竜王に拾われて魔法を極めた少年、追放を言い渡した家族の前でうっかり無双してしまう~兄上たちが僕の仲間を攻撃するなら、徹底的にやり返します〜

こはるんるん

1話。14歳で実家を追放される

「カル、お前のような魔法の使えない欠陥品は、我が栄光の侯爵家には必要ない。追放だ!」


 ……えっ、ち、父上、何を?

 14歳の誕生日に突然、父上から投げかけられた言葉に、僕はあ然とした。


「……父上。僕はもう欠陥品なんかじゃありません。必死に古代文字を研究して、たったひとつですが、失われた無詠唱魔法を使えるようになったんです」


 このヴァルム侯爵家は、竜殺しを家業とする武門の一族だ。人間に仇なす数々の竜を討伐してきた。


 だけど、その結果、七大竜王の一柱、聖竜王の恨みを買って、母上は呪いを受けた。

 この呪いは遺伝する性質を持っており、僕は生まれつき呪文の詠唱を封じられていた。

 

 日常会話は普通にできるのだが、呪文を発しようとすると声が出なくなる。

 僕が生まれた日、父上は絶大な魔力を持った息子が生まれたと喜んだそうだ。でも、すぐに呪いの遺伝に気づいて、深く落胆したという。


「伝説の無詠唱魔法だと? 呪われた欠陥品が、デタラメを言いおって、なら今すぐ魔法を使ってみせろ!」


 父上は激怒して、僕の誕生日ケーキが乗ったテーブルを殴りつけた。テーブルが粉砕されて、贅を凝らした料理が床にぶちまけられる。

 侍女たちが悲鳴を上げた。


 この家で、唯一僕を庇ってくれた母上は先月、亡くなった。それから一気に僕への風当たりが強くなった。

 父上は呪いを受けて生まれた僕を、【忌み子】として強く毛嫌いしており、遠ざけてきた。

 こうして、言葉を交わすのさえ久しぶりだ。

 

「僕が使えるようになったのはバフ魔法の【筋力増強(ストレングス・ブースト)】です。これでレオン兄上の能力値を上げていました。

 最近のレオン兄上の目覚ましい活躍に微力ながら貢献しています。父上もご存知では?」


「……まさか、そんな嘘をつくとはな。兄の手柄を自分のおかげだと言い張るつもりか!?」


 えっ? そんなつもりはなかったのだけど……

 僕はレオン兄上が無事に竜を討伐して帰って来られるように、精一杯の支援をしてきた。


 もしかして、レオン兄上はそのことを父上にちゃんと伝えていなかったのか?

 そのことに思い至って血の気が引いた。

 

 なら無詠唱魔法を実演して、誤解を解かなくてはならない。

 僕は慌てて【筋力増強(ストレングス・ブースト)】を発動させるべく、父上に触れようとした。

 この魔法を使うには、相手に触れる必要がある。


「触るな、忌み子が! 呪いが移る!」


 父上は穢らわしいとばかりに、鞘に収めた剣で僕を殴りつけた。

 口の中が切れて、血の味が広がる。


 僕の呪いは、接触感染するような物ではない。だけど父上は、呪いが及ぶことを恐れて、母上にも僕にも決して触れようとしなかった。

 それが母上を、どれだけ傷つけてきたかわからない。

 悔しさを噛み締めつつ、僕は告げた。


「父上、この魔法は相手に触れる必要があります。どうか、実演の機会をいただけないでしょうか?」


「もう良い。荷物をまとめて、さっさと出ていけ! 貴様の顔など見たくもないわ!」


「ハハハハハッ! 父上、それはいくらなんで無慈悲すぎます。カルにもチャンスを与えてやりましょう」


 その時、4歳上の兄レオンが、ニヤニヤ笑いながら告げた。

 僕は歓喜した。

 やっぱり僕の貢献は、兄上に通じていたんだ。


「少し前からドラゴンどもが巣を作りだした無人島があります。そこにカルを放り込むのは、どうでしょうか? 自力で生きて帰れたら、ヴァルム家の一員として認めてやるというのは?」


 だが、レオン兄上は僕の処刑を宣言した。

 い、一体、レオン兄上は何を言っているんだ……?


「妙案だな! それならヴァルム家が呪われた子を追放したなどという醜聞が広まることもない。むしろ、竜に殺されたのなら名誉の戦死と言える」


「はい。カルには俺の竜殺しを見学させるつもりが、過って島に落ちてしまったと他の者に説明すれば、ヴァルム家の家紋に傷はつきません。不幸な事故というヤツですよ」


 僕は目の前の現実を受け入れられなかった。

 父や兄からは冷遇されてきたが、それでも家族なのだと、心のどこかで信じてきた。


「カルよ、お前が伝説の無詠唱魔法を使えるほどの魔法使いなら、竜どもを撃退して生きて帰れるハズだ。それができぬなら、黙って死ぬが良い!」


 父上が無慈悲に告げた。

 レオン兄上が口笛を吹くと、飛竜が屋敷のバルコニーまでやってくる。ヴァルム家は竜を殺すために、竜を飼っていた。


 強大な竜を支配し、その生殺与奪の権を握っていることは、武門の頂点たるヴァルム家の誉れだ。

 僕は最後の希望をかけて、必死に訴える。


「レオン兄上。僕は兄上の無事を祈って、毎日、バフ魔法をかけ続けてきました。僕たちは兄弟なのに……追放なんて嘘ですよね?」


「はぁ? 呪われた欠陥品の分際で、この俺の弟だと? バカも休み休み言うんだな!」


 しかし返ってきたのは、蔑みの声だった。レオン兄上は、僕の首根っこを掴んで飛竜に飛び乗る。


「それにバフ魔法だぁ? 俺の活躍は、全部、俺の才能のおかげに決まっているだろが!」

 

 どうやら、この2年間、毎日バフ魔法をかけ続けたために、兄上はその恩恵を感じにくくなっていたらしい。

 僕が父上や兄上に認められようとしてきた努力は、全部、無駄だったんだな。


 母上がいなくなった今、もし生き延びることができたなら。

 もうヴァルム家のためではなく、自分のために魔法を使おうと僕は決心した。


―――――――

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