149.先には進むけど気持ちは後ろ髪ひかれるわね
「そんじゃとりあえずしばらく厄介になる。他にルールがあれば聞いておくぜ」
「そうじゃな、夜は出歩かんようにしておいてくれるか? それと出歩くときはロディ達の誰かを連れて行ってくれ」
『ポリンは? シャーマンなんだから世界樹に行く時には一緒じゃないと』
「数少ないシャーマンだから一人でそちらにやるわけにはいかん。声をかけてくれれば着いていく」
「えっと、皆さん良い人そうですしカナさんやミズキさんと一緒なら大丈夫ではないでしょうか?」
ポリンの肩に乗ったリーチェが首を傾げてグェニラ爺さんに問うと、ポリンも同じく首を傾げて大丈夫と言う。ロディ達は戦争に行っていないタイプのエルフなので危険度がそこまで伝わっていないらしい。
まあハリソンとソアラに確認したならそういう結論が出てもおかしくはないけどな。
「……それは許可できん。が、確かにロディ達だけでは不便か。ではリーチェ様だけ外に出てもらっても構いませんので、待機させているエルフに声をかけてください」
『オッケー! ならその時は頼むわねポリン!』
「はい!」
「それじゃとりあえず四人が過ごす家を決めないとね!」
「チェル、戻ってきたのか」
「お転婆がそんなことを気にするかねえ、くっく」
「なによドーラス!」
部屋の入口にチェルが立って声をあげるとロディが呆れた声でため息を吐き、ドーラスが茶々を入れる。なるほど、この三人はウチの高校生組みたいなものだなと苦笑する。
「客人の前で騒ぐでない。ふむ、まあ話はいつでもできるか。ならチェルよ彼らの滞在できる家へ案内してくれ」
「おうちがあるんですか? 私達、馬車で寝泊りしようと思っていたんですけど」
「いや、まあ空き家は無いんだけど……」
「皆さんから意見を聞いて新しく建てる形になるかな。なに、今からなら就寝までには間に合います」
「へえ、凄いですね! 僕もお手伝いできることがあればやりますよ!」
「そりゃ俺も見たいな。前の世界のエルフよりも建築技術が高そうだ」
それじゃ行きましょうかとロディが席を立ってチェルに並び、俺達も椅子から腰を上げた。村の散策をしてみたいところだと思っていたらグェニラ爺さんが座ったまま口を開く。
「すまぬ、リク殿。年長として少し話があるのだがとどまってもらっていいだろうか?」
「ん? 俺だけにか?」
俺の言葉に小さく頷く。
集落で風太達をどうにかすることは無いか。ここで暴れたら自分たちの首を絞めることになるからな。
「オッケーいいぜ。せっかくだ、風太達もゆっくり休むのを兼ねて色々案内してもらえよ」
「うん、一人で大丈夫?」
「夏那を一人にするよりはな」
「なによ! ふんだ、いきましょリーチェ」
『はいはい、リクが居なくて寂しいのはわかるけどねー』
「違うわよ!」
「あ、待ってよー。リクさんのこと聞かせてー」
騒ぎながら夏那とリーチェが出ていき、水樹ちゃんが苦笑しながら俺に手を振って風太と一緒についていく。チェルが火に油を注ぎそうなことを言いつつぞろぞろと若い連中が外へ出ていき、俺とグェニラ爺さんが残される。
「これでいいのかい?」
「うむ。では着席してくれ」
俺はもう一度座りグェニラ爺さんが話し始めるのを待つ――
◆ ◇ ◆
「それじゃまずはどの土地がいいか決めようか」
「お願いします! ほら、夏那ちゃんとチェルさん。お家が出来てからその話をしましょうよ」
「いや、チェルがぐいぐいくるだけだから!」
「むふふ、後のお楽しみにしましょうか……。ポリンも人間の女の子とお話するの興味あるよね?」
「はいはい! 女子だけのお家と男子だけのお家を建てましょう!」
ポリンの言葉にドーラスが暢気だなと笑っていたけど、あたしはチェルが小声で『リクさんは個人宅を』とほくそ笑んでいたのを見逃さなかった。
風太も水樹もポリンと同じくのほほんとした空気を出しているのであたしがしっかりしないといけないと考えている。
とはいえメイディさんから聞いていたよりエルフの態度が軟化しているのはやっぱり勇者だからかな? リクじゃないけど持ちつもたれつ、利用できる時は利用するって感じね。
そんなことを考えているとエルフのロディが立ち止まって視線と指を使って説明を始める。
「こっちが畑で向こうが飼育小屋だ。畑の敷地は一気に取って各家庭の区分を決めている。飼育小屋は持ち周りで世話をして卵や牛乳を得ている」
「お肉は食べないんですか?」
「食べるけど魔物の肉だけだな。人間みたいに家畜を殺して食べることは無いんだよミズキちゃん。……いてて!?」
「自給自足って感じかあ」
鼻の下を伸ばしたドーラスが水樹の肩に手を置こうとしたのを風太がそれとなく阻止し、ミズキがこの世界に残ったらこういうのもいいかもと口をつく。
……ここに残る。
水樹の想いを聞いてからはあたしも今後をどうするか悩んでいるのよね。ウチは普通の家庭で、妹も居るから帰らなくても両親が寂しくなることは無いと思う。
だけどもし結婚をして子供が出来たりしたときに見せられないのは少し寂しいと感じるのよね。船が出来たらリクのことだから魔王の島へ真っ直ぐ向かうだろうからあまり考えている時間は少ないはず。
風太とあたしは帰るとしても、今度はここに残った水樹が心配になりそう。
リクは……まだ分からない。
実は四人とも強制送還が一番幸せなんじゃないかと思っていたりするのよねえ。
『どしたのカナ? 家の位置考えているの?』
「うひゃ!? リーチェかびっくりした。そうね、世界樹の近くとかダメなの?」
「だ、大胆ですね。さすが勇者様というところでしょうか」
「わたしはいいと思いますけど長が倒れるんで止めておきましょう!」
ポリンの言葉にあたし達は笑う。
うん、今はそういうのナシ! まずは聖木をもらうところからよね!
そんな感じで切り替えたあたしはエルフ達と一緒に村を回りながら家の位置を考える。こっちを警戒しているのか一緒にここまできた武装したエルフ以外は姿が見えない。
するとそこで見知った声が聞こえてきた。
「わんわん♪」
「あ、ファングだ。エミールちゃんと一緒だったんじゃないの?」
「いや、そうでもないみたいだよ」
「あらら」
見ればファングを追ってきたらしいエミールと、同じくらいの歳ごろっぽい子供たちが走ってきた。
「ミズキおねえちゃんお外に出たんだ!」
「うん。ファングと遊んでくれてありがとう」
「ほら、この人たちはお客様だぞ、なんて言うんだ?」
「「こんにちはー」」
「はい、よくできました! あ、エミールちゃんパパがこの人たちに会いたいって言ってたから呼んできてもらえる? ここに家を作るから」
「うん、いいよ! 楽しかったー、ファングちゃんまたねー」
「うぉふ」
エミールが満面の笑みで手を振ってまた駆け出していく。元気だなあ子供って。
「さて、と。それじゃどんな設備が欲しいか聞かせてもらえますか?」
「ええっと――」
そしてあたし達は家づくりを始める。
だけど翌日、無視できないできごとが起こる――
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