異世界に飛ばされたタロット師は、姫騎士の恋の未来を言い当てる。

黒崎吏虎

第1話 天才タロット師、異世界に飛ばされる。

 初めに言っておく。


俺は「園子勇利そのこゆうり」、タロット占いを専門にする占い師、歳は25歳だ。


テレビでは「100%当たる天才占い師」という触れ込みで、番組にも幾らかは出ているのだが______どういうわけか、今はドラゴンが上空を飛び交う、そんなところに来てしまっていた。


無論、何の前触れもなく、だ、この未来は見ていないから。


幾ら当たってしまう俺でも、見てもいない未来など、想定なんて出来るわけもないし、ましてや異世界だなんて非科学的な世界に飛ばされちゃあ、どうしようもないだろ? 俺だってそうだ、未だに状況を飲み込めていないからな。


俺は来るまでの記憶を思い出していた。


番組の収録を終えて、家に着いた時………それが全ての始まりだったのだから。




 本当に、数分かそこらの間だった。


リビングに入った瞬間、テーブルのある位置の上空にがあった。


まるで俺を手招いているかのように。


ハッキリ言って気味が悪かった。


無視して冷蔵庫から麦茶を出して飲み干す。


でも何度見ても、裂け目は消える気がしていなかった。


とはいえ、この超常現象をSNSで投稿すれば、警察が出動するのは待ったなしだろうし、バズるのは目に見えていたが………何度も言うが、これは俺の未来としては想定外もいいところだ。


これも予言ですか!? ………なんてフォロワーから飛ぶのは目に見えているだろうし、一生の笑いのメシにでもなりそうで俺は嫌だった。


高校時代からタロット占いをやり始めて約10年、俺は占いを外したことは一度もない。


………とはいっても、全部たまたま当たっただけで、本当に怖いくらいに的中していくものだから………それで“絶対に当たる”と言われると癪なものだ。


外せないプレッシャーというのは、兎にも角にも恐ろしい。


そんな状況の中で、ソファーに座った瞬間だった。


謎の青黒い手によって。俺は酒目の中へと引き摺り込まれていった。


何か叫んだのは覚えていない、だが恐ろしい思いをしたのは確かだ。


何が目的かも分からないまま………俺は今に至っている、そんな感じなんだ。





 仕事が忙しい状況で、こんな得体の知れない世界にいつまでもいる訳にはいかない。


俺は慌てて、仕事道具であるタロットを探した。


革ジャケにしまったタロットのケースを、俺は手に取った。


よかった、あった………そう思ったと同時に、俺は戻る方法は何なのかを調べ始めた。


シンプルに、円を描くように、8枚のカードを置いた。


そこで見た、俺が日本へ帰る方法の未来は………。


「悪魔正位置」、「審判逆位置」………最悪だ、これは。


何もねえ、ってことなのか………?? まあいい、次だ。


「運命の輪逆位置」、「力逆位置」………まさにそうだ、どん底、俺1人じゃどうしようもない………そう言い表しているな、これは。


今の俺じゃねえか、いい加減にしろ。


「愚者正位置」、「法王正位置」、か。


これは悪くはないな、だが右側だからこれから俺に起こる未来を示している………ということか。


なるほど、この未知の世界を歩いていれば、援助を得られる………ということか。


だけど知りたいのはこういう未来じゃねえんだよ、ふざけんな。


俺は日本に帰りたいんじゃ、ボケが。


そして俺は、最後の下側を捲った。


「太陽逆位置」、「星逆位置」………うわ、これはマズイな………


希望が絶望に変わり、理想が覆されている、ということだ。


つまり、統括すると………「俺が日本へ戻れる術はない」、「この世界で暮らせ」………そう言っているようにしか思えなかった。


だが法王正位置だけが救いだ、何故なら誰かが援助をしてくれる、そう言ってくれているのだから。


つってもなあ………右も左もわからねえまま、街に行かなきゃいけねえんだな………そう考えると憂鬱で仕方がなかった。


日本に帰れない、にもかかわらず、この世界で暮らさなければならない………俺の異世界転移生活は前途多難の幕開けとなるのであった。



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