天才陰陽師と言われた母が隠していたのは、鮮やかな幻想郷と僕の呪力が無いこと

@Hqtsukl

第一話 異様なモノ

夏のある日、昼頃。

とあるカフェに、十四歳ほどの男の子と三十前半ぐらいの女性が向かい合って座っていた。

「ねぇ、惟前(みさき)。本当に私の学校に来る気ない?」

「ないよ、俺には向いてない。」

惟前が乗り気ではないことが顔見ればすぐにわかる。

「向いてないわけない。あの環撫柴雨(たまもしう)の息子なんだから。ちゃんと柴雨ちゃんから修行も受けてたんだよね?」

「それは…でも、少しの期間しか教わってなかったし、もう昔のことで全然記憶が…」

それを聞き流すように結は頼んでいたカフェラテをゆっくりと口に運んだあと、やさしくとげのある言葉を発した。

「もうそろそろさ。柴雨ちゃんの死から逃げるのやめにしない?ほら、まだあの剣道場で暮らしてるんでしょ?」

二人の間にしんっとした空気が響き渡った。しかし、今更誤魔化しても仕方ないなと思ってしまったのもあったからだろう、惟前はすぐに自分の想いを口にした。

「……逃げてるわけじゃいよ。ただ…ずっと残ってるっていうか…なんこう、捨てられないんだよ…あの場所とかいろいろ。」

そんなことを口にする惟前は、何かがすっぽりと抜け落ちった抜け殻のように見えた。

「ならなおさら  -  」

その瞬間カフェのガラス壁の大部分が割れた。

飛び散ったガラスの破片たちが日の光を乱反射させると同時に物凄い音が店内に響き渡った。

惟前と結もその音に驚き、聞こえた方へと視線を向けた。

二人の視界に移ったその光景は、惟前が今までに見たことがない何とも言えないひどいものだった。ガラス壁に近かった人ほど割れたガラスが大量に突き刺さり、その根元からは血が流れ出している。

周りの客はあまりの急なことに悲鳴を上げることすらも忘れて目を見開き口を抑えるものいれば、目をそらし体を震わせる者、その場でひどい吐き気に見舞われるものもいた。

それも無理はない。

なぜなら、今この場にいる全員が見つめているモノは、物なのか、者なのかも、区別できず。

ガラスの壁が割れることやその被害にあった痛々しい人達、この場の何よりもひどくて衝撃的なのだから。

変化が起きずにしばらくの静寂が続いていたが、スーツをしっかりと着た一人の男が大声で叫んだ。

「怪物だ…首のない死体を握ってる怪物だ!」


【怪物】


いや、そんな一言で目の前にいるアレを言い表せてなるものか。

見る限り一面真黒で、見つめれば見つめるほど飲み込まれてしまいそうな暗闇そのものを体としてを持ち、左右長さや大きさが違う腕を持つアレは大きな左手に首を引きちぎられた痕のある死体を握りしめる。

皆が思わず言葉を失ってしまう異様なモノだった。

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