後進

1995年、慎二がまだ高校生の時だった。

慎二は家から近いという理由で長浜高校というところに通っていた。そこは慎二の家から自転車で30分ほどのところで偏差値も普通、そしてどの部活も中の下といったあまり目立たない高校であった。しいていうのなら海が近く、ヨット部やカヌー部といったマリンスポーツの部活があるという利点であった。そんな高校で慎二は至って変わらない高校生活をしていた。友達とも仲良く、勉強も少し上の順位を取っていた。

しかし慎二の心には何をやっても埋まらない隙間があった。それは友達や勉強では埋めることの出来ない、将来の不安から来ていた。

慎二は運動や勉強にあまり熱中しないようなやつだった。どんなことでも恥ずかしくないぐらいの結果を残せれば良いと思っていた。そのため自分が何をやりたいのか、ましてや将来の夢なんてないにも等しかった。このままではまずい、そんなことは慎二がよくわかっていた。どうしようかと考えた結果、慎二はなにか部活に入ろうと決めた。中学の頃は何にも入っていなかったため、慎二にとっては初めての経験だった。

その日からの放課後、慎二は一つ一つ部活を見てまわった。野球部やサッカー部などの球技部から吹奏楽部や演劇部などの文化部、さらには様々な同好会にも顔を出した。しかしやりたいものは見当たらなかった。別にやりたくない訳では無い。やろうと思えばできるものが多くあった。しかしどう足掻いても自分からやりたくなるようなものではなかった。それでは意味がなかった。自分から本気になれるもの、自らが率先して努力できるものを探していた。しかしどんなに探しても心を埋めてくれるような出会いはなかった。そんな日がひたすら過ぎていった。

そんなある日のこと、放課後が近づくと先生が慎二に声をかけた。

「慎二、海に興味無いか?」

唐突の質問に驚いた。

「海ですか?…微妙ですかね」

慎二は首を傾げた。そんな慎二に先生は1枚のプリントを渡した。とある同好会の説明だった。

「海洋研究会?」

「ああ、最近立ち上がった同好会でな、俺が顧問になったんだ。しかしまだ部員が1人しかいなくてな。どうだ?興味無いか?」

慎二は少し悩んでいた。様々な部活へ行ったが何も得られるものもない。こんなことをしているのならよっぽど勉強した方が効率的で意味があるのではないかと考え始めていた。最後にしよう。この同好会を見て得られるものがなければ、もう探すのは辞めようと決意した。

「分かりました。今日覗いて見ます。」

先生にそう告げると、慎二は階段を登って海洋研究会の教室へ向かった。

なぜだか分からないが足取りがやけに軽かった。そして心のどこかで期待している自分がいた。



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