3ターン目 戦士VSドラゴン

 お互いにデッキを出す。今度は女の子が何かに気付いた顔をする。


「ここ半年くらいの間にレギュレーションに変化はあった?」


 レギュレーションとは強すぎると判断されたカードを使えなくしたり、使える枚数を抑えるルールだ。クロマジのレギュレーション変更には決まった時期はなく、結構唐突に発表される。


「≪呪いの都 アスバーン≫が禁止、≪剣征嵐王けんせいらんおう オルドラ≫が制限になりました」


 禁止はデッキに一枚も入れられないカード、制限は一枚だけ入れられるカードのことだ。基本は最大三枚入れられるが、その数を抑える事で引ける確率を落としてバランスを取る。


「じゃあ私のデッキは大丈夫そうね。オルドラはそろそろ使えるようになると思ってたわ。けれどアスバーンは何があったの? 」

「私に勝ったら教えてあげます」

「随分強気ね。じゃあやりましょう。そうそう、LPがゼロになったら死ぬからとどめはなしね」


 サラッと衝撃の内容を告げられた気がする。聞かされずにバトルしてたらどちらかが死んでたってことじゃないか。


「サレンダー(降参)なら死なない?」

「TCGルールも元の世界の人間とバトルもしたことないから確信を持って言えないけど、こっちの世界の人間や動物が逃げだしたことは何度もあるし多分大丈夫よ。それに勝てば絶対死なないわ」


 とことんライバルキャラ的性格してるな。まあいいでしょう。弱肉強食の世界を生き抜いて可愛い女の子たちとスローライフを送ってやる。こんなところで死ぬわけにはいくまい。


「先攻後攻はじゃんけんでいい?」


 彼女はデッキをセットしながら言う。私もデッキをセットして無言で頷く。

 私はグー、女の子はパー。彼女は当然のように先攻を選択する。カードゲームに限らず世の中のゲームは先攻有利のものが多いと聞いたことがあるが、クロマジもその例に漏れない。

 お互いにデッキの上から五枚ドローする。そしてターンプレイヤーの彼女は開始時にさらに一枚ドロー。


「ドロー、≪鋼鱗こうりんのドラゴン≫を召喚するわ。ターンエンド」


 彼女の前にライオンくらいのサイズの銀色のドラゴンが現れる。ドラゴンというが翼が退化したという設定でコモドオオトカゲのようなのだ。

 先攻有利のゲームに間違いはないが、後攻には初見の相手の種類が分かるというメリットがある。≪鋼鱗のドラゴン≫はアタックできないが、相手のアタックを引きつけることができる。APも3ある盾役として優秀なキャラクターだ。

 時間を稼ぐカードとドラゴン。まず警戒すべきはドラゴンコントロール。通称ドラコンと呼ばれるデッキで盾役のキャラクターやマジックで時間を稼ぎ、召喚条件のある大型ドラゴンを呼び出すものだ。以前、最強デッキ(いわゆる環境デッキ)の一角だったこともある。


「ドロー、MP(マジックポイント)を2消費して≪強敵襲来≫を発動。相手にAP3以上のキャラクターがいる時、デッキからAP2以下の戦士キャラクターを召喚する。≪雷霆の戦士 ナーデア≫をクイック召喚!」


 MPとはLPと違い毎ターン3になるように回復するもので、一部のカードの効果を発動するのに必要になる。強い効果程必要な数値は高くなる。消費が4以上のカードもあり、それらを使うには他のカードの効果で増やさなければならない。

 クイック召喚は通常の召喚以外でキャラクターを召喚することである。これにより1ターンにキャラクターを複数体並べることも可能だ。


「≪見習い戦士 ハルル≫を召喚」


 ナーデアの横に短剣を持った子どもが現れる。中世的な見た目かつ公式が性別が特定できる設定を公開していないせいで、二次創作が特別多い。


「ハルルの効果発動」


 ハルルのカードを相手に向けるように百八十度回転させる。


「このカードを待機状態にすることでこのターン中、自分の戦士キャラクターのAPを2アップする」


 ハルルが短剣をしまって代わりに旗を取り出す。それを振るとナーデアのAPが4になった。召喚したターンは攻撃できないキャラクターが多いが、ナーデアはアタック可能だ。ハルルは待機状態で攻撃できないが元々このターンは攻撃できない。デメリットを踏み倒す単純明快なコンボだ。


「ナーデアで≪鋼鱗のドラゴン≫にアタック」


 ナーデアがドラゴンを一刀両断する。野生の獣とは違い血などは出ずに消えてしまった。その時女の子の口角が僅かに上がった。


「MP2消費してクイックマジック≪ドラゴニック・リザレクション≫を発動! 墓場から≪鋼鱗のドラゴン≫を蘇生する」


 二体のキャラクターを使って処理した壁がまた出てしまった。速攻で相手を倒すことを目指す戦士ビートとドラコンでは長引けばこっちが不利だ。現時点での手札の消費はお互いに二枚。

 先程の攻防で相手は戦士ビートだと確信しただろうが、こちらはまだドラコンだと断定はできない状況であり、その点でもアドバンテージを取られている。


「アイテム≪救援の旗≫を使用してターンエンド」

「ドロー、MPを3まで回復。……そろそろ気づいた?」


 手札を眺めながらボソッと口にした。けれど、その一言がどういう意味かよく分からない。それをそのまま表情に出しながら首を傾げる。


「そう。じゃあこれでどう? マジック≪ブレイク≫を発動。≪救援の旗≫を破壊。MPを3消費してマジック≪竜の覇気≫を発動。次のターン開始時のMPを5にする。さらに一枚ドロー。≪鋼鱗のドラゴン≫を召喚してターンエンド」


 ≪鋼鱗のドラゴン≫二体目。≪竜の覇気≫でのMP補充。もう大型キャラクターの準備が整っているということだ。


「もしかして、青宮栞あおみやしおり……? 全国大会二連覇の?」

「そうよ。やっと気づいたわね"ノキュ"さん」


 何故彼女のような有名人が私のプレイネームを?

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