205.最初に倒した奴が一番の謎とはな?

【……】

「なにをしているんですか?」

【ん? 陽の光を浴びている。俺は光を司る将軍だからな。それとメルルーサの居場所を勇者に教えるためだな】


 食事が終わった後、メルルーサのところへ行くための航海を続ける。とはいえ、海の上でできることは多くないから各々時間を潰すために散っている。

 レスバと夏那は船のリビングに行き、ビカライアはそれについていった。水樹ちゃんはリーチェと一緒に、ここぞとばかりにファングを構い倒していた。


 そして筋トレをしていた風太が、船の先で腕組をしながら立つブライクに声をかけていた。あいつが魔族に声をかけるとは珍しいな。レスバ相手にもあまり話をしないからな。


「俺は勇者じゃねえって」

【俺からすればいつまで経っても勇者は貴様だ。魔王様もそうだろう】

「……どうかな」


 俺が苦笑していると風太が汗を拭きながら話を続けた。


「そういえばメルルーサという魔族も海に居るし、やっぱり属性ある土地だと強くなるってことなんですか?」

【それを教える義理はないが……】

「あ、そ、そうですね。すみません」


 ブライクが呆れたような顔で風太を見ていた。そりゃ、自分の戦力を相手に教える敵は居ないからな。

 慌てて離れようとする風太に助け舟を出そうとしたところで、ブライクは振り返り船の先に腰をかけた。


「?」

【まあ、勇者も居るし今更か。どうせ知っているのだろう?】

「今、言おうとしていたところだ」

「リクさん?」


 そこは流石に将軍か。もちろん俺は全員……いや、アキラス以外とは戦っているため概ねこいつら将軍がどんな存在か分かっている。それにブライクも気づいたのだろう。


「俺は実際に戦った人間だからな、風太の疑問は解消できると思うが……本物が言った方が説得力があるな」

【なにが本物だ。俺のみならず魔王様も倒した奴が】

「まあ、何度も言うが正当防衛ってやつだぞ? お前らが侵攻しなきゃ双方戦争になることは無かったんだ。倒すか倒されるか。あれはそういうものだ」

「仕掛けたのは魔族側でしたもんね」

【……】


 風太の言葉にブライクは特に答えなかった。仕掛けた側が負けたということは理解しているし、逆恨みをするような奴でもないから黙るしかない。


【正直、魔王様が敗れるとは思わなかったがな。で、俺達のことだったか。フウタといったな、お前の言う通り力を使おうと思えば適した場所があると有利になるな。特に火・水・地・風の連中は顕著だった】

「僕達が会ったのはレムニティとグラジール……確かに強かった」

「ちなみにグラジールは地底火山で戦ったが強かったぞ。性格もあってこっちを殺すことに躊躇がないから仲間を下がらせた。師匠と俺だけで戦ったな」


 溶岩とか操ってくるから面倒だったなという話をすると、風太が冷や汗をかいて目を見開いていた。


「僕達が触れたら一瞬で死んじゃうじゃないですか!?」

「おう、あれは怖かったぞ。魔妖精の盾シルフィーガードみたいな防御魔法が無いと一瞬で消し炭ってやつだ」

「ええー……」

【環境を大きく使えるのは有利になる。まあ、おまけみたいなものだが】

「あいつの敗因は人間を見下すところにあったからな。おまえやレムニティみたいな慎重な奴の方が面倒だった」

「うぉふ!」

「あら、どうしたのファング?」

『ミズキにお腹を撫でられて嬉しいんじゃない?』


 甲板の真ん中でファングが一声鳴いた。

 それに水樹ちゃんとリーチェがそんなファングを撫でまわしながらそんなことを口にする。


「おまけって言っても、グラジールがそんなことをできるならメルルーサが海上にいるってことはかなり有利ってことじゃないですか?」

【そうだな。ただ、あいつは戦闘能力はそこまで高くない。こうやって海を支配するなど戦闘以外の方が有能だからな】

「……アキラスも?」

【アキラスか、あいつも人間を下に見るからグラジールに近いが人間を操る手腕には長けていたな】

「あー。僕達もそれにやられかけました」

【冷静にことを運んでいればつけいる隙を見出す能力は高いな】

「リクさんが居なかったら危なかったからなあ……」


 風太がしみじみと頭を掻くが、俺は別のことを考えていた。何度か確認で口にしていたが、やはりブライクはアキラスを知っている。に、だ。

 

 これだけは未だに解消されない謎だ。レムニティは記憶が無く、グラジールは質問をする前に倒したしな。頼りはビカライアだが、別行動をしていたという情報しかない。

 

 これだと俺が倒した者のみ記憶が無いという考えていた前提はおかしくなる。アキラスは倒していないのに俺を知らない。

 会ったことが無ければ知らないのは当然だが、こいつの言う人間を操ることがあったのなら、俺を調査していてもおかしくないんだよな。

 

そうなると老けたとはいえ俺の顔を知らないということは無いはずと思った次第だ。本当に知らないならどうしようもないが俺が倒していないのに記憶がないパターンという、最初に倒した魔族なのに謎が多い奴になってしまった。


「で、ブライクさんは光ですけどこういうところだと強いってことですか?」

【そうだな】

「ブライク、あれを見せてくれよ。お前の最大魔法」

【ああ? 手の内を見せる真似ができるか……ってそういうってことは知っているのか……】

輝く球形の爆シャイニング・スフィアだっけ?」


 俺がニヤリと笑って言うと忌々しいという感じで口をへの字にして睨んで来た。しばらくすると、立ち上がってから船の左側に歩いて行き、海に向かって手をかざした。


 そして――


「うわああああ!?」

「きゃあ!?」

『なによいきなり!』


 ブライクから拳くらいの大きさをした光の球が撃ち出され、ブライクがぐっと手を握りこむと大爆発を起こした。

 割と遠くに撃ったが、それでも波が起こり船が大きく揺れた。


「す、すごい……」

【将軍ならこれくらいは余裕だ。お前は風が得意そうだな。レムニティが居れば切磋琢磨できたかもしれん】

「あいつも強かったけど、戦ったのはリクさんだったんですよね。確かにレムニティの大技を会得すればかなり強くなれたかもしれない……」

「わふわふ」

「ん? どうしたんだいファング? この揺れで動き回ると危ないよ」

『相変わらずの魔力ねえ。太陽の下だとかなり強いもんね』


 リーチェが呆れながらそんなことを言う。逆に言えばこいつがここで大人しくしてくれているのはかなりありがたいわけだ。その気になりゃ船を沈めればいいわけだしな。


 というか、やはり話しても分からないことは多い。やはりメルルーサが鍵になりそうだな。

 

 さらに航海は続く――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る