しける海

航海は順調に進んだ。進鯨丸の乗組員たちは慎二が言った通り、これまで以上に見張りやワッチに力を入れ大海原を進んで行った。確かに海況は少し波が荒くなったいたが、船が進むには取るに足らないぐらいであった。

「このぐらいなら予定どうり、今週中には港に入港できそうですね。」

「あぁ、だが油断は禁物だ。」

川口にそう告げると慎二はレーダーを見た船の周りには漁船やらタンカー船やらがチラホラといた。しかし目視では見れないほど遠くにいる。

「船長、すいません。少しいいですか?」

1人の船乗りが慎二に声をかけた。

「どうした。」

「先程、他船から連絡がありまして、少し雲の様子が怪しくなってきたらしいのですが...。」

「そうか、少し待っていてくれ」

そう言って慎二は雨雲レーダーを見た。確かに怪しげな雲が進鯨丸の進行方向にあった。しかし、目的地まではあと1日程で着く予定だ。こんなところで足止めされても困るという考えもあった。

「川口を呼んでくれ。」

慎二は船員にたのんだ。

2,3分したところで川口がブリッジに入ってきた。

「どうされました?」

「いや、この先天候が荒れそうなんだが、今の状況で止まるのもどうかと思ってな。お前の意見が聞きたい。」

川口は腕を組んだ。そして、数秒悩んだところでそっと口を開いた。

「目的地までは残りわずかですし、このまま急ぎで走るのが1番ではないかと思います。」

「そうか、わかった。ありがとう。そしたら、船員を皆ここに呼んでくれ。」

「わかりました。」

川口は放送で船員たちを集めた。船員がみな集まると慎二はこれからの航海計画を伝えた。

「各自の仕事中にすまん。目的地まではあと丸1日ほどで着く予定だ。しかし、目的地の前で天候が荒れそうだ。なのでここから本船は急ぎで目的地に向かう。多少強引だが許してくれ。」

船員達は軽くぺこりと礼をすると、持ち場に戻っていった。慎二は電子海図に船の進路を記入するなど、計画通りに船を進ませるための準備に取り掛かった。

準備が一通り終わった頃にはもう夜になっていた。明日の業務は朝早い予定だったのですぐに自室に戻り寝ることにした。

その夜だった。急に船内には警報が鳴り響いた。

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