世界を超える旅人の世界漫遊記

@cloudy2022

なんの変哲もないプロローグ

――そうだ、旅をしよう。


 そう思い立ったのはいつのことだったか。

 いつもと変わらない日々に退屈してた少年時代?

 家族に頼りっきりだったことへのむずがゆさを感じていた時代?

 それとも……一人ぼっちになっていたところを誰かに拾われたあの時か?

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 とにかく俺は旅に出たんだ。


 この、数多の世界が存在する世界に向かって。











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――ピピピピッ! ピピピピッ! ピピピピッ! ピピピピッ!


「んぁ?」


 けたたましい音とともに、俺は目を覚ます。

 寝起きのせいで頭がボーっとしているな……。

 ああ、もう朝なのか。

 昨日は疲れてすぐ寝ちまったからな。

 身体中が痛ぇ……。

 それにしても変な夢を見た気がするな……。

 何だっけか……。


 …………気にしてても仕方ねぇ。とりあえず、学校へ行く準備をしないとな。


「おっし、の高校生活だ。気ぃ引き締めていくか」


 俺は手早く制服へと着替えると、朝食もそこそこに家を出た。

 久々だからって浮かれて遅刻なんてしたらダサいもんな。

 俺の新しい日常が始まる。

 その期待感を胸に抱きながら、準備を済ませた俺は足早に通学路を歩いていった。











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「「「「「――ようこそ! 聖城せいじょう学園へ!」」


 学生服に身を包んだ人達が目指す場所――『聖城学園』の校門前に着くなり、制服に身を包んで待ち構えていた生徒が声を合わせて出迎えてくれた。おそらく、ここの在校生、それも三年生だろう。

 そんな彼らに一礼をして、生徒玄関へとつながる石畳の道を進んでいく。

 時折、他の生徒に追い抜かされていくが彼らの晴れやかな笑顔を見て、少しだけ緊張してしまう。


「ふぅー……」


 思わず息を漏らす。

 緊張してるのか?

 ……そうかもしれない。だって、今日は新しい場所での新しい生活だからな。

 だけど、それだけじゃない。

 俺にはもう一つの理由があった。それは――


「うわ、めっちゃ美人じゃん!」

「えっ!? やばっ! 背高いし、足長いし、肌白いし……モデルかな?」

「あ、でも、なんか見覚えある」

「ほら、あの中学の……」


 すれ違う生徒達の視線を一身に浴びている美女の存在だった。

 そんな彼女は周りの目などお構いなしといった感じで堂々とした態度で歩いている。

 彼女の美しさに見惚れて振り返る者も少なくはない。


 それなりに高いと思ってる俺の身長に匹敵するほどの背に、長く整えられた黒髪。

 そして、日本人離れした端正な顔立ちをしている。

 誰もが振り向くような絶世の美女と言っても過言ではない容姿をした彼女だが、俺にとってはどこか懐かしさを感じさせる存在でもあった。

 そんな彼女はきょろきょろと周囲を見回している。まるで何かを探し求めているように……。


 やがて、目的の人物を見つけられたのかパッと表情が明るくなり、彼女はこちらに向かって駆け寄ってくる。

 かすかな望みをかけて彼女の進路上に立つ人物を探したが、彼女の美貌に圧倒されて俺より彼女と近い位置にいる生徒の姿はなかった。

 少し場からこれから起きるであろう面倒事を想像して目が死んでいると、彼女が俺の目の前に来たところで立ち止まった。


「お久しぶりですね、春日かすが君」

「……久しぶり、たちばな


 そう言って微笑みかけてきた彼女は、たちばな静流しずる

 俺の中学時代の友人だ。











~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~











「今回も同じクラスですね。またよろしくお願いします」


 教室へと向かう道中で、橘がそんなことを言ってきた。


「ああ、そうだな」


 俺はぶっきらぼうに返事をする。

 正直、彼女とはあまり関わりたくなかったからだ。

 というのも、俺は橘に対して苦手意識を持っている。

 その理由は、彼女にはがあり、それがひっ…………じょ~にめんどくさいものだからだ。


「ん? どうしましたか、そんなに私の顔をじっと見つめて」

「いや、なんでもないよ」

「そうですか。……あ、もしかして私に見惚れてましたか? ふふっ、仕方ありませんね。そこまで言うならもっと近くで見てもいいんですよ?」

「……目の毒だからやめてくれ……」

「あら、つれない」


 こんな風に冗談を言うところは相変わらずだな……。

 まあ、こいつのことだから、そんなに深い意味があって言ったわけじゃなさそうだな。

 俺は改めて橘の顔を見る。

 やっぱり綺麗だよなぁ……。

 でもなぁ……秘密の事情云々がすべてを破壊してるからなぁ……。

 そう思ってると教室の扉が開き、誰かが入ってきた。


「入学おめでとうございます! 私の名前は言之葉ことのはすずめです! 皆さんはこの聖城せいじょう高等学校の生徒として認められました! これから3年間よろしくお願いしますね!」


 元気いっぱいといった様子の少女が笑顔を浮かべている。

 彼女の名前は言之葉ことのはすずめ。このクラスの担任の先生らしい。


「それでは早速、自己紹介を始めましょう! まずは出席番号一番の方、どうぞ!」


 その言葉を皮切りに次々とクラスメイト達が自己紹介をしていく。


相川あいかわきよしです! 中学の時は野球やってました! 特技は――」

「い、飯島いいじまはるかです! 趣味は本を読むことで――」

「三番、大島おおしま元樹げんき! 中学の時は柔道部の主将でした! みんなの力に――」


 次々と俺よりも出席番号の早いクラスメイトが黒板の前に立ち、次々と自己紹介をしていく。

 そんな中、ついに俺の出番が来た。

 よし、行くか……。

 大きく深呼吸をして気合を入れると、ゆっくりと教壇の前へと歩いていく。


「四番、春日かすが晴人はるとといいます。中学時代は様々な部活のサポートとして呼ばれていました。趣味は遠くへ出かけることです。よろしくお願いします」


 言い終えてから一礼すると、パチパチと拍手が起こる。

 顔を上げると、女子生徒達から熱っぽい視線を感じた。うわっ、なんか怖えぇな。

 そんなことを考えながら席に戻る。


「はい、ありがとうございました。それでは、次は出席番号五番の方お願いします」

「はい!」


 俺の次に呼ばれた女子生徒が立ち上がる。

 そして、人懐っこい笑みを浮かべて口を開いた。


「はじめまして! 私はカーラ・ベアトリス・スカーレットと言います! 気軽にカーラって呼んでね? よろしくお願いします!」


 そう言う彼女――カーラは、金髪のツインテールを揺らしながら元気溌剌はつらつに自己紹介を終えた。

 ……どこかで聞いたことがあるような名前なんだが……気のせいじゃないな……。


「おぉ! 快活系金髪ツインテール外国人美少女だと!」

「属性多すぎるだろ!」

「橘さんとはまた違った魅力があるぅ……お人形さんみたいぃ……」

「お~っと、ここでまさかの外国籍のお方の登場ですよ~。さすが、聖城高校ですね~」

「そ、そうみたいだな……」


 言之葉の興奮気味の言葉に、思わず苦笑いしてしまう。

 ほかのクラスメイトも外国籍の美少女を目にしてテンションが上がっているようだ。……上がりすぎじゃねぇか?


「趣味はもちろん勉強よ! 特に世界史とか歴史が好きなんだ! あとは――」


 それから彼女は色々と話していたが、俺の頭には入ってこなかった。

 いやさぁ……たとえこの聖城学園が国外の学校と交換留学制度を実施しているとはいえ、こんなにもがいるとは思わないじゃん。

 中学の先生(めっちゃいい人)におすすめされて聖城に来たけど、さすがに作為的なものを感じかねない……けど、ただの偶然なんだろうなぁ……。

 そんな彼女は、「ふふんっ♪」と上機嫌に自身の席に戻ろうとして……俺と視線がかち合った。


「……あ」


 「あ」ってなんだ「あ」って。

 こっちを見ながら今気づいたって顔をするんじゃない、そこの見たことないと思いたい女子。


「……晴ちゃん?」

「…………」


 俺はその声を聞いていないといわんばかりに机に突っ伏す。


――エー、ワタシ、アナタノコト、ハジメテシリマシター。アト、キノウゼンゼンネムッテイナイノデ、イマカラオヒルネシマス―。


 そういうオーラを全身から放ち、知らぬ存ぜぬを貫き通そうとする。

 しかし、そんなことなどお構いなしといった様子で話しかけてきた。


「晴ちゃーん! 久しぶりだね! 元気だった!?」

「…………」

「ちょっと! 無視しないでよ! ほら、起きて!」

「ぐえっ!」


 突っ伏していた俺を、首根っこをつかむことで強引に起こしたカーラさんは、満面の笑みを浮かべていた。


「どうしたの? 私だよ! 幼馴染のカーラ・ベアトリス・スカーレット! 忘れたなんて言わせないんだからね!」

「い、痛えな……。覚えてるっての……。相変わらず強引なところは変わってねえのか」

「えへへ……褒めても何も出ないよ!」

「褒めてねぇっつうの……たくっ、ほら、自分の席に戻れ」

「はーい!」


 カーラは素直に俺の指示に従い、自身の席へと戻っていった。

 それにしても……まさか同じクラスになるとはな……。

 まぁ、あいつのことだからこの学校にいてもおかしくはないと思っていたが、まさか本当にいるとは思わなかったぞ。

 これからは、もっと注意しないといけないな。


「え、カーラさん、あの四番の人と知り合い……?」

「それも相当親しそうにしてたけど……」

「やはり、イケメンには美女美少女が集まるでござるな」


 ……周りから視線を集めてしまったことも含めてな


「え、えっと……それでは次に行きましょうかね。次は出席番号八番の方、お願いします!」


 俺とカーラのやり取りを見て呆然としていた司会役の先生は、ハッと我に返ったように進行を再開した。

 ……いかんいかん。このままだと俺の学生ライフに「美女美少女と関係のあるやべーやつ」という肩書が刻まれてしまう。それは避けなければ……!


 そんなこんなで、俺の学生生活は始まったのである。











~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~











(さて、どうしましょうか……?)


 ため息を大きく吐く晴人の姿を見つつ、たちばな静流しずるは考える。

 彼女の目の前にいるのはこれから三年間を共にするクラスメイトであり、同時にの同僚でもある人物だ。

 普段は大人しく真面目な印象を受ける彼だが、今は見る影もないほどに落ち込んでいるように見える。


(う~ん、これは重症ですわね。一体何があったのでしょうか……? 心当たりがありませんけど……)


 ちなみに、彼が落ち込んでる原因は、美女美少女と交友関係があるが故に起こりうる面倒事に関してなのだが、そんなことは静流の想定にはなかった。

 そもそも彼女はこの聖城学園に特待生として来ている。

 そして、彼女の生まれも相当な貴族階級の出だ。

 そのため、多少の問題ごとなどは自分で解決できるくらいの実力はあるし、それ相応に知識もある。

 むしろそれを期待されて特待生へと推薦されている節もある。

 しかし、そんな彼女でも今回の件は手に余っていた。

 悲しきかな。上流階級に生まれてしまったがゆえに庶民の暮らしに疎いところがあるのだ。

 だから、彼女が今一番気にしているのは――


(カーラさん……春日さんと親しい様子でしたが……)


先ほどの光景を思い出し、思わずため息を漏らしてしまう。

あの二人の間に割って入る勇気は彼女にはなく、また、それが許されるような立場でもないと思っている。


(もし、私が春日さんの幼馴染だったら……いえ、せめてもう少し仲良くなれたらよかったのですが……)


 そんなことを考えながらも、静流は自身の役目を果たすべく思考を進める。


(まぁ、過ぎたことを悔やんでも仕方ないですわ。まずは今の状況を整理しませんと……)


 そこで彼女は、自分が考えるべきことを考える。

 現状として、彼は完全に意気消沈しており、何を言っても上の空だろう。

 今夜のに差し支えなければいいのだが……そう心の中で思いつつも、彼女はニコッと微笑んでこう考えた。


(後で一緒にトレーニングしましょう! そうしましょう!)


 悲しきかな。

 彼女は見かけによらず脳筋であった。


 そんなことがありつつも、学園生活初日の自己紹介は終わった。

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