第6話 新学期!吉か?凶か?
「で、
「用事があるとさ。まぁ、多分、
「謙ちゃんが?マジかよ」
「あいつ、家の用事の時は、ちゃんと家の用事っていうからな」
「何その推理力。怖ぇなぁ。イクミンは」
無言で拳を振り上げる
「やめろよ、悪い悪い。んで、
明らかに口先だけだとわかるレベルの謝罪をする
「なぁ、ホントに誘うのかよ、コスイベでも無いのに」
不安そうに天井を見上げる
幾美、恭、崇の3人が珍しく
「このままオンラインメインで、たまーにイベントで会うレベルで、何か進展があるとでも?」
「ま、あったら凄いよね。ということは謙ちゃん、異常に凄くね?」
「ありゃ、向こうが押せ押せだったからな。それにしても
「崇だって、ムリョウさんに気に入られてんじゃん。おれちゃんも羨ま嫉むぞ」
「普段から女子と遊んでるお前に、んなこと言われる筋合いはない」
「へん!おれちゃん、今は宝珠一筋だもん」
「その割には嫌がられてる気がするがな」
「
「お前のポジティブシンキングは一周回ってストーカーに近いよ」
「別に裏アカ探したり特定作業とかしてないし」
「他ではしてんのかい!」
当然スルーされる崇のツッコミ。
「で、ムリョウさんとはどうなんだ?」
「幾美が人様の恋愛に首突っ込むの珍しいじゃないか。気になるか?オレの動向」
「で?」
「少しはオレと会話しろや」
「用件だけでいい。で?」
「…別に何もないよ。オンラインだと、だいぶ打ち解けた感はあるけど」
「ヘタレだなぁ、呼び出して押し倒して、男見せろ」
他人事なので好き勝手無茶を言う幾美。
「は・ん・ざ・い・だ」
「流れによっちゃ平気だよ」
「チャラ男の犯罪自慢もいらん」
「そんな無理矢理じゃないから犯罪じゃないよ?流れだよ、なーがーれ」
「幾美、うるさいライバル黙らせろよ」
「俺に説教すんな。お前に
「和尚ネタ引っ張んじゃねえ」
「ん?断るが?」
結局、この3人、何をわざわざ集まってギスギスしているのかといえば、時は謙一と
謙一からの、
「さ来月の5月に開催されるレプティリアンプラネットに真理愛さんが興味を持ったので、他の2人も誘うべきかと愚考する故、ムリョウさんと
という提案にのって、作戦会議をしようとしたら、タイミングが悪く5人揃わなかったという流れ。
件のイベント、開催は土日の2日間で、部活としていくので、前々から初日の土曜日に行くことに決めてあったもの。
急な割込み案件とはいえ、
幾美と恭にとっては、幸次というライバルがいない今日こそ、優位を取るチャンスとか思ってるし、崇は扱いが微妙なれど、積極的に構ってくれるムリョウは
「なんだかんだ毒舌でも、LIMEのID教えてくれちゃうし、宝珠って優しいよな」
「おまえがしつこいから嫌々だった気もするが?」
「そういうマイナス思考が恋愛では敗北フラグ、だぜ」
ビシっと幾美を指さす恭。
「うん、お気楽思考よりはマシだと思うけどな。結局全員に教えてたし」
「とりあえず、オレからムリョウさんに呼びかけるぞ。いつまでたっても始まりゃしねえ」
と、崇がグループIDに書き込み
和尚【5月に生物部で必ず見学に行っているレアな動物の展示販売イベントがあるんですが、ご一緒にいかがですか?真理愛さんが行きたがってるとケンチから聞きました】
「へぇ、そんな頭よさそうな文章書けるのに、どうしてお前は…」
「悪口止めろ」
ムリョウ【ふーん、うちも犬飼ってるし、そういうの見に行くのも面白いかもね】
「返信早いな」
「和尚待ちだったんじゃね?」
「え?そうなのか?」
実際は真理愛からのデート報告待機だったとしても、まさに知らぬが仏。
和尚【ですよね?5月の第2土曜日なんですけど、場所はサンコスと同じところ】
宝珠【私はハブられるのかな?】
唐突な宝珠の書き込み。ムリョウと同じく待機してたから、なんだが。
「やっべ、おれちゃん嫌われちゃう」
「いまさら…」
キョウジ【んなことないっすよ。ちゃんと誘うつもりだったし。和尚の話が終わったら】
宝珠【もしかして一緒にいるの?】
キョウジ【部長とおれちゃんと和尚の三人だけど、一緒にだべリング】
「やっべやっべ、セーフかな?かな?」
ムリョウ【なぁ部長、部活的には部外者呼んで問題ないの?】
部長【問題ない。部活といえど、部員が自主的にルーティンにしてるだけで、学校からの指示や援助はないから】
ムリョウ【真理愛が乗り気なんだもんな。OK。あたしも行くわ】
宝珠【私も参加する】
「よっしゃ!」
「必ず戦いの場が例のビルになるのは運命なのかね」
「
「もう、なんかそんな気になってくるわ」
部長【集合時間はまた調整して連絡する。あと入場チケットはこちらで手配しておくので、ご心配なく】
ムリョウ【りょーかい】
宝珠【3回目ね。お手並み拝見するわ】
「相変わらずだな宝珠さんは。よく口説こうと思うよな、お前ら。ホント、ドMか?」
「綺麗なバラには棘があるっていうだろうが」
「ありゃ棘じゃねえ、毒針だ」
「…初めておまえのツッコミを上手いと思った…恥ずかしい」
「恥じゃねえから」
「さ!大事な用事は終わったしゲームでもする?しちゃう?」
「まだ、4月の新入生勧誘の件があるだろうが」
「そんな大事な話、俺ちゃんと崇相手にしてどーすんのよ。ちゃんと謙ちゃんと幸次としなきゃ」
「口に出してそれを言えるのが凄いよな」
「自分を知ることから始めてるから」
胸を張る恭。
「確かにな。新学期始まってからでもいいか」
「諦め早っ!」
「俺はスマッシュ兄弟をやりたい」
「しかもゲームソフトをリクエストだと!」
「うるさいな、和尚。帰れ」
「恭、何とか言えよ」
「OK、スマッシュやるべ」
放置も退場も嫌なので、崇はそのまま流されるようにゲームに没頭した。
※
望【私、別に彼らのこと嫌いじゃないもの。恋愛対象ってのが中々困難なだけで。未来こそ、和尚どうする気?】
未来【どうしようか?面白いんだよね、あいつ】
望【未来の方が酷いと思う】
未来【麻琴ほど沸騰しやすくないんで。まだ知り合って1ヶ月ちょいだよ】
望【まぁね。SNSでのやり取りが多いと、その辺、よくわかんなくなるね】
未来【でしょ?…あ、麻琴から】
……
…
未来・望【【以上じゃない!】】
明けて4月。新年度で新学期。
生物部の5人は2年生になり、女子チームはそれぞれ3年生、2年生、1年生となった。
始業式も終わり、ホームルームも簡易な自己紹介くらいですぐ終わった。ちなみに風紀や美化やらの委員だが、生徒会が全権を持っており、フレキシブルに役割を交代でこなしていき、必要とあれば、各クラスから人員を引っ張りこむ、通称、
クラスに決定権を与えると、委員の役割の押し付けによる不公平、怠けを助長するので、生徒会役員が自己責任によって、スカウトする形をとっている。徴兵された側は、その時限りでもいいし、生徒会役員として活動を続けてもよいことになっている。徴兵する方もされる方も、功績が内申に響くようになっているのも、この流れを維持できている理由でもある。
さて、そんな高等部の校舎奥にある生物部室。
いつもの5人が揃った。
僕と崇、ドM3人衆がそれぞれ同じクラスになった。
「さて、我々生物部も新入生を引きずり込む時期が来た」
幾美がろくでもない演説を始めた。
「そこで、3日後の部活勧誘会に向けて、どういったアピールポイントで新入生を
「騙す前提やめろ」
「僕たちは幾美に騙されてるってことなのか?」
「おれちゃん、別に新入生いらないし」
「生き物好き探すのか?レイヤー探すのか?」
それぞれの声を聴き
「お前らネガティブなことしか言えないのか?」
と、自分が一番自分を見えていないようなことを、のたまい始めた。
宝珠さんに惚れてから、一段とおかしくなってるな。
「じゃあ、幸次。お前なら、どう誘う」
「平然と進めんな。前提条件やめろって言っただけだろうが」
「よし、謙一」
「うるさい、詐欺師め。脳がスギ花粉と受粉でもしたのか」
こういう圧政には、きちんとレジストする。
普段から、そうしろっていう話だが、それはともかく。
「受粉なぞするか!部活勧誘は2年生の仕事だし、うちは2年生しかいないんだ。今年新入生いれないと、来年度で実質的廃部になりかねないんだよ」
「そんな決まりあんだ。へぇ」
恭ってば、他人事のように…
しかし、小中高大一貫教育の我らが学校。同一の敷地内にすべての校舎があり、隣の校舎が中等部。
そこにも生物部があり、真面目な部長、
内部進学だろうから、そのまま生物部に来てくれるはずなので、廃部はないと思うんだけど。
かつて幾美と幸次は、中等部の生物部で好き勝手な活動ができないフラストレーションを溜めていたが、高等部の生物部の自由さに憧れ、進級するまでと耐え忍んでいたらしい。
そこまでするようなものかとも思うが、なんとなく帰宅部だった中学時代の僕よりは、よほど楽しい生活だったのだと思う。
そんな中等部から、イジメの激しさが増した高等部に至り、僕は友人のいる生物部という部活に逃げ込んだというわけだ。で、気づいたら、恭が来て崇が来てくれた。
嬉しかったし感謝もしてる。言わないけど。
「今時、生き物好きなんて、いないよな」
崇のマイナス発想。
「おれ達の存在否定すんな。仏教崇拝禁止するぞ」
「勝手にしてろ、オレには関係ないだろうが」
「じゃあ、ムリョウさんに言うから」
「や・め・ろ」
楽しいなぁ、崇劇場。
「崇、全身にお経を書かれたくなければ会議中は静かにしてろ。耳もがすぞ」
幸次が副部長らしい?注意を!
「オレが悪いのかよ!」
うるさいなぁ、崇劇場。
「まずは部長が意見を出すべきだと、僕は愚考する」
「最もだと、おれも愚考する」
「あはは、おれちゃんも愚考しよ」
恭の場合は「考える」ではなく「行う」だが。
崇は
「俺から?…めんどくせえ」
本音出てるぞ、愚長さん。
「もうさ、謙ちゃんの作ったコミエの動画、流しちゃえばいいじゃん」
「生徒会と職員室のダブル呼び出しに、恭は行きたいのか?」
「え?嫌に決まってんじゃん、イクミン」
恭が脳天に幾美からの拳骨を食らっているさまを眺めつつ、
「んじゃあさ、幾美が首にアオダイショウ巻いて出て、これが平気な奴、来い!って言えばいいじゃん」
と、もうひとボケ追加したら
「よし、採用」
あれ?
「インパクト、選別、ともに出来るから、採用する」
まぁ、いいや。怒られるのは幾美だろうし。
幸次も恭も崇も同意見らしく、口をつぐんだままだ。
「それはそれでいいとして、5月のレプティリアンプラネットだ。万が一、新入部員が入った場合、連れて行くのが基本なはずだが、コスプレサイドの女性陣に会わせるべきかどうか、だ」
幾美がわざとらしく腕組みをして、再び演説をし始めた。
「俺としては、隠すこと自体、不可能だと思うので、本人が嫌がらなければ巻き込むしかないと思ってる」
「これ以上コスプレ絡みで人を増やすのは色々限界だと、僕は思う」
「ほぉ、リア充の分際で、こちらへの気遣いとは」
幾美からの理不尽な扱いに、僕は泣きそうだ。
しかし、負けてはいられない。
「そういう独裁的で独善的な態度は良くないと思います。宝珠さんに言いつけます」
「謙一、口喧嘩に核兵器持ち出したら終わりだぞ」
くそ、崇にたしなめられるとは!
「あ、そうだ」
幸次が急に口を挟んできた。
「なんだよもう、お前まで」
「いやね、春休み中に彼女出来たんで、おれ、宝珠さん争奪戦抜けるから」
ライバルが減った嬉しさとリア充誕生の悔しさに幾美はオーバーヒートしたらしく、崩れるように椅子に座りこんだ。
仕方がない。同じリア充として話を聞くしかないではないか。
「え?誰と?」
「ほら、こないだのショーでピンクやってた娘…あ、顔は見てないか」
「そっか、では、あの時すでに?」
「まぁ、そういうことだ。まずは幾美と恭にはちゃんと言わないといかんと思ってな。今まで黙ってた」
「素晴らしい。今度写真見せて」
「おぅ」
幾美、フラリと立ち上がった。
「なるほど、幸次君。そ・う・で・す・か」
幾美、まだおかしい。
「なーる、おれちゃんとしてはライバルが減るのは歓迎しちゃう。しかもきちんと相手が出来たってのなら倍歓迎」
恭はチャラくて適当気味だが、根はいい子なんです。
恭は正直、わざわざ宝珠さんを狙わなくても、リア充生活は可能な存在なので、残されしは幾美と崇だけとも言える。ただ、崇はムリョウさんの玩具と言うか手下と言うか、そんな存在ではあるので、結局、いまいち宝珠さんとの距離を詰め切れていない幾美が一番焦っているのだろう。
なんて考察が出来るのは自分がリア充であるゆえの余裕なのだろうか?色々怖いから黙って思うだけにしよう。
※
そして部活勧誘会当日。
講堂に集まる新入生たち。
ホントに首に蛇巻いて
女性教師や新入生の一部から悲鳴。
壇上に怒り顔で上がってくる、学年主任でもある教師・岡中。
逃げる幾美。
なんだか爆笑している生徒会長。
幾美以外の生物部員は危機管理が出来ているので、講堂の後ろの方に控えていました。
「案の定だね」
「コスプレするようになって、あいつ、知能下がったよな」
「あとで呼び出し来るんじゃねえの?オレ嫌だぜ」
「ナイスキャラになったよね、イクミン」
で、翌日、生物部5人呼び出しを食らうの巻、であった。
放課後に岡中の説教を一時間受けた後、部室に戻った僕たちの目に留まったのは、一人の新入生らしきやつ。
「あ、生物部の方ですよね?」
「まぁ、そうとも言うね」
説教が効いているのか、返答が大人しい幾美。
「入部希望です」
「可哀そうに。誰かに強制されたのかい?」
幸次が心底同情するような声色で言う。
「いいえ。あの、サンコスでコスされてましたよね?」
隠す間もなく身バレしてる恐怖。
「し・て・た…ね」
「ははっ、おれちゃんたちのこと、会場で見た系?」
「はい。写真も撮らせてもらったんですよ」
と、見せてきたスマホの画面には、僕たちだけでなく女子3人も一緒に記念撮影したときの様子が映し出されていた。
「で?生物は何が得意なのかな?」
お、部長さんらしい発言。
「いえ、特には何も」
雲行きがおかしい返答来ました。
「全般いけるってことかな?」
「いいえ、興味ないです。コスプレに興味があったんで」
「そうか。うちは生物部だから。コスだけならアニ研とかに行ってくれ。あるかどうかよく知らないが」
「え?でもレイヤーなんですよね、みなさん」
「生物部が部活動、コスはプライベートな趣味、わかるか新入生」
それだと、2名ほど退部すべき部員がいるが黙っておこう。
「わかりました。他探します。でもイベントでは声かけさせていただいていいですか?」
「もちろんだ」
「失礼します!」
「幾美、いいのか?新入生逃して。入れちゃってから洗脳する流れもあったろうに」
幸次も不穏なこと言う。あ、そもそも騙すとか言ってたのは部長本人か。
「来年、生物部が消失してコスプレ部が出来ても、嬉しくないし、そもそも望んでない」
退部すべき部員の片割れがツツっと前に出てきた。そして偉そうに腕組みをして喋り始めた。
「しかし、首に蛇巻いた奴の呼びかけなのに、よく来るよな、コス好きとは言え。ま、オレたちのレイヤーとしての魅力があっての」
「とりあえず辻説法やめろ、和尚」
「つじせっぽうって…」
幾美は何か言いたげな崇をバッサリ切り捨てて続けた。
「部員に関してはポスター掲示期間も、まだまだあるし、あせっちゃいない。それとレイヤー活動に関しては、個々人の趣味ってことで、新入部員にはすぐには明かさない。来月のレプティリアンプラネットは新入部員がいたとしても連れて行かない。以上だ」
岡中に叱られて逆に目が覚めたのか、元の幾美に戻ったようだ。前と言ってることが真逆になったし。
でも僕にはわかる。宝珠さん争奪戦のメンバーが減ったのに、また余分な挑戦者を増やす機会を今は作りたくないという、奴の下種な欲望が。
男どもに新学期が来るなら、当然女子たちにも来るわけで。
※
先月卒業して、今月入学した結果が、隣の校舎に移動するだけってのは、正直味気ないというか、変化に乏しいというか、そんな高校生活のスタート。
外部からの入試組も交えて、新たに構成されたクラスの面々。見知った顔もいれば、お初の方もいる。
で、わたしの今後なんだけど、見知った顔のいる中で、いきなり高校デビューというのも痛々しいし、絶対無理が出るので、今までよりは、少しとっつきやすい娘になりましたよ!くらいが丁度いい。という指令を望さん未来さんから受けている。
まあ、わたしとしては、彼氏…も出来たことですし、少し浮かれ気味の新学期、新学年ではあるのは否めない。
でもそこは抑えるようにしないと
「冬眠明けで春に浮かれた小動物か!」
と
傍から見ると、そう見えるらしいので、頑張って抑える。
ホームルームでの自己紹介(とりあえず、コスプレのことは言わない)を済ませ、配られたプリントの中にあった、心行院女子高等部の部活リストに目を通す。
生物部、ってないのか。確かに中等部にもなかったし、女子で生物部やりたがる奇特な方は現役の中には、いないみたい。
そして下校時、新三年生の未来さんと新二年生の
「確かに生物部ってずっとなかったな」
「例えあったとしても、
「望、それエロくない?」
「そう受け取る方がエロいの」
「あはは、で、麻琴はどう受け取った?」
「うるさい!とにかく、少しでも生物に詳しくなって、ケンチを見返すの」
「マウント取りたがり女、嫌われるぞ」
「そもそも生物部に入ったら詳しくなるんじゃなくて、詳しい人が生物部に入るの。金づちが水泳部に入ったって追い出されるだけでしょ?」
ぐうぅ、言い返せない。
「でも、あの生物部は詳しくないのが二人もいるんだから
「ほらぁ、キョウジとか和尚みたいの、いてもいいんじゃん」
「ああ、なりたいのか?」
わたしは未来さんの一言で冷静になった。
「…いいえ、アレには、なりたくありません」
とりあえず、いつものカフェで一息つく。
「結局麻琴は帰宅部かな?」
「うちは部活強制じゃないし」
「ふたりとも帰宅部?」
「あたしは日本画部の幽霊部員」
「私は書道部の幽霊部員」
「結局幽霊部員なんだ」
「要は、文化祭の時になんか作品出してやりゃいいの」
「え?じゃあ、去年出してたの?」
「あたしは麻琴の肖像画を展示」
「私は栗原麻琴ってフルネームを草書体で書いて展示」
「聞いてないよ」
「「言ってないよ」」
「あのね、世の中にはモラルってあるでしょ?」
「あのね、世の中には萌えるってあるでしょ?」
「私たちは、それを形にしたに過ぎないの」
ああいえば、こういう…もう。
「じゃあ、見せて」
「部に寄贈したから、部室に行けば見れると思うよ」
「同じく」
部室に行くにしても、この二人はいないだろうし、行ったところで、自分の名前や肖像画が見たいとは言いづらい…。
「で、麻琴はケンチとの進展具合はどうなのかな?」
「新年度の最重要確認事項よ」
「別に、遊園地以降は会ってないし」
「破局?」
「違う!毎日メールしてるもん」
「なるほど、お預けか。男子高校生にとっちゃ酷だねぇ」
「罪な女よね、麻琴ってば」
「ちょ、ちょっと1週間くらい会ってないだけじゃん」
「向こうも可愛い新入生と…」
「浮気?本気?」
「…男子校ですけど?」
「「性別が、何か?」」
腐ってる。この先輩たち腐ってる。
「ま、ケンチを狙いそうなのは部長かキョウジだよね」
「わかるわぁ。あの二人、私に来ないでケンチに行ってくんないかな」
最低なこと言いだした。
「ケンチは渡しません」
その瞬間、顔を真っ赤にして、口元を両手で抑えた二人が、わたしを凝視した。
「え?な、なに?」
「渡しませんって」
「あらあら、すっかり奥様になられて」
しまった、とんでもないことを二人の前で言っちゃった。
わたしは黙ってうつむき、嵐が過ぎ去るのを待つことにした。
※
その日の夜。
麻琴【あのね、キョウジと部長って謙一さんのこと狙ってるの?】
いきなり変なLIME来た。
原因に予測は付くけど、どう答えよう…
麻琴【宝珠と四角関係?】
妄想を止めさせねば
謙一【はい、僕はノーマルですよー。だーから、君と恋人同士になったんだよー】
麻琴【でも、相手が両刀?狙われてたらイヤじゃない?】
謙一【そりゃイヤだけど、実際は、んなこたぁないから】
麻琴【ならいいけど】
謙一【ムリョウ&宝珠の洗脳大作戦に、あんまり引っかからないでね】
麻琴【む!作戦だったのか】
謙一【多分ね】
麻琴【気を付ける】
ほら、洗脳されやすくて心配だ。
謙一【そんな腐った話はともかく、大ニュースがあるのだ】
麻琴【なになに?】
謙一【コージに恋人が出来て、宝珠さん争奪戦からの撤退を宣言】
麻琴【まさか、謙一さんが】
謙一【部内カップリング妄想禁止な】
麻琴【違うならいい】
謙一【あのときのショーでピンクやってた
麻琴【そっかぁ。じゃあ、この前のお返し、どうしよう】
謙一【みっちーくん絵葉書を与えたしなぁ】
麻琴【ショーのお返しに二人でダンスする?】
謙一【恥はかけるわ、嫌がらせになるわ、最高だね】
麻琴【怒るぞ】
謙一【絶対得意ではないよね、ダンス】
麻琴【そうだけど…】
なんで特攻して
謙一【よそ様はともかく、僕としては麻琴さんとまたデートしたいんだけど】
麻琴【あwせdrftgyふじこ】
タイプミスが酷い。LIMEだから携帯だよね?なぜ?
麻琴【デート?またしてくれるの?デート!】
謙一【そりゃしますよ。恋人でしょ?】
これが正しいのかはわかんないけど、会いたいから会える時に会いたい。ただそれだけ。
麻琴【そっか、そうだよね】
謙一【日々を生きる希望になるし】
麻琴【大役だね】
謙一【大好きだからね】
麻琴【わたしも】
こうしてバカップルの夜は更けていくんだよ。
※
生物部室のドアがノックされ、近くにいた崇がドアを開け、応対。
「部長!中等部の生物部が来たぞ」
「ふーん」
「うん、相手してやれよ。直系の後輩だろ」
そこまで言うなら、お前がやれという空気を醸し出す幾美にめげず、崇は中学生たちを奥へと追いやった。
「ほら、入れ入れ。そんで取り囲め。逃がすな」
適当な対応をしようとする幾美の元に、中学生を追いやる崇。中学生可哀そう。
ちなみに幾美が適当状態なのは、春になったのに食が細いアオダイショウを気にして状態チェックしているから。
「あの、先輩」
勇気を出して幾美に声をかけたのが中等部の生物部の部長になった
「中等部の方は新入部員が入りましたので、紹介に来ました」
「高等部の方は入ってないのを知ってるのか」
「まぁ、そりゃ、宮本先生に聞きましたし」
宮本先生ってのは中高両方の生物の授業を受け持つ教師で、両生物部の顧問でもある。
「宮本さん、いらんことを…」
「以前からお願いしてる、敷地内の日本タンポポと西洋タンポポの分布状況調査、いい加減、手伝ってくださいよ」
「やだよ、草に興味ないし」
「長年、生物部の課題じゃないですか!」
「だって高等部はずっと協力してなかっただろ?」
「だから、協力してくれれば、もっとスムーズに進むんですよ」
「何事も強制はよくない。好きな生物のことを極めていくのも生物部員の在り方だぞ」
「活動費が学校から出てるんですから、少しは課題もあるべきじゃないですか!」
中学生の長谷君が高校生の幾美に好き勝手言えるのは、高等部の生物部の伝統に慣れちゃったし、敬語使う気にさえなれない酷さってのもあるし。
なので、長谷君、崇や恭とは口をきこうとしない。格下扱い。恐ろしい子。
「同じ生物部ではあるが、高等部と中等部は別だ。そこはきちんと垣根を作れ。知識的な協力はいいが、さすがに活動内容にまで口を出すな」
「ちゃんと部活をしてる人が言えば、カッコ付くんですけどね」
多分、中等部の生物部時代から、真面目にやらなかったんだろうな、幾美と幸次。
そろそろ、止めるべきかなと思案していると、恭がフラリと入ってきた。
「おぅ、長谷ちゃんじゃーん。元気?」
「…はい、まぁ」
「お?可愛いの連れてきてんじゃん?新入部員か?」
長谷君、恭による空気の変質と新入部員への魔の手の可能性を考慮したのか、
「こっちが岩村で、こっちが桑田です。それじゃ、失礼します!」
新入部員も紹介もおざなりに出て行ってしまった。
「
ケラケラと恭は笑っている。
僕と崇は爆笑。
ちなみに幸次はアクションショーのバイトの練習会があるからと、先に帰っていて不在。
なんか、時間のある時に集まって、アクションの練習をしたりするそうで。それにも増して、彼女との時間を作りたくもあるんだろう。気持ちは痛すぎるほど判る。
「で、長谷ちゃん、何で慌ててたん?」
「おまえに新入生食われると思ったんだろ」
幾美ってば、どストレートに言うし。
「いくらなんでも、中1には手を出さないよ」
と、性別が問題じゃないような答え方をする恭。
麻琴さんに禁止した部内妄想カップリングが現実になりかねない恐怖と、僕は今後戦わなくてはいけないのか?
※
コスプレネーム:ムリョウこと
17歳の高校三年生らしく、恋愛の悩みである。
気になる、というか気に入った男性が出来たのだ。
年下だし、イジラレキャラだし、頭いいのか悪いのかわからないし、不安要素が多いのだが、肩ひじ張らずに付き合える、そんな感じのする奴。コスプレネーム:和尚こと
出会ってからずっと、和尚呼びだったが、先日、思い切って本名を聞いてみたのだ。自分の本名もその時に教えた。
出会って2ヶ月。実際に会ったのは2回。あとはオンラインでのやり取りのみ。
女子高通いで、お姉さまキャラなのは自覚してるし、実際、そんな感じでふるまってもいる。身近な異性だった兄も結婚し、甘える相手がいなくなったのも大きいかもしれない。
そんなことはさておき、
「麻琴に先越されたから、
「そんなことを下級生に相談してる時点でダメだと思うけど」
「相談じゃない。愚痴ってるだけ」
「じゃあ、聞かなくてもいいわよね」
「友人の愚痴は聞いてくれるべきだと思う。まして先輩後輩なら」
今日は珍しく麻琴抜きで、望とお茶してるわけで。
「未来って、思ったよりメンドいんだね」
「望、冷たいよぉ」
「私だったら、和尚は選ばない。以上」
「バッサリかよぉ」
「私も一応、言い寄られて困ってる側なんで」
「ホントに困ってる?」
「もちろん。何かしら答えを出さなきゃいけない面倒くささに嫌気……あ、困ってる」
「正直、望って、あいつらにそういう好意は向けられないの?」
「え?嫌いだったら、口もきかないし、顔も合わせないわよ?」
「ふーん、好意はあるんだ」
「前も言わなかったっけ?…まぁ、いいわ。私の家は厳格なんで、20歳になるまでは、交際に伴う…ぶっちゃけ性行為禁止なの」
「さ、左様ですか。でも大抵、そういうのってさ」
なんか勢いで、ねえ。
「すぐ確実にバレて、私は追放で済むかな?相手は確実に行方不明?そんな感じ」
「怖いんですけど」
「怖いのよ。だからこそ、悩むわけ。あと3年、清い交際続けられるか?って」
「あまり深入りしない方がよさそうね」
「うん、そっちの方は深入りをお勧めしない。ごめんね」
「望が謝ることじゃないけど。大丈夫なの?そんなので」
「そういう異常性こそ正常だという世界に生まれた時からいるんだもん。大丈夫だよ」
「ホントに?」
以前に
「ほら、私のことはいいから、未来の将来性をもっと語ろう」
「あんた、さっき切り捨てたじゃない」
「私が切り捨てたのは和尚の将来性」
結局、そういう扱いになるんだよね、アイツって。
※
幸次が付き合うことになった女性。
アンバランスな年齢差なれど、見た目は成美が中学生にしか見えない幼さと身長差。
ただ、身長に対して胸のサイズの主張が激しいため、バイト先のショー事務所では「ロリ巨乳」と身もふたもコンプライアンスもない言われ方をしている女性である。
当然とも言うべきか、事務所内での成美争奪戦=複数名の男同士の暗闘は繰り広げられたわけで。
当初は、そんな暗闘に加わりたくもなく、宝珠のことも気になっていたので静観していたが、男どもが、度を過ぎたアプローチをかけ初め、成美が心底困っている様子を見たとき、幸次の中のヒーロー魂が覚醒。
密かに成美の相談に乗り、結果的に付き合うことに。
いきなりコソコソ参戦して、横からかっさらわれる方としては
「女々しい真似すんな。ゴールデンウィークに向けて、男女ともにメンバーを増やす予定もある。今のままだと、その新人に悪評しか届かんぞ」
という説得で渋々引き下がった模様。
そのあとに幸次と成美は金山に呼び出された。
「すみません、色々とご迷惑を」
と頭を下げる幸次に卍固めをかける金山。
「ホントだよ。男と女がいりゃ、そういう問題も起きるの重々承知してるがな、本来、お前のやったやり方は褒められたもんじゃねえぞ」
「…わ…かって…ます」
「成美もだぞ。きちっと振らないから、変な希望を持たせちまうんだ」
「ごめんなさい」
成美は泣きそうになっている。
「こんなとこで、俺に対して泣かれても、誰の得にもならないんだよ。いいか?事務所内でイチャつきは禁止。盛りたきゃ他でやれ。その程度の節度は持て。仕事に私情は持ち込むな。いいな」
「は…い…」
「ふぁ、はい」
というのが、凸凹カップル誕生の流れである。
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