とら五郎童話

三浦サイラス

とら五郎童話

昔々とあるゲーム内にとんでもないプレイヤーがやってきました。


そいつはチート野郎で、いつもランクマを荒らしまくります。


投げは絶対に投げ抜けし、コマンド投げは必ずジャンプ、小技ヒット確認をしてランクマのみんなをボコボコにしてしまうのです。


真面目にランクマしているプレイヤー達はどんどんチート野郎のカモにされていきました。


なぜならチート野郎は、ダイヤ帯以下ならどのLP帯にもやってくるからです。


頑張ってLPを稼いでもどうせチート野郎が全部持って行ってしまう。


ランクマに怨嗟の声が轟き、みんなランクマをするのがバカらしくなっていきました。


スト5の治安崩壊待った無しです。



「ゆ、許せない……みんなのスト5をめちゃくちゃにするなんて!」



とら五郎はチート野郎に怒りを燃やしていました。


とら五郎はスト5を愛しているので、チート野郎が許せません。



「殺す! チート野郎殺す!」



その怒りは殺意の波動を呼び覚ますほどであり、闇のとら五郎が生まれそうでした。



「待てとら五郎。その力は危うい」



ですが、すんでの所でアレックスが止めました。



「お前は純粋に格ゲーが好きなはず。殺すなどと言うのはプレイヤーではない」



「アレックス……」



アレックスはとら五郎の殺意の波動を止めました。


とら五郎にとってアレックスは無二の相棒。アレックスの言葉はとら五郎の心を綺麗にしたのです。



「でもチート野郎をほっとくわけにはいかない!」



「案ずるな。既に手はうってある」



アレックスは頼もしい事を言いました。



「アレス殿だ。彼ならチート野郎など軽く成敗してくれるだろう」



アレックスは「勝ったな」って感じで笑いました。



「では、お願いしますアレス殿」



「任せてください」



アレスさんは旅立ちました。



「アレスさん、チート野郎相手にして大丈夫かなぁ」



「心配いらない。彼はアルマスだ」



アルマスはランクマ勝率80パーセントくらい。この勝率を保てるアレスさんならチート野郎とはいえ負ける道理はありません。





数日がたちました。





「捕まえてきました」



アレスさんがチート野郎をグルグル巻きで連れてきました。



「すいませんすいません。勝つのが楽しかったんです。みんなが僕の噂するのが気持ちよかったんです。もうしません。許してください」



アレスさんにかなりボコボコにされたのか、チート野郎はもの凄く素直でした。



「さすがアレス殿」



「さすがアレスさん」



アレックスもとら五郎もひたすら関心しました。



「では、私はコイツを運営に引き渡してきます」



アレスさんはカプコンにチート野郎をしょっ引く気満々でした。当たり前の事です。



「ありがとうございます。これでランクマは平和になるでしょう」



「よかった……みんなのランクマが戻ってくるんだね」



夕日を背にチート野郎をしょっ引くアレスさんはかっこいい以外の言葉が見つかりません。


アレスさんは悪を断つ剣となったのです。





アレスさんがチート野郎をしょっ引いて次の日になりました。





「とら五郎……信じられない事が起きている」



とら五郎の元に暗い顔をしたアレックスがやってきました。



「ん? どうしたの?」



とら五郎はランクマする為に対空トレモをしていました。



「……チート野郎が生きている」



アレックスは信じられない事を言いました。



「ど、どうして……」



「アレス殿の死体が発見された……」



アレックスはさらに信じられない事を言いました。



「いくつもの殴打の後……撲殺だ……」



「あ、あのチート野郎……!」



なんという事か。チート野郎は分別がつかないからチート野郎をしています。そのため、チート野郎はやっていい事とやったら悪い事の区別がついていなかったのです。



「アレス殿は優しいお方だ……おそらくチート野郎にだまされて縄をほどいてしまったのだ……そうでなければこんな事はありえない……」



アレックスは涙を流しました。



「うっうっ……アレスさん」



とら五郎も涙しました。



「何処へいくとら五郎……」



何処かへ行こうとするとら五郎にをアレックスは引き留めました。



「……私はチート野郎に教えてやらねばならないの」



アレックスがいくら引き留めようととら五郎は行く気まんまんのようです。



「とら五郎……」



アレックスは立ち上がりました。



「私も一緒にいこう」



「アレックス……」



とら五郎は笑顔になりました。



「アレックスと一緒なら私平気だよ!」



「とら五郎……」



「行こう!」



とら五郎はアレックスと一緒に出発しようとしました。



「……すまない」



アレックスはとら五郎にフラッシュチョップをしました。



「な、なんでアレックス……」



思わずとら五郎は倒れました。



「すまないとら五郎……手を汚すのは俺だけでいい」



「あ、アレックス……」



とら五郎は一筋の涙を流して気を失いました。



「……行き過ぎた悪は俺が倒さねばならない!」



こうしてアレックスは出発しました。


目指すはチート野郎の所です。







「あーひゃっひゃっひゃっひゃ! こいつ諦めてその場から動かないでやんの~」



チートベガは腹を抱えて笑っていました。



「決まりきった勝利は格別だぜぇ~。頑張ってためたLPなくなっちゃったね~大変だね~また稼ごうね~」



今日も荒しが捗るご飯がうまい。チート野郎はランクマみながら白飯が食える勢いです。



「ったくよ~。オレのなにが悪いんだってんだ。ゲームは楽しむものだろ? なら何も問題ないだろ~」



チート野郎はチート野郎なので、ものすごく自分勝手な事を言っています。



「おっ、スパブロじゃーん。ちょっと相手してやるかぁ。またルーキーからやりなおしてね~」



チート野郎がコントローラーに手をかけた時でした。



「コントローラーを持たないほうがいい」



チート野郎の首筋に手が添えられていました。



「だ、誰だ!?」



「誰? 通りすがりの格闘家だ」



「ば、バカな……アレスはオレが葬ったはず……」



「お前を成敗するのはアレス殿だけではないという事だ」



画面の向こうではスパブロの人とのランクマが映っています。


ですが、チート野郎はコントローラーを触れないのでやられっぱなしです。



「オレを殺るのはやめたほうがいいぞ……オレが死んだらお前もドカンだ……」



「俺に脅しは通用しない」



アレックスはチート野郎の話を聞きませんでした。



「お、お前……オレをどうするつもりだ……」



「決まっている。もう悪さができないよう再起不能になってもらおう」



アレックスは空いてる方の手でフラッシュチョップの構えをしました。



「再起不能!? そんな事をしたら運営が黙ってないぞ!」



「そうだな。だが、それも仕方なし。お前は私ととら五郎の大事な人の命を奪ったのだ」



「は、はぁ? 一体何の話……」



アレックスのフラッシュチョップがチート野郎に振り下ろされました。



「はぎゃああああああああ!」



天誅。チート野郎はズタズタにされました。これでは、もう二度とコントローラーを持つ事はできないでしょう。


たった今、ランクマに平和が戻ったのです



「……終わったな。さて、自首を」



アレックスが警察に行こうとした時でした。


再起不能になったチート野郎が何かのスイッチを握っている事に気づいたのです。


それはどうみても爆弾のスイッチでした。チート野郎の言ってた事は脅しではなかったのです。



「ハッタリではなかったか……!」



アレックスは逃げようとしますが、もう時既に遅し。


爆発が一体を包みました。






何日か後






「アレックス……ありがとう……チート野郎を倒してくれて……」



とら五郎はお墓の前に立ってました。


お墓はアレックスのお墓でした。



「チート野郎がいなくなってランクマは正常になった……あなたのおかげよ……」



アレックスがチート野郎を倒してからランクマに平和が戻りました。


今ではブロンズもゴールドもプラチナもダイアも、みんな楽しそうにキレながらランクマをしています。


もう理不尽にLPを持って行かれる事はなくなったのです。



「でも、どうしてここにあなたが……あなたがいないの……」



とら五郎はアレックスのお墓の前で崩れ落ちました。


膝をついて泣く姿はとても見てられません。



「戻ってきて……戻ってきてよアレックス……私あなたがいないと……」



とら五郎のマイキャラはアレックス。いや、アレックスはそれ以上のキャラだったのです。


でなければ、こんなに泣きはしません。



「アレックス……アレックス……え?」



お墓の前に赤いハチマキが落ちてきました。風に流されて飛んできたようです。



「ま、まさか!?」



とら五郎が振り返りました。



「やあ、とら五郎。ランクマをするのか?」



そこにいたのはとら五郎がよく知るキャラでした。



「アレス殿に追いつくのだろう? いくらでも付き合おう」



なんとアレックスは生きていたのです。


とら五郎のアレックスは不滅でした。



「アレックスーーーー!」



とら五郎はアレックスの元に向かって走り出しました。


これからもとら五郎の相棒はアレックスです。

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