201.これが俺達の拠点だな
「毎度ー!」
「ありがと。結構な数の商品が並んでるのね?」
「ああ、ここに魔族の幹部が居なくなったことを知ったグランシア神聖国やボルタニア王国が商人をたくさん寄越しているんだよ」
「なるほど」
俺達がエルフの森で往復している間に魔族幹部を倒したという話を各地へ通達したようだ。
まあ、帝国としては大陸統一を実行に移したいので『自分たちの国が達成した』ことをアピールしておきたいだろうな。
そういえばロカリス王国とエラトリア国は通達していないのかね? 後、事情を知るのはボルタニア王国だが帝国を警戒している気もするな。
「ウチからは魚が獲れればいいんだけどな。残念だが海があれじゃ話にならん。というか買い込んだなあ、旅に出るのかい?」
「ええ、ちょっと長い旅になりそうなので」
水樹ちゃんが軽く会釈をしてそう返すと店主が気を付けてなと見送ってくれた。最後の食料である肉を買ったのでこれで店巡りは終了だ。
「……いよいよ海に出るんですね」
「おう。そういやお前達って船は大丈夫なのか?」
風太が神妙な顔で呟いたので、そういえばと思い尋ねてみた。すると前を歩いていた夏那が振り返って俺に言う。
「あたしは旅行で船を使うことが多かったから平気よ。お父さんがそういうの好きでさ、北海道まで飛行機じゃなく船旅とか」
「へえ、意外だな。水樹ちゃんは?」
「私は家がああですから旅行はしていないですね。親族の集まりは自宅でしたし、修学旅行の時に乗ったくらいかな?」
【リョコウ……?】
「自分の住んでいる土地以外のところへ遊びに行くことだけど……知らないの?」
【魔族はそういう感覚がないですねえ。よく考えると、娯楽というものが足りないと思いますよ】
水樹ちゃんは旅行経験自体が少ないとのこと。金持ちでも家庭環境が良くなければそういうのも難しいのかと少し悲しくなってしまう。魔族は旅行という概念すらない狭い集落という感じだ。
実際、俺が前の世界で旅をしていたがレッサーデビルとグレーターデビル、それと幹部クラスしか出会っていないのでレスバみたいな一般魔族がいることを知らなかった。だけど見かけなかった。
その理由の一端を垣間見た気がする。
で、肝心の風太だが――
「い、いやあ、僕は船に乗ったことはあるんですけど、その船酔いが酷くて……。後、海の上って逃げられないじゃないですか? あれが緊張する原因なのかなって」
「おいおい大丈夫なのか? 異世界の船は日本みたいによくできていないから揺れるぞ?」
「が、頑張ります……」
若干青い顔で愛想笑いを浮かべる風太に苦笑しつつ、俺達は宿へと戻っていく。
ノヴェルの動きを見るにクラオーレ陛下達も俺達を疑っていてもおかしくはない。さっきは誤魔化したが、なにかしら理由をつけて旅に出させないことも考えられるので宿を取った。
「……ふうん、あれだけ貢献したのに疑ってるのねえ」
『ま、そういうものよ。リクはレムニティを、カナ達はガドレイを倒しているからね。その力が自分たちに向かないか心配しているのよ』
「わふ」
騎士につけられていることを察知した夏那が視線だけ動かして呟くと、ファングの頭に乗って移動しているリーチェがロクでもないものだと意見を述べていた。
昨日まで敵だった奴が味方、またはその逆もしかりってやつだ。ま、現状はやましいことがないので適当に喋りながら宿へと戻っていく。
さて、帝国ともおさらばって感じだな?
「よし、一度港へ行って船の確認をしとくか」
「賛成ー!」
「内装とか見たいですね」
「自分の寝床はあるんでしたっけ?」
【わたしの分はあるんでしたっけ?】
「ないんじゃない?」
【え……?】
愕然としているレスバはさておき、俺の言葉に夏那と水樹ちゃんは賛成だと口を揃えていた。風太も船に自分の部屋があるということには興味があるらしい。
そんな調子で港へ行くと、予定通り俺達の使う船が着水しているのが見えた。
「おおー、いいじゃない!」
夏那が船を見て色めき立っていた。接舷しているところに技術者のカロリスが見えたので近づいて声をかけた。
「よう、着水させたのか」
「ん? ああ、あんた達かい! 出発がすぐだって聞いていたからね。悪いけど進水式はやらせてもらったよ」
「それは別に構わないぜ。……ふん、やっぱりあの牡蛎みたいな魔物は寄り付かないな」
「ふふ、本当にいいものを持って帰ってくれたよ。これならウチらも海に出れるようになる」
「ノヴェルさんにはいいかもしれませんね」
水樹ちゃんがそういうとカロリスは笑いながらうんうんと頷いた。
「そうだな! あいつは真面目だから、海に出られなかったことと、幹部を追い込んだつもりで誘い込まれたことを悔やんでいたのさ。船が戻れば少しは気が晴れるかもしれないねえ」
「知っている仲なんですか?」
「え? ああ、まあそうだね」
「そりゃそうよ風太。船の整備をしてくれる人よ? ノヴェルみたいに海の部隊だと特に知り合いなんじゃない?」
夏那がカロリスの代わりに風太の疑問に答えていた。確かにその通りなんだが、その話をしてカロリスの表情が少し変わったな? なんかあるのか? 恋人、だったりしてな。
そんなことを考えているとカロリスが俺達に道を開けながら笑う。
「とりあえず乗ってみるかい? いきなり操舵するより説明は受けておいた方がいいだろ?」
「そうだな。よろしく頼むよ」
「おねがいしまーす!」
「わんわん♪」
「あら、ファングも嬉しそう」
「すう……はあ……」
緊張な面持ちの風太以外は遠足気分で船に乗り込んでいく。中は急ごしらえかと思ったけど、提案したトイレや部屋はキチンとしていた。
「ベッドもあるのか。随分豪勢だな、間に合うとは思わなかったぜ」
「そりゃあ敵幹部を倒した英雄だからね君たちは。職人さん達が頑張ったのさ」
「きゅん」
「あ、ダメよファング」
カロリスが壁を撫でながらそういうとファングが一声鳴いた。そのままベッドに爪を立てようとしていたので、水樹ちゃんが慌てて抱っこした。
とりあえず中を確認したところこちらが提案した寝るだけで良かった部屋にベッドがあり、キッチン、トイレ、操舵室など揃えてくれていた。
これなら航海をしても食料さえあればなんとでもなりそうだ。ブライクが居場所を知っているようだし、メルルーサにはすぐ会えるだろう。
「俺達は明日の早朝に出発するぜ」
「そうなのか? 随分と急いでいるじゃないか」
「ま、色々あってな。少し操縦方法だけ教えてくれるか」
とりあえず俺はカロリスへ使用方法のレクチャーを受けるのだった。
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