幽霊部員は元学校一の美少女でした

華川とうふ

プロローグ 部活を作ろう!

「……あんまりうまく言えないけれど、誰もが楽しい学校生活を送れるような、そんな部活にしたいと思います!」


 俺は最後の言葉を吐き出すようにしたあと、顔を上げた。

 目の前の教師をみつめる。

 決して目をそらしてはいけない。

 これは勝負なのだ。


 こちらは本気であることを示すように。


 一点の曇りもない、青春の輝き。

 そんな光が自分の瞳には宿っていたはずだ。

 教師たちはそんな俺をみて少しだけ感心したようにため息をつく。


『勝った』


 その瞬間、俺は勝利を確信した。


「結果は、後日連絡します。しかし、君がそんなに熱意をもっているなんて正直おどろいたよ」


 教師たちは実に嬉しそうな顔をしていた。

 よく知っている顔だ。

 大人が自己満足しているときの顔。

 教師になる大人なんて、甘っちょろい学園ドラマを夢に見てきたような連中だ。

 無気力でやる気のなかった生徒がある日なにかを始めようとしたら。

 それが無害なものであれば大喜びで彼らは背中を押してくれるものだ。

 まるで、自分の第二の青春だとでもいうように。

 俺のことを失われた自分の青春をやり直すためのアバターだとでも思っているのだろう。


 大人って本当に愚かだ。


 青春がそんなに熱量を帯びているはずなんてないのに。

 特に俺たちなんて、本来得られるはずの青春の思い出とされるようなイベントが勝手に取り上げられているのだから。

 大人に期待しすぎない、自分が一番心地よくいられることに心をくだく。

 それがここ数年で俺が出した人生を賢く生きるための結論だった。


 部活なんて馬鹿らしい。

 だけれど、うちの学校はなにかしら部活に入ることを推奨している。

 強制ではないけれど、ほぼ強制。

 そんな環境でかたくなに部活に入ろうとしない俺を教師たちは奇妙なものをみるような目で見ていた。


 でも、どんな部活も正直興味がなかった。

 そもそも、高校生同士で集まって何ができるのだろうか。

 何をやってもそれはお遊びに過ぎない。

 そんなものに貴重な自分の時間を使うなんて馬鹿げている。

 勉強でもゲームでも自分ひとりでやったほうがなんでも効率がいいのだ。

 青春というものが貴重ならば、部活にはいるなんて青春の無駄遣いとしか言えない。


 だけれど、入学から三か月。

 教師たちは俺にしつこく部活に入らないのかと聞き続けた。

 勝手に自分の部活に入るように体験入部を設定してくるやつまでいた。

 こんなことが、部活に入るまで三年間続くと思うと、めちゃくちゃめんどくさい。


 そこで俺は思いついたのだ。


 なんでも俺が自分ひとりで好きなことをできる部活があればいい――そう、俺だけの部活を作ればいいと。



 だけれど、このときの俺はなにもわかっていなかったんだ。


 目の前の教師の青春の意味が。


 俺があきらめて非効率的だと馬鹿にしていた高校生という子供と大人の境界線だからある特別な世界のことを。

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