テンプレ怨霊は清楚だと思うんだけど間違ってるだろうか

白音(しらおと)

第1話 怨霊さんとはじめまして

「ヴォア゛、ア゛ア゛ア゛……ア゛ア゛ア゛!!」

「ひゃっ……!? ぁ……なにこれ、なにこれぇ……!」

「おぉ!? 本当に理想の姿!」


 そこそこ広い1LDKのマンションの一室、格安で買った『事故物件』。隣で腰を抜かしている幼馴染みをほっぽって、少年──葛城かつらぎ陽斗はるとは感動していた。


 目の前にいるのは間違いなく、今まで見た事のなかった霊の類い。黒く長い、とても手入れされていたとは思えない傷んだ髪、所々血が滲んだ跡がある青白い生気を感じない肌。ボロボロの白いワンピースのような服。どこをとっても完璧な、イメージの中の怨霊の姿。

 その姿を見ているだけで動かなくなる体、背筋を通る嫌な冷たさ、突然襲ってきた頭痛、眩暈めまい。その全てが、陽斗の本能に「これはやばい」と伝えてくる。

 だが、そんな警告を全て無視して陽斗は進む。


「ふんっ」


 気合いで金縛りを脱出して、ゆっくりと怨霊さん(仮称)に近づく陽斗。動きは非常に遅いが、着実に距離は縮まっている。

 ……心なしか、ちボサボサの髪の隙間からチラリと見えた目は引き気味にも見えたが、そんなのは陽斗には関係なかった。

 一歩ずつ、確実に近づいて、怨霊さんの手を取る。


「俺と、お付き合いしてくれませんか!?」



 ──────────



 時は遡って、とち狂った告白の二時間前。

 陽斗は、母親裏切り者の密告により、幼馴染みの幽々原ゆゆはら結夢ゆめから、尋問を受けていた。


「何がどうしたらそんな結論になるのか、教えて貰っていい?」


 もうほとんどの荷物がない葛城家二階、自分の部屋。硬いフローリングの上で正座する陽斗に、結夢は紫の瞳を細めて笑顔で一言。


「あれだけ霊の類と関わったり、自分から霊に近づくようなことはしないでって言ってたよね?」

「はい……」


 笑顔の瞳の奥にいる般若の言葉に、陽斗は肯定することしか出来ない。


「その理由も、ちゃんと説明したよね?」

「……はい」


 陽斗に霊は見えない。というか、基本的に人に、幽霊という存在はは見えない。

 でも、霊の危険さは、『視える人』である結夢から何度も何度も聞かされていた。にもかかわらず、だ。


「どうして、街で一番有名な事故物件に住むなんてことしようとしてるのかな?」

「いや、その……ははは」


 照れたように頬をかく陽斗だが、結夢からしたら笑い事じゃない。何人も人が死んで、それはそれはもう人の負の感情の固まりみないになっている場所に、陽斗は引っ越すと言っているのだから。


「言え」

「清楚な美少女と付き合うには事故物件かなと……」


 これだけ叱っても、こんな意味のわからない理由を出されたら、頭を抱えるしかない結夢である。


「聞いてはいたけど、やっぱり全っ然意味わかんない……」


「もうダメかなこの人……」と呟く結夢に、陽斗は逆に、頭の中にクエスチョンマークを浮かべる。

 なぜ、清楚な美少女と付き合うために事故物件なのか。そんなのは、陽斗からすれば簡単な質問なのだから。


「わかんない、ってそりゃ、黒髪ロング白ワンピだからでしょ」



 ──────────



「ヴァ……? オツ、キアイ?」

「そう! お付き合い! 俺の恋人に、なんなら生涯の伴侶に──」


 陽斗が言い終わるより早く、ぎゅっと握っていた手がものすごい力で弾かれる。


「アノ、エット、初対面デオツキアイハソノ……」


 陽斗から距離をとった霊は、ちらっと見える肌を真っ赤に染めて、もごもごと、しかし陽斗の脳にダイレクトで話しかける。


「ゴ、ゴメンナサイィィィ!! マズハオ友達カラオ願イシマスゥゥゥゥゥ!!!!」


 そして、大量のポルターガイスト現象を起こし、叫びながらどこかへ逃げていくのだった。


「……めっちゃいい子じゃん」

「部屋の中見てから言ってよバカ」


 部屋の中は引っ越してきてすぐとは思えない、到底綺麗とは言えない有様になっていた。

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