! やっぱり、お前は天才だ! 神の申し子だ!」

「まだいたのか、クロヴィス。そんなところに立っていたら死ぬぞ」

「構わないさ。お前の雷に巻き込まれて灰燼かいじんに帰すなら本望ほんもうだ」

「へっ……酔狂すいきょうなやつめ」

「お互い様だろう」

「クックック……」


 二人の会話を、グレイは冷めた思いで聞いていた。


(ネロは人間……モンスターとは違う)


(心がある、感情がある、先入観がある)


(だからこそ通用する戦法があるはず……)


 グレイは横に移動した。

 ネロの流星弾コズミックが飛んでくる。


 すべてを回避することは不可能なので、一部は魔剣グラムで弾いて、残りは防護結界シールドで防御した。


 互いの魔力をジワジワと消費していく。

 これは魔力に優れるネロの勝利パターン。


(流れを変える必要がある)


(ならば……)


 ネロの頭上に槍を展開させた。

 とりあえず七本。


 わざわざ頭上を見るまでもなく、ネロは防護結界シールドを張り巡らせて、降ってきた槍をかき消した。


「魔法の打ち合いか? もう手詰まりなのか? その程度なのか?」


 グレイは答えない。

 ひたすらネロの周りを移動する。


「なんだ? オイラの雷公鞭サンダー・ボルトを誘っているのか?」

「…………」

「だったら、望み通り繰り出してやるよ」


 ネロは左手の親指と中指と薬指を合わせた。

 竜のシルエットを借りた紫電がえまくり、グレイ目がけて突進してくる。


(チャンスは今……)


 強い魔法だけが役に立つわけじゃない。


 たとえば地面を隆起させる魔法。

 モンスター相手に役に立った経験は、ほぼ無い。


 しかし、対人戦は違う。

 一瞬でもバランスを崩したら致命傷になる。


 小さくて頼りない魔法。

 だからこそ敵は警戒してこない。


(しかもネロは軽い……俺の読みが正しければ……)


 グレイは祈るような気持ちでネロの足元を隆起させた。


「ふん、バレバレだぜ」


 ネロは笑ったが、雷公鞭サンダー・ボルトの操作に集中していたせいで、反応がワンテンポ遅れている。


(ネロを一歩動かした)


(布石を打つことに成功した)


 次の狙いはネロの着地点。

 いくら魔剣士でも、着地後、すぐジャンプのモーションには移れない。


「吹っ飛べ! ネロ!」

「くっ……」


 さっきより強い力でネロを持ち上げた。

 昔に遊びでやっていた、岩を浮かせる技が役に立った。


 ネロの体がふわりと浮く。


 空中だ。

 バランスが取れない。

 ネロの表情が凍ったが、もう遅い。


(叩き込む! 渾身こんしんの一撃を!)


 グレイは魔剣グラムを振りかぶった。

 勢いよくジャンプして、ネロを両断するように振り抜いた。


「させるかよ!」


 ネロは短剣でガードする。

 空中で鍔迫つばぜりり合いのような形になる。


 これはグレイの得意な間合い。

 ありったけの力を大剣に込めて、ネロの胴に食い込ませた。


「エリィを守る! お前を倒す!」


 血飛沫ちしぶきをまき散らしながら吹き飛んだネロの体は、礼拝堂の壁にぶつかり、ガラスの破片と共に落ちてきた。


 グレイは止まらない。


 一気に畳みかける。

 このチャンスで勝負を決める。


「俺のエリィを返してもらうぞ!」


 狙ったのはネロの胸元。

 魔剣グラムを思いっきり食い込ませる。

 そのまま刃を振り抜いて、追加のダメージを蓄積させる。


「ぐっ……」

「まだだ!」


 さらに一閃。

 魔剣を持つネロの右肩も斬りつける。


 手応えあり。

 しかし、返ってきたのは冷たい笑い。


「グレイ、こんな話を聞いたことあるか。ハンターっていうのはよ、獲物を狩る時にもっとも無防備らしいぜ」

「ッ……⁉︎」

ちろ!」


 天井のステンドグラスを突き破った雷公鞭サンダー・ボルトが、グレイの背中を直撃した。


 不意打ちだったせいで、視界からあらゆる色が消し飛んだ。

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