ポリスマインド

マサマサ

第1話 警察学校卒業

「卒業生気をつけ!敬礼!!」「卒業生退場!」教官の号令とともに式典は終了した。卒業生控室では式典を終え、同期達は涙ながらに互いの健闘を讃えあっていた。そんな同期達を眺めながら、立花恭二は何の感情も湧いてこない事に戸惑っていた。

「相変わらず冷めてんなー」

 同期の佐藤隆文が肩に手を回しながら小突いてきた。

「別にそうなんじゃねーよ!もう気持ちは交番勤務に向いてんだよ俺は!」

 取ってつけたような言い訳をしつつ、なぜ感情が湧いてこないのかを思案していた。決して楽な学校生活だった訳ではない。自分なりに全力でやってきたつもりでいた。しかし、知らず知らずのうちに適当に力を抜いてしまっていたのだろうか?なぜ達成感や解放される喜びが自分にはないのか。分からない。

 そうしている間にセレモニーは進み、教官達と別れの握手をする事になった。

 学校生活で二つのことを学んだ。一つは、他人と違うことをしない。そしてもう一つは馬鹿になることだ。

 教官は他人と違うことをする生徒を良い意味でも悪い意味でも目をつける。どちらに転ぶかは教官との相性次第だ。悪目立ちし、評価の悪い生徒が失敗すると、ここぞとばかりに吊し上げられる。「だからお前はダメなんだよ!向いてないから辞めろ」そう叱責され何人もの同期が辞めていった。

 次の馬鹿になるとは頭の良し悪しではない。どちらかというと語源に近い。上が馬と言えば鹿でも馬である。つまりは上の気にいる言動を心がけるのだ。

 俺は同期達が泣きながら教官達と握手しているのを見て、涙が出ない目を必死に擦った。普段厳しかった教官達が簡単な思い出話をしてよく頑張ったと優しい言葉を掛けてくれた。そんなことされたら泣いてしまうだろうと思ったが、やはり涙は出なかった。なんで泣けないんだと思ったが出ないものは仕方がないので俯きながら必死に鼻をすすった。

 そんな時、辞めていった同期のひとりが「お前は俺と似ているから、絶対続かないって一緒に辞めようぜ。今辞めないと絶対後悔するって」と誘ってきたことを思い出した。当時は負け犬が俺を巻き込むなと思ったが、周りから見たら俺は警察に向いていないのだろうかと胸がざわつきはじめた。一度気になりだすとなかなか気持ちを切り替えられない性分である。同期総代が何やら代表挨拶をしているがまったく耳に入ってこない。

「乗車!」

 総代の言葉で我に帰った。配置先は事前に知らされていた。配置になる川田署行きのワゴン車に俺は飛び乗った。卒業式に出席していた両親と言葉を交わすことなく警察学校を後にする。両親との関係は良好とは言えなかったので、気にすることはなかった。

 俺は県庁所在地を有する川田署の南雲交番に配置されることになっていた。

 ワゴン車に揺られながら、流れる景色を眺めていると、隣に座る佐藤がにやつきながら小突いてきた。

「いてぇな」

「なあ、お前ハズレだな」

「あ?何が?」

突然にやけ顔で失礼なことを言って来るので流石にイラつきが態度に出てしまった。そんな俺を気にせず、相変わらずにやけながら佐藤は続けた。

「お前の班長、真田さんだっけ?高校の先輩が一緒に仕事したことあるらしいけど、パワハラすごいらしいぞ!絶対やめんなよ!」

嬉しそうに説明する佐藤がムカついたので肩を強めに殴りながら、お前はどうなんだと聞き返した。

「俺は仏の田辺さん。まじどんな落ちこぼれでも優しく指導してくれるらしい。よかったぁ」

 俺は署に着くまで目を閉じることにした。

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