4ターン目 覚醒召喚≪雷撃の戦士長 ナーデア≫!

 クロマジにはある時を境に女子プレイヤーが増えた。それは既にモデルとして有名だった青宮栞が初めて全国大会で優勝した時だ。クロマジ自体も有名になり、活気づいたがそれ以前のクロマジスタには「売名行為だ」、「にわかが増えて荒れた」などと毒づく人もいた。

 彼女が初めて優勝した当時、ドラゴンコントロールは環境トップだった。同タイプのデッキでの対戦も多く、引きの運が良かっただけとも言われていた。

 しかし、翌年の大会ではレギュレーションの変更や新カードでの対策が進んだことで環境トップとは言えなくなっていた。それでも彼女はドラコンを使い優勝。全国大会二連覇を成し遂げたのだ。これにより彼女の実力は本当の意味で認められ、陰口を叩く人はグッと減った。


「えーと、たしかに亡くなったのはニュースで見ました。交通事故ですよね。ご冥福をお祈りします」


 青宮栞は笑いだす。


「あなたもね。というか見ての通り十分幸せよ」


 そういえば私も死んでるんだった。たしかに死後、異世界で生前好きだったカードゲームに興じていられるなんて幸せだと思う。


「大きな大会には出たことないんですけど、どうして私の名前を?」

「一回目の全国大会出場前、色んなカドショ(カードショップ)に行って、片っ端から対戦申し込んで調整してた時よ。あなたとも戦ったの。その前後にも戦士ビートとは対戦したけれど、敗北を味わったのはあなただけだった」


 彼女はそう言いながら長い黒髪をポニーテールにし、茶色のサングラスをかけた。思わず「あっ」と声を出す。ドラコン使いの女性プレイヤー、しかも不思議な格好の人だと思った記憶が蘇る。


「思い出してくれたのかもしれないけど、あなたにとっては数あるドラコン使いの一人だったってことね」

「……………」


 そのものずばりなのだが「はい、そうです」と言うのも気が引けて黙ってしまったが、結局無言の肯定でしかない気がする。全国大会の対戦動画は名勝負が観られたが、私との時は印象に残る対戦ではなかったのだろう。

 まあ、勝った時よりも負けた時の方が記憶に残るものだ。これは私の偏見だが、そういう人の方が強くなるように思える。


「つまらない話で邪魔してごめんなさい。再開しましょう。あなたのターンよ」


 彼女にとってのリベンジマッチと思うと一層気が抜けない。


「ナーデアとハルルを臨戦態勢に。MPを3まで回復。ドロー」


 ナーデアとハルル二枚を使って≪鋼鱗のドラゴン≫を一枚どかすのでは効率が悪すぎる。そもそも次のターン切り札が出てくる可能性が高い。それに備えつつ、アタックを積極的に行う必要がある。ならばこれだ。


「条件は戦士キャラクター一体とMPを1消費。≪雷霆の戦士 ナーデア≫を墓場に送って覚醒召喚、≪雷撃の戦士長 ナーデア≫!」


 頬に傷痕があり、今までより長い剣を持ち、鎧は軽そうになっているナーデアが現れた。

 指定の条件を満たすことで行える覚醒召喚。通常のキャラクターよりも強い効果や一風変わった効果を持つ。覚醒ナーデアは一回目の攻撃の後、すぐに臨戦態勢になるためもう一度攻撃できる。APは4、さらにキャラクターを倒した場合、そのAP差分のダメージを相手のLPに与える。


「二体目のハルルを召喚。二体のハルルの効果を発動。待機状態にして覚醒ナーデアのAPは4アップで8に。ナーデアで≪鋼鱗のドラゴン≫二体に攻撃!」


 ≪鋼鱗のドラゴン≫はあっという間に切り伏せられていた。そして差分のダメージ5×2が与えられる。


「これでターンエンド」

「っつ……」


 LPが減った瞬間、青宮栞の表情が苦しそうになる。見た目に外傷はなさそうだが、痛みというかリアルダメージ的なやつはあるようだ。


「この世界に来てからLPを半分にされたのは初めてよ。そうこなくっちゃね。

 私のターン、前ターン使った≪竜の覇気≫の効果でMPは5になる。ドロー。」


 大型キャラクターを覚悟する。しかし既にLPは半分。対してこちらはノーダメージかつキャラクターも三枚。どう来る?


「MPを4消費してマジック≪竜の激昂≫発動。場のキャラクターを全て破壊。そして5ダメージを与える」


 カードから現れた炎により私の三体のキャラクターが消え去る。そして私に殴られたような痛みが走る。まだ平気だが、勝負が長引くと痛みに気を取られて思考が鈍るシーンも出てくるかもしれない。この世界ではダメージを受けないように立ち回ることも重要そうだ。

 まさかここで大型キャラクターではなく全体除去とは思わなかった。相手の手札は三枚、これで終わりではないはず。


「≪銀翼のドラゴン≫を召喚。MPを1消費することで速攻を持つ。そのままアタック」


 名前の通りの綺麗な翼を持つドラゴンが現れ、日差しを受け輝きながら私にその翼をぶつける。どうして死んでいないんだろうという思うくらいの視覚へのインパクトがあったが、痛みの程度としては思い切り壁にぶつかったくらい。これで私のLPは13。


「アイテム≪魔力貯蔵庫≫発動。ターンエンド」


 ≪魔力貯蔵庫≫、色々条件があるがざっくり言うと使わなかったMPを次ターンに持ち越しできるカードだ。本当はもっと早く引いておきたかったに違いない。このターンは使い切ったので次ターンは通常通り3でスタートになる。


「MPを3に回復。ドロー」


 ≪銀翼のドラゴン≫はさっき使った速攻付与の他にもう一つ、MPを消費することでAPをアップする効果を持つ。基本はお互いのキャラクターが少ない今、このまま放置しておくとすぐにLPが削られてしまう。しかし……


「……ターンエンド」


 これしかできなかった。

 青宮栞は眉を少し動かすが、すぐにクールな表情に戻る。無防備を装って相手のターンに動けるカードを握っているか、手札事故で打つ手がないか気になっているに違いない。逆の立場なら私だって真っ先に疑う。

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