21話。兄レオン、カルに謝罪させられる
「レオン様、システィーナ王女殿下に謝罪を……このままでは本当に死刑になってしまいますぞ!」
竜騎士のひとりがレオンに進言した。
「くぅっ……いくらシスティーナ王女でも、俺を死刑にするなんて横暴は……」
「レオン殿、わたくしは本気ですわよ。お父様にもかけあい、きっと極刑を申し付けます。
お嫌ということでしたら、わたくしだけでなく、カル殿と猫耳族のみなさんにも謝罪なさい」
システィーナ王女は凛とした美声で言い放つ。
「お、俺にカルとネコ蛮族どもに頭を下げろだと!?」
「レオン様! 王女殿下に対してその口のききかたは!? ヴァルム家そのものを危うくしますぞ!」
「もし、あくまで王女殿下に逆らうおつもりなら、もう従えません! 私もヴァルム家を退去いたします!」
「な、なんだと……っ!?」
家臣たちからも非難の声が上がり、レオンは押し黙った。
「ぐぅううううっ!」
レオンは顔を真っ赤にして、歯軋りする。
「カ、カル。それとネコ蛮族、お、俺が悪かった……!」
なんとあのプライドの塊のようなレオンが謝罪した。
「心がこもっておりませんわ。もう一度! それにネコ蛮族ではなく、猫耳族です!」
「ぎゃぁあああ!」
王女殿下の容赦のない追い打ちに、レオンは発狂したような声を上げる。
「カル、猫耳族……お、おおおお、俺が悪かった!」
「はぁ? なんですか、その尊大な態度は? 頭が高いですわ! しっかり地面に頭をつけて土下座なさい!」
「ぎゃぁあああ!」
レオンは屈辱に絶叫した。
「システィーナ王女殿下、もう十分です。レオン兄上が猫耳族にしたことは確かに許せませんが。僕はレオン兄上の謝罪を受け入れたいと思います。幸い死者は出ませんでしたし……兄上を死刑にすることはお許しください」
なにより、レオンの秘密を暴露しすぎて、ちょっと気の毒になっていた。
好きな女の子に気持ちを知られて、ドン引きされるなんて、死刑になるよりツライかも知れない。竜騎士たちの人望も失ってしまったしね。
「まあっ、カル殿がそうおっしゃるのであれば……わかりましたわ。レオン殿は国外追放処分にとどめておきましょう」
王女殿下は僕に見つめられると、なぜか顔をポッと赤らめた。
「はぁ、国外追放だと!? 重すぎる刑罰じゃねぇかよ!? 俺は栄光あるヴァルム侯爵家の跡取りなんだぞ!」
「お黙りなさい! 不服なら百叩きも追加しますわよ! カル殿に感謝なさい、この愚か者!」
「ぐぅっ!?」
「はぁ、カルの兄とは思えぬバカじゃな」
アルティナが肩を竦めた。
「ありがとうございます。王女殿下、実はもう一つお願いがあります。僕はヴァルムの名を捨てたいと思います。僕に新しい家名をいただけないでしょうか?」
今までの自分を捨てて、新しい自分に生まれ変わるために、必要な儀式だった。
僕はもうヴァルム家に未練はない。死んだ母上も、僕の門出をきっと祝ってくれるだろう。
母上は僕に呪いを伝播させてしまったことをずっと悔いていた。
あなたの未来を奪ってしまって本当にごめんなさい、と懺悔していた。
いいや違う。この呪いを受けたおかげで、僕は無詠唱魔法を身に着けることができた。アルティナと出会うことができた。
母上が僕に与えてくれたモノは、すべて僕の幸福に繋がっていたんだ。それをこれからの人生で証明してみせる。
「わかりましたわ。ではこの島の古い名にちなんで、アルスターの家名を与えます。これからは、カル・アルスター男爵と名乗りなさい。誉れ高き英雄カインの血を引く者、あなたには期待しておりますわ」
「はっ!」
システィーナ王女は右手の甲を差し出した。
僕はその手を取ってキスをする。
これは王女への忠誠を示す行為だ。
システィーナ王女は、ほんのりと頬を上気させて、僕の忠誠を受け取った。
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