4ターン目 闘技会予選その4
幕の中で倒れているカインを医療班が担ぎ出した。
「治療は進めさせるが、次の試合開始までに起きてこられなければそれまでだ」
カインには聞こえている様子はなかった。
「次はサナ対アドージェだ。入れ」
アドージェは見るからに委縮している。あんな試合見せられたらやる気をなくしても仕方がない。
二人が入った瞬間に開始の合図が聞こえる。アドージェが待ってましたと言わんばかりにビーム魔法を撃つ。サナは腕をクロスして防御したが痛々しい傷が見える。
「突然すぎて避けられなかったか?」
ロランが呟く。
「そうなのかな」
「どういう意味だ?」
「……いや、何でもない」
たしかにカインの剣よりもビーム魔法の方が速い。しかし、アドージェはそれまで何度も同じ魔法を使用している。サナも見ていないことはないはずだ。それを警戒していないということがあるだろうか?
するともう一撃ビーム魔法を食らったようだ。幕を叩く音が聞こえる。サナが降参の意を示しているのだ。サフェラは舌打ちをした。
「そこまで」
出てきたサナにサフェラが近づく。何か話をしているようだが観客の誰にも聞こえてはいなかった。
「何が目的だ」
「私が勝ってたら予選が終わる可能性があったからな」
「闘技会を侮辱するな。目当てのやつと戦いたければ他所でやれ」
「彼女はこういう場でないと戦ってくれないと思ってな。今後のことを考えると人質なども取りたくなかった。……それで三日かけて私のことは何かわかったか?」
「…………早くどけ。次を始める」
アドージェとサナが幕から出るとサフェラはオズドに近づく。何か聞かされたかと思うとオズドは小さく頷いて幕の前に立った。
「えー、次の試合はサナさん対ユキノさんです。お二人とも中へ入ってください」
治療中のカインに配慮したとはいえサナは三連戦となる。それでも彼女は余裕そうだった。
それよりも自分のことを考えなければいけない。確実な本戦出場のためにはここで負けられない。残りは私対サナ、私対カイン、アドージェ対カインだが、カインが起きてこられず私がサナに負けた場合、彼以外の全員が二勝一敗となるためだ。そうなると次の試合がどのような形式で行われるか不明である。できる限り連戦はしたくない。
そう思いながら幕の中へ入る。
「さっきの長髪みたいになりたくなければ本気を出せ」
そう呟くサナは中学生くらいの女の子という雰囲気ではなかった。
緊張しながらもスキルを発動する。
「始め」
開始の合図より前にスキルを発動しておいた。手札は既に見えている。速攻で倒したかったが難しそうだ。
「≪大盾を構える戦士≫に≪ロックシールド≫を使用!」
現れた瞬間、何かが砕ける音がした。≪ロックシールド≫ごと大盾の体が貫かれて消えた。だが追撃はこない。
「ん、動けないな……。攻撃を仕掛けた相手の動きを封じるということか」
≪ロックシールド≫のロック効果は効いているようだ。そして一枚ドロー。そのカードに目をやった一瞬のうちにサナが姿を消した。
「そんなものか『異界の使徒』」
後ろから声が聞こえる。振り返ると手のひらを突きつけられていた。そして吹き飛ばされる。背中が幕にぶつかり、強い衝撃が全身に走った。立ち上がろうとするが足がそれを拒否してくる。
「ファラエスはこの程度の召喚術師に負けたのか」
サナの呟きがわずかに聞こえた。詳しく問わなければならない。痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がった。
「……ファラエスの仲間?」
「だとしたらどうする?」
「倒す」
「ほう」
ドロー。
「≪雷霆の戦士 ナーデア≫を召喚! そのまま墓場に送って覚醒召喚! ≪雷撃の戦士長 ナーデア≫! やれ!」
「やっと本気を出すか」
覚醒ナーデアの一撃をサナは魔法で作った盾で防ぐ。サナが反撃するがナーデアを回避させることができた。今までよりもキャラクターを思い通りに動かすことができる。
「≪血に染まる鎧の戦士≫を召喚! 挟み撃ちだ!」
ナーデアと前後から攻撃を仕掛けようとした時、またサナが消えた。見えないだけでそこにいるはずだ。護衛として二体を私の近くに呼び寄せる。
大きな音とともに≪血に染まる鎧の戦士≫が吹き飛びながら消える。
「二体同時に撃ち抜くのは無理だったか」
声の方へ視線を向け、ナーデアに攻撃させるが手応えはない。そしてドロー。
「≪氷刃の戦士 サイラ≫召喚!」
サイラは1ターンの間効果を無効にする。実戦で使う前にその辺の獣で試しておくつもりだったが仕方がない。
「何!?」
驚きながらサナが姿を現した。サイラの効果で魔法が解けたようだ。その隙に攻撃を仕掛ける。だがサナはナーデアの攻撃を腕で弾き、魔法で反撃されナーデアが消える。
「魔法を使えなくできるのは大したものだが時間が短すぎる」
そう言いながらサイラも倒す。私の場はがら空き。手札には逆転の一手はない。サナは私に手を向けた。
カインのようになってしまうのだろうか。そう思った時、サナは不快そうな表情を浮かべながら幕の外を見ていた。
そこにいたのは白髪で長身の老人だった。その場の全員の視線は幕に近づこうとする彼に向いている。サフェラが彼に声をかける。
「山を出たのは噂になってたがこんなとこに何しに来た?」
「なに、若者の道を遮ろうとする元仲間を叱りに来ただけじゃ。のうアシュエッタ」
「久しいなセルヴァ。しかし、その名は銀賢の称号とともに捨てた。今はフォッツェと名乗っている」
伝説級の冒険者である銀斬と銀賢が現れたことに観客たちはざわついていた。サフェラも驚いている。
「バカな、銀賢が生きていただと……?」
「そういうわけじゃ。こやつに参加資格はない」
「何を言うか。私は青級のサナ……」
セルヴァがいつの間にか腰の剣を抜いて彼女の首元に突きつけていた。まるで最初からなかったかのように幕が消えている。
目の前で見ていたはずの私にもいつ動いたのかわからなかった。同じ人間とは思えない。あのレネアが尊敬する人物だというのも頷ける。
「お嬢さん、下がっとれ」
セルヴァの言葉が私を縛っていた見えない恐怖の縄を解いて動けるようにした。ゆっくりと後ずさりする。
「さて、アシュエッタ、儂はこのままお主とやりあっても構わんのだぞ?」
「断る。最低限の目的は達成したので帰らせてもらおう」
「待たんか!」
目にも止まらぬ速さで振られたセルヴァの剣は空を斬っただけだった。
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