異世界に飛ばされたタロット師は、姫騎士の恋の未来を言い当てる。
黒崎吏虎
第1話 天才タロット師、異世界に飛ばされる。
初めに言っておく。
俺は「
テレビでは「100%当たる天才占い師」という触れ込みで、番組にも幾らかは出ているのだが______どういうわけか、今はドラゴンが上空を飛び交う、そんなところに来てしまっていた。
無論、何の前触れもなく、だ、この未来は見ていないから。
幾ら当たってしまう俺でも、見てもいない未来など、想定なんて出来るわけもないし、ましてや異世界だなんて非科学的な世界に飛ばされちゃあ、どうしようもないだろ? 俺だってそうだ、未だに状況を飲み込めていないからな。
俺は来るまでの記憶を思い出していた。
番組の収録を終えて、家に着いた時………それが全ての始まりだったのだから。
本当に、数分かそこらの間だった。
リビングに入った瞬間、テーブルのある位置の上空に巨大な裂け目があった。
まるで俺を手招いているかのように。
ハッキリ言って気味が悪かった。
無視して冷蔵庫から麦茶を出して飲み干す。
でも何度見ても、裂け目は消える気がしていなかった。
とはいえ、この超常現象をSNSで投稿すれば、警察が出動するのは待ったなしだろうし、バズるのは目に見えていたが………何度も言うが、これは俺の未来としては想定外もいいところだ。
これも予言ですか!? ………なんてフォロワーから飛ぶのは目に見えているだろうし、一生の笑いのメシにでもなりそうで俺は嫌だった。
高校時代からタロット占いをやり始めて約10年、俺は占いを外したことは一度もない。
………とはいっても、全部たまたま当たっただけで、本当に怖いくらいに的中していくものだから………それで“絶対に当たる”と言われると癪なものだ。
外せないプレッシャーというのは、兎にも角にも恐ろしい。
そんな状況の中で、ソファーに座った瞬間だった。
謎の青黒い手によって。俺は酒目の中へと引き摺り込まれていった。
何か叫んだのは覚えていない、だが恐ろしい思いをしたのは確かだ。
何が目的かも分からないまま………俺は今に至っている、そんな感じなんだ。
仕事が忙しい状況で、こんな得体の知れない世界にいつまでもいる訳にはいかない。
俺は慌てて、仕事道具であるタロットを探した。
革ジャケにしまったタロットのケースを、俺は手に取った。
よかった、あった………そう思ったと同時に、俺は戻る方法は何なのかを調べ始めた。
シンプルに、円を描くように、8枚のカードを置いた。
そこで見た、俺が日本へ帰る方法の未来は………。
「悪魔正位置」、「審判逆位置」………最悪だ、これは。
何もねえ、ってことなのか………?? まあいい、次だ。
「運命の輪逆位置」、「力逆位置」………まさにそうだ、どん底、俺1人じゃどうしようもない………そう言い表しているな、これは。
今の俺じゃねえか、いい加減にしろ。
「愚者正位置」、「法王正位置」、か。
これは悪くはないな、だが右側だからこれから俺に起こる未来を示している………ということか。
なるほど、この未知の世界を歩いていれば、援助を得られる………ということか。
だけど知りたいのはこういう未来じゃねえんだよ、ふざけんな。
俺は日本に帰りたいんじゃ、ボケが。
そして俺は、最後の下側を捲った。
「太陽逆位置」、「星逆位置」………うわ、これはマズイな………
希望が絶望に変わり、理想が覆されている、ということだ。
つまり、統括すると………「俺が日本へ戻れる術はない」、「この世界で暮らせ」………そう言っているようにしか思えなかった。
だが法王正位置だけが救いだ、何故なら誰かが援助をしてくれる、そう言ってくれているのだから。
つってもなあ………右も左もわからねえまま、街に行かなきゃいけねえんだな………そう考えると憂鬱で仕方がなかった。
日本に帰れない、にもかかわらず、この世界で暮らさなければならない………俺の異世界転移生活は前途多難の幕開けとなるのであった。
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