第10話 合宿を企む時!生物部は暴走する!

レプタイルズワールドのレポートを顧問の宮内先生に全員で提出し、中間試験も終わった6月。

僕の元に届いた青い封筒の中には、8月のコミエの当選通知が入っていた。


ケンチ【グルグルさん、ご無沙汰してます】

グルグル【久しぶりって言うほど、開いてない気もするけど…もしかして、コミエ当選したのかな?】

ケンチ【はい!当選通知が来ました】

グルグル【おめでとう。そして楽しい地獄へようこそ】

ケンチ【あはは、グルグルさんはどうなんですか?】

グルグル【当選したよ。まぁ、弱小なれどオンリーワンな映画を毎回セレクトして評論しジャンルてるから、受かりやすいってのはあるかもだが】

ケンチ【おめでとうございます。そこで、今後の流れ?みたいなものをアドバイスいただけたらと思って】

グルグル【まず、ジャンルは?】

ケンチ【評論・情報ジャンルで部活の報告っていうか、イベントレポートの本を出そうとしてます】

グルグル【ある意味、同人誌の王道とも言えるのが評論・情報だ。市販の雑誌も、そこからネタを拾ってたりするが、当たり外れも大きい】

ケンチ【博打的な?】

グルグル【そういう面も否定はしないが、宣伝のキャッチコピー、表紙がまずは判断材料になることは忘れないでほしい】

ケンチ【はい】

グルグル【それで、印刷するの?コピー本にするの?】

ケンチ【どっちがイイとかあります?】

グルグル【少部数ならコピー、100部以上なら印刷ってのが最初の判断基準かな】

ケンチ【どれくらい売れるのかも考えないとなんですね】

グルグル【それは、さっき言った判断材料プラス運だね。それが読めない故に苦労するし、読めない故に楽しかったり、ね】

ケンチ【やっぱりコピーかなぁ】

グルグル【あと、黒字にしようなんて言う狸の皮算用はしないこと】

ケンチ【え?ダメなんですか?】

グルグル【ダメじゃないんだけど、そこで原価計算で作業時間とか考え始めると、がんがん頒布価格が上がるから。だからって、百円だの無料だのは避けた方がいい】

ケンチ【高くても安くてもダメなんですか?」

グルグル【原価計算とか抜きにして、同人誌の値付けの意味って何だと思う?】

ケンチ【値付けの意味…?】

グルグル【それはね、自分たちの作った同人誌には、これだけの価値があるっていう表現だと思ってる】

ケンチ【価値の表現…だから無料にしちゃうとお金を払ってもらう価値もないって見られちゃう?】

グルグル【全てじゃないけどね。そういう判断をされやすいってことだね】

ケンチ【奥深いなあ】

グルグル【あとはページ数も大事だ。モノクロで1ページ10円、フルカラーだと1ページ50円とか、そういう目安もある】

ケンチ【それがわかりやすいですね】

グルグル【買い手が納得しやすい基準ではあるよね。あ、そうだ、ページ数もコピー誌なら40ページ以下が理想かな。製本が大変だから】

などなど、グルグルさんの教えはありがたく受け取った。

実はまだ幾美たちに当選の話をしていない。

こちらで予備知識を入れておかないと、グダグダ&幾美いくよし暴走になりそうで怖かったから。


とは言えど、

「というわけで、受かった。どうする?」

という切り出しになるのは仕方ない。

「つまりはページ数をもとに作成方法を切り替えるべき、と」

幾美が珍しく腕組みをして悩み始めた。

「俺としては100ページくらいの…」

「「「「ばーか」」」」」

残り全員が声をそろえての反論。

当たり前だ。

「ひとり25ページ?書けるわけないだろ!」

と、幸次こうじが怒声を飛ばしているが、グルグルさん、ひとりで100ページ近い本を出してるんだよな。無理じゃないけど、今の僕たちには無理。

「1ページを4文字にするぞ、ごらぁ」

たかし、ナイスアイデア。そんな同人誌、誰も買わないだろうけど。

「おれちゃんなら、ひとり2ページくらいにして、残りは動物とたわむれる女性陣の写真で埋めちゃうな。

きょう、ナイスアイデア。そんな同人誌、僕ら生物部以外の需要がわからんけど。

「それじゃあ、おれが成美なるみの写真、載せられないじゃないか!」

幸次が恭を指さしながら怒る。

「全員論点間違ってんだよ!」

幾美が100ページとか言うからだと思うが。

「幾美、同人誌の完成が目的なら、それでもいいけど、僕たちの目的は、その同人誌を買ってもらうところまで含むよね?」

おふざけに乗っかりたいけど、それだと永遠に終わらない気がするので、僕は真面目に進行する。

「それはまぁ、そうだな」

「しかも、初参加の高校生が作るレプタイルズプラネットの体験記なんて、需要が高いとも思えない」

「うむ」

偉そうではあるが、幾美、聞く耳をちゃんと持ったようだ。

「ひとり4ページで本文16ページ。前書きや後書きや奥付なんか入れて本文20ページに表紙が4ページとるから、合計24ページ。コピー誌で30部くらい。一部300円でどうだ!」

「じゃ、それで」

あっさり…つまり、

「わざと100ページと言ったな!」

「知らん。それじゃ、原稿分担はレポートと同様で。恭、グッズの写真をよこせ。それで1ページ俺がついでにでっちあげる。そうすれば、白紙のページ無くなるだろ」

「いいよぉ。がんがん渡しちゃうよぉ」

「恭は、コピーと製本な」

「そういう約束だもんね、いいよ」

「謙一、コピー誌のかっこいい作り方とか調べてくれ」

「はいはいはい」

もうね、この男のペースだよ。最初から狙ってやがったよ。

「あと、幸次、かっこいいBOTHのサークルロゴと表紙のデザイン、頼む」

「なんで?なんでおれ?」

「あ?美術の成績、この中で一番いいのって幸次だろ?」

「確かに、その点は異論はないが、だからって納得すると思うなよ、幾美」

結局、お互いに不敵な笑みを浮かべて睨み合う始末だ。

「んじゃあさ、全員でデザイン案を持ち寄って、その中から決めて、幸次がクリーンアップするってのは、どう?」

怖い。崇がまともな提案を。

「ど、どうした?ムリョウさんに脳改造手術でもされたのか?」

「の、のぞみさんに洗脳の術でもかけられたか?すまん、止めるように言っとくから」

「さては、レプタイルズの時、解散してあとに何かあったんだな、この野郎」

「なに!おれちゃんからしても羨ましい」

「うるさいよ、お前ら!オレが提案しただけで、なんであらぬ疑いまでかけられるんだよ!」

「「「「なんで?ってなんで?」」」」

「声揃えんじゃねえよ」

「はいはい。そんじゃ、いわゆるコンペ形式ってやつで行くか。明後日の放課後に決めちまおう」

幾美が唐突に締め始めた。

「おまえらよぉ…別にいいけどよぉ」

ひといじりされた後に採用されたんで、胸中複雑のようだが、そういう立場だからなぁ、崇って。


「そんで、様子のおかしい未来みきさん。あの日の帰りに何があったのかを白状いただけますかしら?」

いつものカフェで、いつものように3人でいるんだけど、ちょいちょいポーっとしがちな未来さんに望さんが食いついてるわけで。

「望さん、あんまりプライベートに踏み込むのは…」

「すでに儀式を済ませている麻琴まことは黙って」

「語弊がある気がする…」

色々制約の多い望さんにとって、わたしたちの動向は気になるのかもだけど。

「んー、キスはしたって言うか、なんて言うか」

突然告白始まった。

「なんで曖昧あいまいな表現なの?」

「言わなきゃダメ?」

「べつn…」

「そりゃ言うべき!」

わたしの否定、霧消むしょう

「いやね、あのあと、崇に送ってもらって、家の近所の公園で、ちょっと座って話してるうちにね、そんなムードになっちゃって」

結局聞き入るわたし。

「あと少しってところで、真正面から小さな子供がガン見してるの気づいて、慌てて離れたんだけど、その時に勢いでちょっとだけ唇同士が触れちゃったような、そうで無いような」

「じゃあ、したんじゃない」

「あたし的にはノーカンなんだけど」

「和尚的には?」

「何か浮かれた様子で電柱蹴ったりしてたから、カウントしてるかも」

カウントしてあげればいいのに…

「で、麻琴の方は」

来たよ。

「キス以上の進展はないみたいね」

「なんでわかるの?もしかして謙一から聞き出してる?」

「そんなことしない、しない。気の雰囲気?っていうか色味?でわかる」

「なにそれ?隠しようがないってこと?」

「私にはね」

「つまり、あたしの方もわかっちゃう、と?」

「うん」

「「やな女」」

「声揃えないでよ、もう」

そりゃ、先のことも考えちゃうよ。でもまだ、怖いって言うか、自信がないって言うか。

「そういう自分はどうなのよ、ルール的にキスはセーフなんじゃないの?」

「それは…まぁ…」

出たよ、攻められると弱い望さん。

「んで?」

逆襲の未来みきさん。

「セーフだけど、まだ…」

「ドS姫は、部長に命令するなり、自分から襲い掛かるなりすればいいじゃない」

「そんな恥知らずなこと、出来るわけ、ない、じゃない」

赤くなってうつむく望さん。

「こういう望さん、可愛いよね?」

「それは同意だわ」

なんか小さく、うーとか唸ってるし。

ほんと、可愛い美人なお姉さん、だね。


「ほれ、全員一斉に出すぞ」

と、幾美が仕切るデザインコンペの日があっという間に来た。2日しかなかったしね。

「まずはサークルロゴから!いっせーのせ!」

バン!

と、全員が机の上にデザイン画を叩きつける。

「デュエル!おれのターン!」

「うるさい幸次」

そもそも始まりからあおる感じで来た幾美が悪いと思うんだが。

「恭ちゃん、それ、壁の落書き」

「謙ちゃん、こういうのはグラフィティって言うんだよ」

「へー」

「どっちにせよ、読めなくないか?」

首をひねりながら解読を試みる崇。

「それが欠点なんだよね、このデザイン」

「そもそもの所から話さんといけないのか、おまえは」

幾美、こめかみを抑えてうなだれた。

大変だなぁ、部長。

「とりあえず、却下。で、崇…パロディにもなっていないパクリはダメだから」

崇、瞬殺。どこぞの有名バンドのロゴのパクリだ。さすがに僕でも判る。

「で、謙一」

さぁ、僕の自信作を…

「なぜ平仮名?」

「奇をてらいつつ、読みやすい。完璧でしょ?」

「ぼうずと誤読させたいという意図。おれには伝わったよ、謙一」

「サンキュー幸次」

「和尚がいるから、坊主か。うん、謙一帰れ」

幾美が冷たく言い放った。

「え?崇より扱い酷いって酷くない?」

「その表現から改めろ、お前は」

「和尚、うっさい。今はそれどころじゃない」

「それどころだ、馬鹿野郎」

崇に馬鹿扱いされ、深く傷ついたので、黙ります。

「うん、まぁ、幾美かおれか、勝負だな」

「よし、俺のBiological club of The Hououin-highschoolこと、通称BOTHのロゴを!」

と、裏返して置かれていた画用紙をひっくり返す幾美。

見たまま書いたまま、

Biological club

Of

The

Hououin-highschool

という捻りも何もない作品だった。

「バランス悪っ!」

崇が突っ込んだ。

「ダサっ」

恭が馬鹿にした。

「なぜ、これで審査委員長面出来るのか、恐ろしい男だ」

ドン引きする幸次。

「こんなデザインのやつに帰れと言われた悲しみを知れ!」

僕は叫ばずにいられなかった。

結局は幸次によるBOTHの各文字に蛇や鳥の羽のシルエットを盛り込んだものが採用された。


同人誌の表紙も同様に幸次のデザインとなった。流れ的にはロゴと同じような感じだったので詳細は省く。

ちなみに同人誌のタイトルは「レプタイルズプラネットに行ってきました」という観光地の饅頭のようなものに。わかりやすく、無難に、ということで。


「さて、デザインも決まったし、あとは原稿に関してだな」

あの流れで尚も仕切る幾美の面の皮の厚さは、異常だと思う。

でも、任せた方が楽なので、敢えて何も言わない。多分、他の連中も同じだろう。

「文章量的にも今月中に完了して、期末試験終わったら、コピーして製本して、当日に備える。コスも新作作りたいしな」

「スケジュール的にはそれでいいと思うけど、本文の編集はどうすんの?」

「へんしゅう?」

当たり前のことを聞いたら、専門外という反応を返される恐怖を知ってるかい?それが今だよ。

「縦書きなのか、横書きなのか?1ページの文字数やレイアウトは?文章ソフトの基本設定部分だよ!」

「じゃあ、謙一が決めていいし、担当していいよ。責任者だし」

しれっと言いやがったよ。

「幸次、あの子、絞め殺したい」

「いいけど、そこそこの罪にはなるから損だぞ」

仕方がないので幾美抹殺は諦めて、建設的な行動をするために、カバンからグルグルさんのカオス・トレジャー本を取り出す。

「持ち歩いてんのか、それ」

「僕のバイブル」

崇の問いに短く答えて、1ページ当たりの文字数を確認。

「縦書きで1行18文字の23行を2段組み。1ページ当たり、原稿用紙2枚くらいだけど、写真を入れるとなると、だいぶ文字数減ると思う」

さらにタブレットPCを取り出して、文章ソフトを起動。

「今基本のレイアウトを設定した白紙ページ作ったから、皆に送る。その中で上手く4ページになるように各自頑張って」

「な?謙一に任せると速いだろ?」

「幾美、あの投げ方で、それはないと思うぞ」

幸次、優しい男。

「いいよ、幾美は外道だから」

「ほら、いいってさ」

「外道ってこと認めやがった!」

幸次がいくら驚こうが、幾美は変わらないのだ。諸行無常しょぎょうむじょう

「コミエ前の合宿の件、それはちゃんとやってくれよ、幾美」

幸次が呆れ顔で幾美に言う。

「え?今年も合宿やんの?」

恭が驚いているが、だいぶ前にやろうって、話したんだぞ。君もいたんだぞ。

「合宿でコス作りか?」

「崇、荷物増えるだけだから、それはやらない方がいいぞ」

「そりゃそうだ。新作、どうすっかなぁ」

僕の忠告を素直に聞くのはいいけど、何かしらのフラグを立てた感が残る。

「今回の強化合宿も宿営地は前回と同じく、俺ん家の別荘。8月1日から5日まで。野鳥観察や昆虫、爬虫類採集がメイン。恭、忘れんな」

「あいあい、いつもの避暑地の邸宅ね。で、女子は?」

「あ?」

「女子。女の子。ガールズ」

「生物部の活動とは無関係、だよな?」

「レプタイルズで巻き込んでおいて、合宿は他人面?ひどくないか?と、おれちゃんは思うわけ」

全員押し黙る。そりゃ、彼女と泊りがけの旅行なんて、男子憧れのシチュエーション。

「ほ、保護者もなしに、そんなこと」

崇、興奮して微妙に論点ずれてる。

「成美は成人」

僕や幾美、崇の魂がどよめき立つ。しかし、冷静にならなければならない。僕だけでも。

「いやさ、保護者がいたって、普通、高校生女子が高校生男子との旅行、親が許すわけないじゃん」

「そういうのはさ、女子だけの旅行ですって言わせるのが普通っしょ?」

陽キャの悪党め。悪知恵働かせやがる。

「崇、ムリョウさんに聞いてみ?んで、向こうの意見まとめてもらっちゃえ」

幾美は、この蛮行ばんこうを止めるべき立場のはずだが、自分の欲望との戦いに負け始めているせいか、静かだ。

そりゃ、僕だって、麻琴と旅行したいさ。

「成美は協力してもいいってさ」

幸次、黙ってメールで確認していたらしい。

「そ、そっか、んじゃ、聞いてみる」

崇、ほんとにメールしちゃった。

それはともかく、気になったのは

「恭ちゃんはこの流れで、どうすんの?」

「おれちゃん、その時期は家族で一週間ハワイだから、合宿は行けな~い」

崇にメールさせてから、それか?

悪事を教唆しておいて、それか?

4人の恭への視線が呆れと殺意のない交ぜになったものに。

「んじゃ、原稿できたら教えてね。おれちゃん、コピーとか頑張るから。んじゃ」

と、部室を出て行ってしまった。

「あ、未来さんからメール来た」

「…で?」

「3人とも親に確認するって」

「乗り気なのか…」

喜びと後悔がない交ぜな4人。

「よし」

あ、幾美が踏ん切り付いたみたい。

「もし、女子が来ることになったら、本宅と離れで男女分けよう」

だよね。幾美の理性が持たないよな、そうしないと。

「まずは、同人誌の原稿、次に期末テスト、それからコス、そんで合宿。それからコミエだ。とりあえず、目の前のことから、一つ一つ片付けよう、な?」

と、喝を入れる幸次。さすが副部長だ。部長より役に立つ。


                   ※


「さて、男子一同が暴走しつつあるけど、どうする?」

いつものカフェでいつもの女子会をしているところに、和尚から爆弾メールが来たところ。

「私は幾美のこと信じてるし、泊りがけで遊ぶのも興味あるし、家の方は決まりを破らなきゃ問題なしな方針だから、いいわよ」

「わたしは、謙一と避暑地デートとか、憧れちゃうよ。未来さんは?」

「そりゃあ、あたしだって、健全な女子ですから、行きたくは…ある」

「だよね。未来ちゃん、乙女だもんね」

「からかうな、望」

「ふふ、実際そうじゃん」

「ねぇ、麻琴。そのコージの彼女の、成美さん?一回会えないかな?」

「うん、聞いてみるけど」

「信用してないわけじゃないけど、やっぱ、アリバイ工作みたいなこと頼むからには、信頼関係?が必要じゃない?」

「ノリノリ未来ちゃん」

「望、うるさい」

「LIMEしてみるね」

「ノリノリ麻琴ちゃん」

いちばん、浮かれてるのは望さんだとわかった。

「あ、返事来た…今から、ここに来るって」

「なにもの…」

さすがの望さんもビビるスピード展開。

と、言うことで、急遽、生物部彼女組の女子会の開催となりました。

「おーす、麻琴ちゃん」

「成美さん、急にごめんなさい」

「急に来れたのは、近くにたまたまいたボクの都合でもあるから問題ないよ」

「ボクっ娘?それに気が何か違う」

「望より幼い感じなのに、望より大きい、だと?」

何か、二人がブツブツ言ってる。

「こちらが、コージの彼女さんの本庄成美さん、だよ」

「あたしは古川未来」

「私は松本望、です」

「よろしくね。それにしても、ほんとに美少女3人組なんだね…お姉さん、嬉しくなっちゃうよ」

成美さん、満面の笑顔で嬉しそう…え?

「ちなみに、望ちゃん?変わった見方するんだね。ボク、変?」

「ご、ごめんなさい。あの、そういう家系なもんで」

「あ~なるほど、気にしないでいいよ。うん、合宿?の話だっけ。そっち話そう」

何かしら不穏な展開になりかけた?

気にしないようにしよう。わかんないし。

「要はアリバイ作りの片棒担いでほしいってことだよね?」

「はい。でも、あたしたち、ちょっと悩んでて」

「ん~、後ろめたい?」

「望は大丈夫っぽいんですけど、あたしと麻琴は」

「だよね~、親に嘘ついてまで、高校生が彼氏と泊りがけの旅行とか、悩んじゃうよね。で、望ちゃんはどうなの?二人が行かなくても行く?」

「いえ、さすがにそこまでは…」

「そっかぁ。ボクはどっちにしろ、小僧どもの食事の世話くらいしてやろうかと思うんで、行くけど」

え?そう、なんだ。

「お?麻琴ちゃん、気になる?ボクは幸次の彼女だし、保護者年齢だし、ね。でも自分の欲望が大半を占めてるけど。あはははは」

正直ストレートな人だなぁ。

「ボクも高校生の頃に、当時の彼氏と旅行、行ったよ。もちろん、アリバイだの口裏合わせだの色々やって、親に嘘ついて、ね」

「そ、それで?」

「麻琴ちゃん、食いつくね、ふふふ」

未来さんと望さんが呆れ顔でわたしを見る。

「もう、未来さんも望さんも、自分たちだって行きたい気持ちはあるでしょ!」

「そりゃあ」

「うん、あるよ」

なら、呆れた顔で見るなぁ!

「じゃあ、君たちが一番気になってるであろう話をしよう。それはバレたのか?」

3人で一斉に身を乗り出す。

望さんは、ある意味放任だから気にする必要ないはずなんだけど、多分、こっちを気にしてくれてるんだろうと思う。

「結果から言えば、親からは特に追及はなかった」

「「「おぉ」」」

「ただ、母親は気づいてたかもしれない。結局ね、母の世代でも似たようなことしてきてるから、判ってて黙ってる、なんだと思うんだよね。そこを自分の中で割り切れるかどうか、で考えてみて」

「うーん、女同士は分かっちゃうってことですか?」

未来さん、悩み気味。

「そうそう。まぁボクはいくらでも協力するよ。その代わり、ボクがどういう関係性のどういう存在なのかは、そっちで設定作ってね」

「急に出現した保護者の設定か…うん」

望さんは楽しそう。

「とりあえず、まだ日はあるから、よく考えておいて。未来ちゃん、望ちゃん、LIME教えてくれる?」

「「はい」」

成美さん、ちゃちゃっとスマホに登録。

「んじゃ、ボクは用事があるんでこの辺で」

「「「ありがとうございました」」」

手を振りながら、颯爽と店を後にする成美さん。いつの間にか、テーブルには成美さんのドリンク代が置かれてるし。

「麻琴、あの成美さん、何者?」

なんか望さんが猛烈に食いついてきた。

「何者って、ヒーローショーやってる人?」

「それ以外で」

「謙一が腕を折られそうになった」

「麻琴、君の彼氏の行動が逆に知りたい」

「え?なんか、かかってこいや、とか言ったら、瞬殺されそうになった、的な?」

「「ケンチはバカなの?」」

「二人そろって、わたしの彼氏の悪口言うな!」

「何か、格闘技みたいなの、やってない、成美さん?」

「し、し……しす…すし?」

「寿司って言われても。麻琴、お腹すいたの?」

未来さんに心配された。

「あぁ、システマね、わかった。そういうことか」

なんか望さん、納得したらしい。

「そんな相手に挑むケンチってやっぱりバカなんじゃ」

「望さん、それ以上悪口言うと、成美さんに頼んで部長の腕折らせる」

「それは質が悪い脅迫…麻琴、ますます強くなったね」

「日々二人の先輩に、凝りもせず鍛えられてるもん」

「未来、私たちは、想定外のモンスターを生み出してしまったかもしれない」

「それは人間の愚かな業とも言えるものよ、望」

「乾杯」

「乾杯」

二人でパフェグラスで乾杯してるし。

「先輩方は合宿の件を真面目に考えることから逃げてない?」

「鋭いね、未来はそうだよ」

「で、望さんは」

「私?未来に乗っかってるだけアンド麻琴の可愛い反応を愛でてるだけ」

質悪い、ほんとに質悪い。


                   ※


麻琴からの連絡で、3人とも合宿には前向きっぽくはあること。ついでにムリョウさんと宝珠に馬鹿にされたことを聞いた。

うん、ノリや勢いってのは危険で、傍から見ると馬鹿にしか見えないってことは知っていたさ。

麻琴とお泊りデート…なんてことは、さておかなければならない。

まずは同人誌の原稿だ。

だから、まずはグルグルさんに相談だ。

グルグル【あらためてコミエ当選おめでとう。初申し込みで当選とは運がいいじゃないか】

ケンチ【そうなんですか?】

グルグル【だいたい最初は苦汁をなめるものだよ。それで、本の内容は決まったのかな?】

ケンチ【ん~、簡単に言うならレプタイルズプラネットっていうイベントレポ、ですか】

グルグル【あーレププラか。確かに他にやってるサークルなさそうだし、いいかもだね】

ケンチ【それで、原稿なんて書いたことないんで、何かアドバイスを頂けたら、と】

グルグル【ふむ、ケンチくんは作文、苦手かな?】

ケンチ【得意、じゃないですね】

グルグル【極意、教えようか】

ケンチ【ぜひぜひぜひぜひ】

グルグル【呼吸困難みたいになってるからw】

ケンチ【すみません】

グルグル【自分の語り口調で虚実混ぜて書く】

ケンチ【虚実って、嘘ありなんですか?】

グルグル【もちろん。インタビューの文字起こしや、製品の取扱説明書じゃないんだから、誇張していいんだ。言ってないこと書いていいんだよ】

ケンチ【そう、なんだ】

グルグル【いつもの話口調でイイんだ。レププラに行ったことないやつを、どう誘うかを考えながらでもいい。お堅い箇条書きの説明文なんて、観光地の看板だけでいい】

ケンチ【学校提出用のレポートが元なんで、固く考えちゃって。そうですよね。砕けていいんですもんね】

グルグル【僕の本の文章だって、とことん不真面目だろ?立ち読みした人間を少しでも、笑かしたら勝ち。買ってもらえたら優勝。そんな思いさ。頑張って】

ケンチ【ありがとうございます!】

何だか呪縛が解けた気分だ。

ふざけていいんだ!

普段通りでいいんだ!

楽しくなってきた。


                   ※


「で、どうなの?あたしに来てほしい?」

「いや、その、来てほしいから誘ったわけで」

「私は行くべきよね?」

「そ、そうだね。来るべきだね、うん」

数日後の週末、4組のカップルが一堂に会し、合同デートというか強化合宿参加意思確認大会みたいになっていた。

「若さってメンド臭さでもあるよね?ボクなんか、もうストレートに欲望をぶつけるもん」

「それはそれで嬉しいけど、面倒かけてごめん」

「他ならぬ幸次の頼みだもの。そりゃ、聞くって。あはははは」

「麻琴、覚悟は決まった?」

「未来さんも望さんもわたしも行くよ。成美さんは未来さんのバイト先の先輩設定で」

「そっか、で、当の本人は何のバイトやってるんですか?」

「あたし?ハンバーガー屋さん」

きっと名物店員なんだろうな。容姿的な意味で。

「成美さん、その辺、大丈夫なんですか?」

「ボクもハンバーガー屋さんバイト、経験あるから」

「カウンターから声だけがするってやつですね」

「うん、そこまで身長低くないからね。合宿先で両足折って帰れないようにするぞ」

「そんなホラー映画あったけど、止めてください、ごめんなさい」

「ドS設定返上するの?」

「宝珠、そんな設定にしたの、そっちだよね?」

「私は嘘は言ってない。ケンチはドS…だった」

「過去形にして語るな」

「あたし、どうしたらいいの?」

「麻琴は何もせんでいいから、ね」

「完全受け…」

何か変なことつぶやいて赤くなってるな。

「で、ボクは折ればいいの?」

「それは100%違うから。そのボーンクラッシャーの停止スイッチを押せよ、幸次」

「うーん、こうか?」

と、幸次、右手で成美さんの左胸を鷲掴み…しやがった。

「ぎゃー!」

成美さんが悲鳴を上げつつも右フックを幸次の顎先に決め、脳を揺れさせ気絶させた。

「人前ですんな!」

どんなカップルだよ。幸次も変わったなぁ。羨ましいなぁ。そもそも人前じゃなきゃやってるってことなのか?停止スイッチON!を……

周りを見回すと残りの女子3人が揃って胸を押さえていた。

「「「いや、揉まないから」」」

僕と幾美と崇の声が揃った。心の声は逆のはずだが。


                   ※


ほぼ脱線したけども、強化合宿は男女8人の大所帯で行くことは決まった。

その前にコミエ用の原稿。

グルグルさんのアドバイスもあったおかげで、僕の分はスムーズに、締め切り前にあげることが出来た。

原稿データを幸次に送信して完了。かっこよく仕上げてくれることだろう。

で、強化合宿!の前に期末試験。

今回も補習回避に全力を傾ける。予定だ。

他の連中の原稿?知らん。面倒見切れん。


そして地獄の期末試験が過ぎ去った。


期末最終日、全科目終了して部室に集合したわけで。

「そういうわけで、崇の同人原稿がまだなわけなんだが」

崇の座る椅子を囲むように配置した椅子に4人が座る。

「圧力かけんなよ」

「かけさせんなよ、おまえはよ」

「とりあえず、期末前提出は終えて、幸次がこの時期に編集レイアウトを終えて、恭ちゃんに渡してコピー製本って流れだよな?」

僕はあえて確認した。

「そ、そんな感じだったよな」

「で?原稿に手を付けたのか?そもそもだが」

「なんとなく、脳裏に浮かぶ程度まで進んだ」

「それは進んだとは言わないね。うん」

予想通りの状況に呆れて笑いそうになった。

一方、幾美の瞳に殺気がこもり始めた。やばい。

「おれちゃん、ハワイでコピーしたりすんのやだぞ。英語判らないし」

あんまり英語力必要ない気もするけど、海外行ってまでやることじゃないのは確かだ。

「崇の担当は哺乳類展示紹介だよな」

幾美が声に殺意を載せてきた。

「は、はい」

敬語になる崇。

「崇の出したレポートならあるから、謙一、それを基に書き直しは出来るか?」

「うん、まぁ、不可能じゃない」

「じゃあ、頼む。崇のレポート分は後で送る」

「了解」

「崇は罰として、恭のコピー製本の手伝いと、コミエ当日の店番を開会から4時間な」

他の面々は1時間交代なので、かなり重いお裁きだ。

「何か思いついてたネタがあるなら、謙一に教えとけ」

「…わかった」

反発するかと思ったら、妙に素直。

今回は合宿という美味しいエサがぶら下がっていたので、皆、試験勉強本気でやって、赤点補習は回避したはず。

崇もかなり頑張ったと見える。要はムリョウさんと少しでも長く一緒に入れるなら、何でもいい状態なんだろう。コミエの店番はともかく、コピーまで彼女を巻き込む気なんだろうか?

「で、次のコスネタの話に移ろうか」

議長で部長の暴君は展開が早い。

「恭ちゃん、ハワイ行ったりで作ってる暇なさそうだけど、どうなの?」

「ん?受けがいいから、イオタ少佐続行するよん」

「パワーアップとかないの?」

「多分、金髪にするくらい」

「充分だと思うよ」

夏休みの男子高校生のはっちゃけ、というやつかな。

確かにアニメじゃ金髪キャラだもんな。

「幾美は?」

「バスターワンのニンジャモードにしようかと」

「貫くなぁ」

「好きな映画でキャラだしな。夏で暑いから軽装のニンジャモードにする」

「どっちにしろ、黒づくめで暑い気がするけど」

「上半身ほぼ鎖帷子だから、涼しいはずだ」

「網目日焼けという間抜けな状態を心配してあげよう」

「海にでも行って焼き直すさ」

その焼き直す姿が間抜けだと思うが、言うと殴られそうだから言わないんだ。

「幸次は?ヒーローショーの衣装でもこっそりやるとか?」

「それは大変な事件になるから、やっちゃいけないことだ」

「そうなんだ。で、結局は?」

「電撃プラズマクロスの主人公ガイ。成美にアンドロイドレティをやってもらう」

10年くらい前の特撮ヒーローものだ。

「カップル合わせだと?」

なんか幾美が立ち上がって叫んだ。

「わめくな、やかましい」

「幸次、大方、宝珠に断られたんだよ、あ・わ・せ」

「そうですか、それはざんねんですね。あなたにすごくどうじょうします」

幸次、幾美に無感情棒読みで同情を示す。

一方、恭が崇を指でつついている。何いちゃついてんだろ?

「ほら、崇、順番が来たぞ」

と、つんつん突っつく恭。

特に次が崇でなくてもいいんだが、そこまでいちゃつくなら仕方がない。

「ウザイってば、お前は!」

と言いつつ起立する崇。

「何事だ?」

うるさくなりそうだった幾美も怪訝けげんな感じに。

「オレ、未来さんとのクールバディラブ合わせで女装する」

あぁ、クールバディラブって女だけの刑事バディもののアニメだからか。

「そうか、がんばれ」

「汚い姿晒さらすなよ」

「ムリョウさんにちゃんとメイクしてもらうんだぞ」

「おまえら、もう少し驚きとか、なんかないのか!」

「彼女公認でしかも合わせなら文句言わねぇよ」

「俺への嫌がらせじゃないなら、好きにしろ」

「気にしてほしかった?止めてほしかった?止めなーい」

と、僕は言って差し上げた。

寛容かんような友人たちと思わせて、一生ネタにしてやる気満々だ。

もし結婚披露宴でもやろうものなら、等身大パネルにしてウェルカムボード扱いにしてやる。

「で、当の謙一は何やんだよ」

彼女と合わせられなくて不機嫌な幾美が聞いてくるので

「バッケモンスターのクローやるよ。麻琴はホーガンやるから」

人気ゲームの悪役男女コンビである。

「お前もカップルコスかよ!」

うるさいなぁ。別に振られたとかじゃないから、イイだろうに、もう。

とにかく、終業式くらいまでに崇の代原書いて、合宿までの一週間くらいでコス仕上げて…ホント忙しい。夏休みの宿題なんかやる暇ないなぁ。


                   ※


黒沢幾美、コスチュームを作る。PART2

コスチュームはSF映画「スターエンブレム0 Part2」のバスターワンのニンジャモード。

黒マントに黒フード、全身アーマースタイルから、硬質な黒マスクに上半身は鎖帷子、下半身は太もも部分が太くなっているパンツに。武器は脇差風のレーザーソードを2本。

1作目で出番5分くらいの脇役キャラだったのに、続編でも登場。でも出番は10分くらい。

マスクはサバイバルゲーム用のマスクに硬質ウレタンでパーツを増やして、それっぽく。

鎖帷子は網目生地のTシャツがあったので、それを利用。袴は作業服専門店でニッカポッカをゲット。靴は前回のブーツをそのまま流用。

武器の脇差は子供用の光る剣が長さも短く、それっぽかったので採用。

今回はこうさくパートがマスクくらいなので楽をした気分。


                   ※


村上幸次、コスチュームを作る。PART2

コスチュームは特撮番組「電撃プラズマクロス」のガイ。そして相方のアンドロイドレティを本庄成美。

それぞれ変身後ではあるのだが、この作品は変身と言っても、普段の衣装に胸部アーマー装着されて、頭にヘッドセットを付けるだけで素顔そのままの低予算番組。

ヘッドセットは輸入雑貨屋で見つけたそれっぽいだけでなく、ホントに通信機能もあるヘッドセット。ただ、通信可能範囲が互いに見える距離くらいしかないオモチャである。

ガイの上半身は鮮やかなブルーのタイトな長袖シャツに胸部アーマーを付けただけ。

似たような色合いのシャツをゲット。アーマーはウレタンフォームで作成。形状もモールドも単純なものなので、さほど苦労せずに作成。ただ、左胸の部分の直径10センチくらいのクリアブルーの発光部がある。アクリル板で発光部自体の再現は出来たが、直径の大きな発光部ゆえ、発光させるギミックに悩み、一旦オミット。合宿後に余裕があれば何か…という感じで。

一方、アンドロイドレティは、アンドロイドという設定故か、シルバーの全身タイツに上半身は真紅のベスト、下半身は黒いレースのひざ丈スカートという、中々な衣装なのだが、特に成美は嫌がることなく、引き受けて、自分で作るとまで言ってくれた。普段からヒーローショーで全身タイツを着慣れているからなのかは、あまり追求しない方が良さそうなので、ありがたく現状を受けれる。アンドロイドレティもガイと同じ胸部アーマーが必要なのでが、成美の胸のサイズがかなりアレなので、自分と同じ感じに作ると浮く気がする。

男装コス用の胸潰しインナーとかあるらしいから、調べてみよう。


                   ※


金平崇、コスチュームを作る。PART2

コスチュームはアニメ「クールバディラブ」のエリザ。

未来さんに押し切られて女装する羽目になった。スーツスタイルのキャラだし、ウィッグやらメイクも全部準備してくれるって未来さんが言うから…バディのシュンメイを自分はやるって言ってるし、衣装がチャイナドレスでそのコスの未来さん見たかったし…多少は女装に興味あったし。あ、これはあいつらに言ったら生涯いじられるから、秘密にしなきゃいけない。

自分が準備するのは小道具で二人が所属する強襲課のバッジと、銃がエリザが44オートマグというデカい拳銃でシュンメイがスコーピオンっていうサブマシンガン。どっちも癖が強いが、エアガンで販売してるモデルのなので入手に困ることはない、はず。

バッジは前回のノウハウを生かし、パソコンで図柄を作成して、透明フィルムにプリントしてバッジの形状にカットしたアクリル板に貼り付けて完成。


                   ※


進藤謙一、コスチュームを作る。PART2

コスチュームはゲーム「バッケモンスター」のクロー。麻琴はペアキャラのホーガン。

黒ツナギに黒いジープキャップ。ツナギの全身には蛍光色で稲妻のような模様が入っているのがクローとホーガンの共通コスチューム。

髪型がクローが蛍光ブルーのロング、ホーガンが蛍光ピンクのショート。

麻琴に髪を切るのかと訊ねたら、ショートウィッグに今のロングが収まると聞いて驚いた。

前回と同じ作業服専門店でツナギとキャップもあったので購入。ウィッグは専門店で麻琴に見立ててもらった。目がチカチカするくらい、色とりどり長さとりどり髪型とりどりなウィッグの奥深さを知った。

ツナギの模様はウチの裏庭にブルーシート敷いて、二人で頑張って描いた。

小道具はバッケモンと呼ばれるお供の妖怪だが、全種類、いろんなサイズでぬいぐるみが販売されているので、入手には困らない。

僕、クローはテケテケという上半身だけのウサギ。麻琴、ホーガンはクネクネという真っ白いタコ。可愛いかどうか微妙だが、キモイのは確かだ。


そんなこんなで予定が進んでいく中、僕の誕生日という、個人的イベント前日。

明日は僕のウチに麻琴が来て祝ってくれるという。

「料理をたくさん作っておくから、二人で楽しみなさい」

という母の言葉に、期待やら不安やら欲望やらが複雑に僕の中で混ざりあう。

そこに

「責任取れないようなことはしない。わかった?」

と完全に見透かしたような注意まで受けてしまった。

どうしよう…ほんと…

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