体育教師と滅びの魔女(仮題)

バネ屋

#01 騎士隊隊長、自爆しました





カーライ♪カーライ♪

トーレイ♪トーレイ♪


うぉー!

わぁー!


タタライタタライ!


うおぉぉぉぉぉ!!!





 日の出とともに始まった耳障りな地なりの様な歌と踊り。

 城壁を囲む蛮族どもの野蛮な雄たけびが城内にも聞こえる。


 我が国の敗残兵の報告では、戦いを前に勝利を祈って神へ捧げる踊りらしい。この踊りが終わると蛮族どもの攻撃が始まる。



 今、350年続いた王国の歴史の幕を閉じようとしている。


 収穫の季節を前に突如国境を越えて侵攻してきた北方のカーラ台地の戦闘民族を前に、我が王国はその勢いを押し返すことが出来ず王都までの侵攻を許し、そして今は王都の街は蹂躙され王族や貴族と実戦経験の乏しい兵を中心に王城に立てこもり籠城している。


 もはや食料も尽き、兵士や貴族は日に日に逃亡を企てては蛮族に捕まり、見せしめの為に城門前にて拷問された後に斬首され、残された城内の者たちの士気は地に落ちている。






「陛下、作戦の準備が整いました。 王妃様、姫様と共に南門へお急ぎ下さい」


「そうか、分かった。 今まで長きに渡り良く余を支えてくれたそなたの忠心、忘れぬぞ」


「勿体ないお言葉有難き幸せ。 どうかご無事をお祈りしております」


「そなたも武運を祈っておる」





 陛下との今生の別れの後、北門前の広場へ移動する。

広場には場内に残った兵の3分の2が集結している。と言っても、騎兵が10騎、歩兵が50程だ。


 ここに集まった兵は、陛下と王妃、そして姫様を南門から逃がすための囮となる決死兵。

 俺はその指揮を執る。


 既に神の国へと旅立った妻と娘との別れも済ませ、後はただ蛮族どもを一人でも多く道ずれにして、家族の後を追うのみ。



「皆のものよく聞け! これより!城門より打って出る! 城門爆破と共に爆煙の中、突撃する!工兵は速やかに瓦礫の除去を済ませろ! 速度を保て!仲間が脱落しても足を止めるな!一人でも多くの蛮族どもの首を取れ!」


オォー!



「作戦を開始する! 抜刀!」




ズドォォォーン!!!



 吹き取んだ城門の瓦礫の除去が始まる。

 まだ作業が途中ではあるが、右手に持った愛剣を正面に掲げ声を張り上げる。



「突撃ィィ!!!」



うぉぉー!!!



 騎馬の腹を蹴り体を前に伏せて爆煙の中へ突っ込む。まだ踊りを続けている蛮族どもの陣地に向けてひたすら騎馬を走らせる。


 途中、目に付いた敵兵の首を狙って剣を振るう。


 ただ闇雲に突き進みながら剣を振るう。

 足を切られようと肩に矢が刺さろうと騎馬と共に突き進む。


 気付けば、周りには味方は居らず、ただ一人敵陣深くで馬と共に孤軍戦う。


 そして遂にその騎馬も倒れ、一人となる。


 利き腕は既に使えず、愛剣も敵兵の血でもう切れない。

 立っているのがやっとの状況で、周りには何十もの敵兵が血走った目で俺を囲む。



陛下は無事に逃げられたであろうか。


サリナ、アイナ

俺も今から逝く。

もう少しだから、待っていてくれ。




 愛剣を地面に突き立てると、兜を脱ぎ捨て術式を唱える。


 すると、鎧の内側に仕込んだ魔道具が熱を持ち始め…



ズドォォォーン!!!





















 気が付くと、何も音のしない空間に倒れていた。


 体中の痛みは感じなくなっており、「ああ、ここが神の国なのか」と思うも、周りにはなんの気配も感じない。



 目を見開くと、無音無臭の灰色の世界。

 体を起こして立ち上がると、自分が何も身に着けていないことに気が付く。


「魔道具で体ごと吹き飛ばしたからな。服も鎧も残ってはいないか」



 辺りを見回すと、遠くの方に1点光っている場所がある。


 とりあえずソコを目指して歩くことにした。



 どれほどの時間歩いただろうか。

 この世界に来てから時間の感覚が欠如しているのか、長時間なのか短時間なのか全く分からない。

 体の疲れを感じないし、喉の渇きも無い。ただひたすら前を進むために足を動かしていた。


 光りの元へ辿り着くと、人間の頭部程の大きさの水晶が宙に浮いていた。


 なんだろうか?と思い眺めていると、声が聞こえて来た。


 正確には、耳を通して聞こえるのではなく、頭の中に直接響いているようだ。



「おぉ、死んでしまうとは、情けない」


「え?」







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