54話。海竜王リヴァイアサンを倒す

「行くぞアルティナ、【金剛竜鱗】!」


 僕は海竜王が使ったバフ魔法をアルティナにかけた。


「なにぃいいい!? 全身を金剛化だと!?」


「これは……おおっ、すごいのじゃ! 極限とも言える攻防一体のバフ魔法じゃな!」


 海竜王が瞠目し、アルティナが歓声を上げた。

 アルティナの全身が黄金に輝き、物理防御力と魔法防御力が、飛躍的に跳ね上がった。


 僕は【金剛竜鱗】を改良し、腕だけでなく、アルティナの全身にその効果を行き渡らせたのだ。


「くそぉおおお! だが、パワーなら圧倒的に俺の方が上だぁ! クソガキどもが、ぶっ潰してやるぜぇ!」


 海竜王が尻尾を鞭のように振るって、叩きつけてきた。

 尻尾に【金剛竜鱗】を付与したようで、黄金に輝いていた。当たれば大地をも砕くであろう一撃だ。


 ぐっ、こちらも全力で迎撃するしかない。

 僕は魔剣グラムに魔力を注ぎ込もうとし……


「カルよ、ここはわらわに任せるのじゃ!」


 だが、アルティナが拳を振るうと、海竜王の尻尾は水風船のように砕け散った。


「ぎゃあぁああああ!?」


「なっ、わらわのダメージは0!?」


 アルティナは目を瞬いて、唖然とする。


「ドラゴンの姿になったアルティナの力は想像以上だな」


 これは頼もしい。


「いや、わらわの地力ではなく、明らかにカルの魔法のおかげじゃぞ。これは……」


「おっ、おおお、おのれ……!」


 海竜王の尻尾は瞬時に再生するが、ヤツの顔には苦悶が浮かんでいた。

 海竜王の生命力とて無限ではないのだろう。消耗し、怯んだ今がチャンスだ。


「一気に畳み掛ける。アルティナ、【黒炎のブレス】だ! 合わせてくれ!」


「おう! 任せるのじゃ!」


 アルティナが詠唱に入る。今までとは比べ物にならない絶大な力が、その口腔に収束されていく。

 僕も魔剣グラムに残りのありったけの魔力を注いで、巨大な【無の光刃】を生み出した。


「お、俺は大海の支配者、海竜王リヴァイアサンだぞ! たかだか400年程度しか生きていない小娘とガキごときが、どうにかできると思ったか!?」


 海竜王は大口を開けて、ドラゴンブレスを発射する構えを見せた。

 地殻すら揺るがす強烈な魔力が、その身から溢れ出す。おそらく、切り札の竜魔法を放つつもりだ。


「砕け散れぇええええ!【氷海のブレス】!」


 白く輝く絶対零度のドラゴンブレスが、撃ち出された。万物を凍てつかせる猛威が迫りくる。


「おぉおおおおおお──っ!」


「【黒炎のブレス】!」


 僕とアルティナの最大最強の技が、【氷海のブレス】を迎え撃った。

 その時、不可思議な現象が起きた。僕の【無の光刃】がアルティナの【黒炎のブレス】を絡め取って吸収したのだ。


「なにぃいいい!?」


 【無の光刃】はドス黒く変色し、爆発的に威力が増した。凶悪な【黒い光刃】が、【氷海のブレス】を断ち切って、突き進む。


 そうか【無】とは根源なる無色の力。アルティナの【冥】の力を吸収して、変質、強大化したのか?

 いや、それだけではない。【氷海のブレス】の余波が、不思議なことに僕たちに一切届いていない。


「俺の俺の……【氷海のブレス】が飲み込まれているだと!?」


 海竜王が恐怖の絶叫を上げた。

 【無の光刃】が吸収しているのは、【黒炎のブレス】だけではなかった。

 海竜王の【氷海のブレス】をも飲み込んで変質し、さらに威力を増していく。


「あぁああああああ! 化け物めぇ……! てめぇはやっぱり人間じゃあ……!」


 その断末魔の叫びが最後だった。

 海竜王は【ニ色の光刃】に叩き斬られ、巨体が光の粒子となって消滅した。

 大海の支配者として、人々から恐れられた海竜王の最後だった。

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