必要なんて

シヨゥ

第1話

「必要なことなんて本当はないんだ」

 彼は言う。

「必要だと決める何かがあって必要なことが生まれる。例えば生きるから食べる必要が生まれる。そんな感じに」

 彼はそう言ってパンをかじる。

「もし僕しかいなければ服を着る必要すらない。服を着る必要は共に暮らす社会があるから生まれたものなんだ」

 そう言うや彼はシャツを脱いだ。タンクトップ姿の彼は想像以上に筋肉質だ。

「その社会が閉じられていればいるほど、そのルールが緩ければ緩いほど必要なことは減っていく。玄関を出たら国が必要とするルールに縛られなければならない。だけど玄関の内側、この部屋の中ではそんなものに縛られる必要はないんだ」

 そう言って彼は立ち上がる。

「着飾る必要はない。時間に縛られる必要もない。好きなようにしていい。そうやって休む。それこそが今君に必要なことだろう?」

「そう、なのかな?」

「僕はそう思う。でもそれを受け入れる必要もない。だって君は自由なんだから」

 仕事を辞めて転がり込んで来た私によくそんなことを言えるなと感心してしまう。

「出来事があって、必要なことが生まれる。これは始めに言ったことだけど」

 と彼は前置きをすると、

「今回のことをこの形に直すと、君が頼ってくれたという幸せな出来事があって、君を守る必要が生まれた。ということになる。幸せな出来事だからこそこの必要性を大事にしていきたいと思うんだ」

「それって迷惑じゃ」

「迷惑ととらえる必要もない。逆に言えば幸せととらえる必要もない。だけど感情としてどちらとしてとらえたいかと言ったら幸せな方だよ」

 言い切る姿に男を見た。と言ったら言い過ぎかもしれない。しかしながら頼るべきは彼だと改めて自分の勘の正しさにほっとした。

「ありがとう」

 だから、

「早く立ち直れるように頑張ってみるよ」

 彼を安心させるべくそう言うことにしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

必要なんて シヨゥ @Shiyoxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る