191.時系列がバラバラだな?

「こっちだ」


 俺はエルフの森から少し離れた場所にある岩陰に魔族連中を誘う。

 周辺の地形は前に町へレッサーデビル達を討伐しに行った際、移動中に覚えていたからな。

 ここで魔風サイレンスを使えばおあつらえ向きの会合場所へと変化する。


「これならしばらくは問題ない。ゆっくり話すとしよう」

【とは言っても擦り合わせみたいなものだがな。ずっと疑念だったことを聞けるチャンスだと思ったからだ。その後はお前を殺しにかかる可能性もあることを忘れるなよ人間】

「ま、それはそれとしてって感じかね。多分お前じゃ俺には勝てないしな」

【……】


 ピクリと眉を動かすブライク。

 プライドの高い魔族だが先程の攻防で思うところがあるようで、腕組みをして俺を図るような目で見てくる。

 さて、それはともかく時間が惜しいので話を進めることにする。


「まずはビカライア。お前は『俺を知っている』ってことでいいんだな?」

【……不本意だが】

「なら別の質問だ。お前は俺に殺されたか?」


 俺のストレートな質問に不快感を示すが、ビカライアは息を吸った後にポツリと呟く。

 

【……私は死ななかった。貴様の一撃はブライク様を滅ぼしその余波はこちらにまで来て吹き飛ばされた。死んだと思ったが――】

「死んでいなかったか。そうだろうな、お前達は王都から俺を引き離すため戦いを挑んで来た。それを知ったからブライクを倒した後、お前の生死は確認せずに引き返したからな」

【ブライク様を死なせて自分だけ生き残ったことの屈辱……忘れていないからな……!】

【まあ、運が良かったと思いますよ。それにこの場ではその記憶が重要なんです】


 レスバがそう言うとビカライアは口をへの字にして唸る。

 どうやらこいつは間違いなく昔の俺と戦ったビカライアで間違いないようだ。ブライクを倒した後は師匠と同伴して来た騎士と一緒にすぐに引き返したからお互いどうなったのかは不明。

 しかしレスバの言う通りその記憶こそが、俺と魔族の謎を解くカギになるはず。


「ブライク、ここまでの話でお前はなにか感じたことは?」

【……】


 目を瞑って聞いていたブライクに質問を投げかけてみる。するとゆっくり目を開けてから俺達を見渡して口を開いた。


【まったく記憶にないな。だがビカライアは知っていた、ということか。なぜ言わなかった?】

【……】

「そこは上司のプライドを守った、と言いたいところだがビカライアも困惑していたんじゃないか? 死んだブライクやレムニティがそこに居たのは?」

【その通りだ。しかし魔王様が復活させたと言っていた、だから『そういうものだ』と我々は思っていた。その部分は否定しようがない】

「目の前で起こっていることが全てだからな。勇者と戦って死んだというのは魔王は……セイヴァーは言わなかったのか」

【ハイアラートがそれらしいことを言っていたが、なんせ記憶が無いからな。正直どうでもいいから誰も気にしなかった。……勇者は消滅したと聞いた程度だ】


 ということらしい。ハイアラート……まさか記憶があるのか? 奴なら適当なことを言ってけむに巻くくらいはやるだろうが……。


 とりあえずまとめると、やはり俺に殺された魔族に記憶は無いのが確定。

 記憶があってもそれを追求する者が居ない、もしくは追及する意味が無い状況なので深く考えなかったのだろう。

 だから召喚されたこの世界を、魔王の指示で蹂躙していく方が先に立ったのだろう。それを指示したのはハイアラートかもしれないけど。


 俺が同じ状況なら『何故か』を突き詰めると思うが、魔族達はトップ連中が全てだ。ビカライアやレスバが疑問を持ったところで『気にするな』と言われればそれで終わり。

 幹部は復活し、別世界で家族や他の魔族がまとめて合流しているのも考えを放棄する理由に一役買っている。

 

「あいつは記憶がありそうってところか。俺が消滅した……ってのはあながち間違ってはいない。てことはあの戦いでハイアラートは生き残ったということか」

【魔王様と戦ったのは事実のようだな】

「だな。お前が俺を王都から引き離して、その間にセイヴァーのヤツが王都を襲う。その時に一緒に居たのがハイアラートだった。そうだな?」


 視線を送るとビカライアは不服そうだが頷き、ブライクはまた目を瞑る。するとレスバが両手を広げて首を振りながら喋り出した。


【ハイアラート様に、復活した幹部に記憶が無いのは復活の反動ってことを言われればわたし達は納得しますよ。するしかありません。でも、わたしはリクさんに出会ったことでその話に疑問を持った】

「記憶が無い魔族が俺と出会っていないことになっているからだな」

【そうです。それともう一つ。リクさんにも知らない魔族が居たことですかね】

「アキラスの件だな」


 レスバが顎に手を当てて言うと、ブライクが首を傾げて言う。


【アキラスを知らない……? 我々と敵対していたなら戦っているはずだろう】

「俺は戦っていない。六将軍だったんだが……」

【六人? 俺達は八将軍だ、それは間違いない】

「ふむ」


 ……そこが引っ掛かるな。しかし、今はそれを払拭できるのでレスバに尋ねてみることにした。


「八将軍で間違いないな?」

【ええ。リクさんが来たころがいつか分かりませんが、もしかしたらアキラス様とロウデン様に出会わなかったか、もしくは別の場所で倒されていたとか?】

「それはそうなんだが、アキラスは名前すら聞いたことが無かったんだぞ?」

【わたしは前の世界では魔族の国を守っていましたから知らないんですよ。ビカライア、あんたは分からないんですか?】

【お前も知っているだろう。我々は慣れ合わない。アキラス様がどこで死んでいても分からん。現にこの世界でもレムニティ様とグラジール様、そしてアキラス様が倒されたのをさっき知ったばかりだ】


 確かにビカライアの言う通りだ。

 俺が向こうの世界に召喚された時は、ある程度の対魔族戦というものが出来ていた。だからアキラスがひっそりと倒されていても気づかない可能性は存分にある。



【魔王様が召喚されたのはこの世界の人間がやったからと言っていた。そして事実はどうあれ、貴様は俺達を滅ぼして魔王様を倒した。……しかし、現にこうやって生きている。その食い違いが気になる】


 ブライクが鼻を鳴らすが、それは恐らくこの話を聞いた全員が思うことだろう。ただ、俺はこの二人に会ったのは僥倖だったと続ける。


「結局、どういうことかはセイヴァーに聞くしかないか。で、提案なんだが俺達と休戦しないか?」

【なに……!】

「落ち着け。お前達にはあまりいい話じゃないが、俺達はこの後、海に出てメルルーサに会うつもりだ。恐らくあいつならもう少し込み入った話が聞けるかもしれない」

【メルルーサだと? 船はどうするつもりだ?】

「ま、今は準備段階だ。断っても構わないが、邪魔をするつもりなら……悪いが死んでもらうことになる」

【……】


 そう言い放った俺にブライクが片目を開けて睨んでくる。さて、どう出てくる? 

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