放送部員は2人しかいません

第1話

学校が見えてきた。湊高等学校。そこが今日から僕の通う学校だ。僕はいつも早い時間に登校する。誰もいない教室の空間が好きだからだ。別に特段人間嫌いというわけではない。ただ、人のいない深閑とした空間が好きなだけだ。今も登校している生徒や他の人の姿は見当たらない。やっと学校に着くと思った瞬間、何かに躓き盛大にこけてしまった。すると真後ろから声が聞こえてきた。凛とした秀麗な声が。僕はその声に快美の感覚に包まれる。

「大丈夫かい?後輩君」

それが僕と先輩の出会いだった。このアホ毛がトレンドマークのちんちくりんの先輩との出会いだった。僕は唖然とした。思っていた姿と似て非なる人であったから。

「ぷっ、あははは。君は正直で面白いね。気に入った。・・・うん。君にきーめた。明日から宜しくね」

今度はその見た目に合った可憐で陽気な声が聞こえてきた。彼女は、僕を起こすと先に学校へと向かっていってしまった。僕は唖然とその後姿を見送る事しかできなかった。彼女が言った言葉など気にも留めることもできなかったのだから。


そして、次の日の朝。彼女は突然にやってきた。

「あ、いたいた。君ちょっとまってよ」

可憐で陽気な声が後ろから聞こえてきたので振り返ると昨日助けてもらった先輩?の姿があった。

「昨日はありがとうございました。それでは」

何かに巻き込まれそうな雰囲気を感じ僕の平穏な日常が壊れそうでその場をすぐさま去ろうとした。しかし、彼女は、それを許してはくれなかった。

「どういたしまして。って、なんで逃げようとするの。昨日言ったでしょ。明日宜しくって。私の名前は七色茜ナナシキ アカネ。と七色って書いてななしきと茜色のあかねって読むの。湊高の二年生よ。宜しくね。あなたは?」

日暮静ヒグラシ セイ日に暮れるでひぐらしと静かって書いてせいです。湊高一年生です」

「日暮静ね。うん、君今日から放送部に入ってもらったから」

七色先輩はなにやら紙に何かを書いていて、その紙を僕に見せてきた。それは、よく見ると部活申請書だった。それになぜか、許可印がすでに押されている。

「ほら、朝練しにいくよ」

「え?いや僕了承してないです・・・って聞いてます~~~!」

僕の言葉は聞いていないらしく、僕の片手を握り七色先輩は走り出した。

「やばっ、時間がなくなる。急ぐよ」

僕が連れて来られたのは、湊高の放送室だった。放送室は待機場所と放送ブースに区切られていて、待機場所から鏡越しに放送ブースが見られるようになっていた。

「はあはあ、よし、まだ時間はある。後輩君はそこに座っててね」

「だから僕は・・・」

「お願い聞いてくれるかな?」

七色先輩が声色を変えてきた。あの出会った時の凛とした秀麗な声で

「ぷははっ。ちょろいな後輩君は。これを後輩君につけてっと」

なぜか言う通りにしてしまった僕の耳に七色先輩はヘッドホンをつけてきた。もうされるがままになってしまっている。七色先輩は放送ブースの方へと向かっていった。

「さて、時間ももったいないし、始めよう。『聞こえているかな、後輩君?』」

ヘッドホンから七色先輩の声が聞こえてくる。僕は鏡越しに手を挙げた。

『OK。じゃあ始めるよ』

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