『落日』
やましん(テンパー)
『落日』
『こうして、地球くんに真っ赤な夕日を届けてきたが、それも、終わりだなあ。長いような
短いような。ぼくの体が、間もなく大膨張する。地球くんは、ぎりぎりまで近くになるな。ちょっと、呑み込むかも。あれは、最後の海だ。生き物も、沢山いたが、もう、あまりいないみたいだ。そうそう、人間さんというのがいたなあ。ぼくの、わりにそばまで、宇宙船を飛ばしてきていたなあ。それも、少しの間だった。いつのまにか、互いに喧嘩して、いなくなった。でも、最近になって、どこからか、おかしなものが近くに来ている。人間のとは違うみたいだ。地球からではない。もっと遠くからみたいだなあ。最近は、木星さんも、土星君も、老化がすすんで、話ができないし。』
太陽さんは、寂しそうにつぶやきました。
『ああ、体がもぞもぞする。』
長生きな太陽さんの寿命は、100億年といわれます。
どんなに長い時間も、来てみれば、短いです。
さらに、宇宙の寿命に比べたら、ずっと短いのですが、宇宙にも、寿命があります。
太陽さんは、もうすぐ、赤色巨星になり、その先に、白色矮星になるといいますが、正確なところは、まだ分かりません。
ほんとのところは、観察していないと、解らないかも。
『ほんとは、ぼくの老後を、人間に観てほしかったんだんだけどな。残念。残念。』
そのとき、地球のかなたから、宇宙船が現れました。
『太陽さん、こんにちは。ぼくらは、地球人の子孫です。見た目は、だいぶん違いますけど。』
『え、お話ができるようになったのかい?』
『はい。長い長い研究でしたが。いま、我々は、木星の衛星、イオを拠点にしています。土星の衛星、タイタンには、大きな街があります。しかし、ぼくたちの体は、ふわふわなボールみたいなもので、いつも、水の中にいます。すぐに、弾けて壊れます。宇宙にはなかなか出られなかったのですが、ついに、ここまで、やってきました。
『ああ。うれしいなあ。じゃ、ぼくの最後を見ていてくれるかい?』
『それが、そこまでは、無理かもしれません。あなたの命の尺度と、ぼくらの尺度とは、ちがいすぎます。でも、膨張の始まりあたりは、観測したいです。』
それから、暫くは、その宇宙船から、子守唄とか、賑やかなマーチとかが、太陽さんにも、放送されていました。
やがて、いよいよ、太陽さんは、大膨張し始めました。
その宇宙船は、『さよなら。』といいました。
そうして、太陽さんの中に、呑まれたのです。
お母さんの中に、帰ったような感じでした。
その頃、かれらの植民地は、すでに、活動が止まっていました。
人類最後の、大冒険でした。
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『落日』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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