222.狙われた復讐心

 目の前に現れたのは別の部屋でうめき声を上げていたフェリスだった。腕には赤子を抱いており、なにかに導かれるように玉座へを座る。


【フフフ、ちょうど生まれたところだったようね。目覚めなさい、フェリス】

『あ、うう……こ、ここは……それに今の声、は……』

「フェリス!」

『……! あなたは、リク……助けに――』


 俺の呼びかけに応えてくれたが次の瞬間、驚愕に目を丸くする。


『ま、魔族……! それに勇者達!? どうしてそいつらと一緒に居るのです……!』

「これは――」

【あひゃ!?】

「チッ……!」

「リク!」


 夏那が口を開こうとしたがそれよりも前に、レスバに向かってホーリーランスが飛んできた! 俺は咄嗟に剣で弾いて逸らす。するとフェリスが顔を歪ませてから声を上げた。


『魔族を庇った……!? リク、あなたはそいつらの仲間になったの……!!』

「落ち着けフェリス! この世界に魔王と俺達が来た理由、その答えが今なんだ。お前に憑りついている【渡り歩く者】とやらのせいでこんなことになっている」

『どういう……? ……う!?』

「フェリスさん!」


 説明をするため話しかけようと声をあげる。

 しかし、フェリスが頭に手を置いて呻き出した。そこへ近づこうと駆けだすも、今度は俺達に向かって魔法を飛ばして来た。


「うわ!?」

「なにすんのよ!?」

『……』

【なに、経緯を伝えたまでだ】

「てめえ……」


 睨み付けてくるフェリスの口から【渡り歩く者】の声が聞こえてくる。そのまま続けてフェリスの声に戻ってから言う。


『……魔王を喚んだのは私の国の王だった。そして勇者達はそこに居る聖女と魔王の願いを【渡り歩く者】が叶えた結果、こうなったと。リク、あなたは前の世界で魔王たちと同じところに居たのね』

「……そうだ。だから俺達も被害者ということになる。加えて魔族もそうだ。俺はレムニティと戦い、レスバと出会ってなにか裏があるのではと考えた。だから前の世界の因縁はひとまず置いて魔族と共にここまで来た」

『……』

「そうです。だから私達が争う必要はないんですよフェリスさん」

『――ざけるな』

「なによ……?」


 黙って聞いていたフェリスがポツリとなにかを呟く。夏那が眉を顰めて聞き返すと、彼女は激昂して俺達に怒声を浴びせてきた。


『ふざけるな……! だとしても国を滅ぼした罪は消えない……! 私の家族も友達もみんなもう帰ってこない! 魔族はあちこちの国を攻撃し人が死んだ……! 異世界の者達が混乱を起こした!』

【そう、あなたの手にあるその赤ん坊もその一つねえ】

「やめろ師匠! フェリス、人間が戦争で死んだのは気の毒だが、元はと言えばお前の国の王がやったことだ。そこを忘れてはいかん」

『だからと言って魔族を許せると思っているの!』

「フェリス……!」


 ダメか……!

 なにかを吹き込まれたのか? ……いや、違うな。これはフェリスの性格によるものかと胸中で修正する。

 実際、不幸に見舞われたという事実がある以上、こいつの言い分はわかるし主張していい。

 なら俺に、俺達にできることは――


「わかった。俺達が元の世界に戻れるまで、魔族はこの島で待機してもらう。魔王を含めて。過去は変えられないが未来は変わるだろう。俺なら魔王を含めて牽制ができるからもうこの世界に関わらないでやっていく」


 これ以上混乱を招かないくらいしかできないが、こっちも

『そんなことで納得できるかぁぁぁぁぁぁ!!』

「危ない……! <聖護の光ホーリーウォール>」


 フェリスが無数の光の弾を生み出し、俺達目掛けて放ってきた。今までの旅で見たことはないが、聖女の鍛錬で習得したものだろうか? 皮肉なことにその攻撃は聖女であるイリスによって防がれた。


『光の壁……!? 異世界の聖女め……!』

「……!? まだ威力が――」


 だが、攻撃は止まず、むしろ激高してさらに威力を上げて来た。イリスの力で抑えきれていないことに気付いた俺は彼女の隣に立つ。


「まずい……! リーチェ!」

『うん!』


 リーチェを呼んで魔妖精の盾シルフィーガードを二人で重ねる。そこでようやくフェリスの魔法が霧散して消えた。


「なんて威力……!」

「ちょっと殺す気!」

「というかレムニティと戦っていた時よりも強い気が……」


 水樹ちゃん達三人が

『殺す……そうね、それもいいかもしれない……私をないがしろにしたグランシア神聖国、頼みごとを聞いてくれなかったお前達。……魔族が敵でないですって? 今さらそんなことが許されると思っているのか……!!』

【お前の怒りは尤もだ。だから、私が手を貸してやる。全て破壊すればいい。その中でフェリスの言うことだけを聞く者だけ残せば安泰だ。それに――】


 フェリスの口から【渡り歩く者】がそんなことを言い出した。人の想いを叶えるとヤツは言っていた。だとすればフェリスこいつはそこまで人と世の中を憎んでいるのか……!


「よせ、耳を貸すな! そんなことをすれば世界中がお前の敵になる!」

『だからどうした……! 誰も耳を貸してくれなかった! 仇を取ることもできず、聖女の修行も追いつかず、あまつさえ魔族の子を産んだ!』

【そうだな。だけど、俺はお前を支持するぜ】

「……!? グラジール……!」


 玉座から立ち上がり、慟哭にも似た叫びをあげるフェリス。その腕に居た赤子が目を開けて口を開いた。その声はグラジールだった。


【だんだんと成長すると思うが、まだ自分で動くにはきついな。フェリス、俺がお前についていてやるよ】

『あなた……グラジール……』

【ああ。お前を愛した男だ。結果的にこんな姿になったが、俺はお前を気に入っていたんだぜ? だから人間を殺すってんならやろうぜ! ははははは!】

「グラジール、お前はまた俺に殺されたいか?」

【……ふん、勇者か。そいつは勘弁だが、いつか必ず殺す。そっちの連れの女はいたぶって殺す】

【やめよグラジール。今は争っている場合ではない。元の世界に戻るのが先だ】


 そこでセイヴァーがグラジールへ命令を下すが、当の本人は少し沈黙した後で口を開く。


【冗談は止めましょうや魔王様。いや、セイヴァー。元の世界に戻ったところでやることは同じでしょう? 魔族の土地が欲しければ奪えばいい。この世界でそれをやればいいだけの話だ!】

【む……!】


 セイヴァーはさも楽しそうに話すグラジールの殺気に圧倒された。

 俺も感じたことだが、あいつはあの姿で前と同じレベルの力……いや、それ以上の力を持っている様子が伺えた。


【ははは、いいじゃないか。じきにグラジールも大きくなる。そして私が力を貸せばフェリスもお前達よりも強くなる】

『馬鹿なこと言ってんじゃないわよアヤネ! あんた、魔王を倒すために一緒に旅をしてきたんじゃないの!』

【くく、あくまでも想いを叶えただけだよ私は? さて、だいたいの理由は把握したかな? ただ、フェリスの願いを叶えるのもグラジールの身体が完全になるまでに倒されるわけにはいかないね】


 そう言ってフェリスの腕がゆっくりと上がった瞬間――


「え?」


 風太の姿が、消えた。

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