第61話 エルザの場合 新鮮さで勝負


とうとう、あたいの番だ。


料理の技術は無い。


知識…勉強は嫌いだ。


だが、この勝負は負けたくねぇ。


だから、あたいは此奴で勝負だ。


ちょっとした賭けだ、セレナがこれが好きならあたいの勝ち。


受け付けないタイプなら…完全な敗北だ。


◆◆◆


「また、外ですのね…」


「何を考えているのかしら?まさか私の2番煎じなの?」


何故かまだエルザは此処に来ていない。


僕にとって懐かしい味はもう出てしまっている。


普通に考えたら相当不利だよな。


エルザは一体、何をしようというんだろう…


一応、大きな板に大きな包丁…そして、これはニンニク? 


えっ、これは醤油…セレスお父さんが良く使っていたっけ。


ワサビもある…だけど、魚が無いから『刺身』じゃ無いよな。


う~ん、想像もつかないな。


◆◆◆


「待たせたな、皆! ちょっと狩れなかったんだ!」


「ブモモモーーッ」


「「「牛?!」」」


「そうだよ!料理の腕は無いから、アイデアと新鮮さで勝負したんだ…それじゃ行くよーーっ」


エルザは縛って持ってきた牛の首をいきなり跳ねた。


「なっ、なにしますの?」


「まぁ此処にはこの位で驚く人は居ませんが…態々なぜ!」



いつも狩る時はそうは思わないけど、目の前でいきなり殺すと何故か牛が可愛そうに思える。


気のせいか牛が泣いている気がする…


「それじゃぁ…」


エルザは殺した牛の皮をむいて解体をし始めた。


「皆は、こういう料理は慣れていないだろう? あたいは野宿の経験もあるからアウトドアはお手の物なんだ…」


そう言いながら手早く、牛の解体をしていき、部位ごとに切り分けていく。


此処は綺麗な川の近く、血抜きを含み軽く洗い流す。


そして、肉の殆どを一口大に切り分け盛り付けて…なんだこれ?


「よし、完成!エルザ特製、牛1頭調理祭り! 大昔はミノタウルスを使っていたけど、今は乱獲出来ないから、野生の牛を代用したんだ…まずは刺身からどうぞ!」


「「刺身?」」


「そうだよ、魚ばかりが刺身じゃ無いんだ! 動物でも新鮮なら刺身で食べられるんだよ…さぁセレナ様…食べてくれ」


「そうか、これの為のニンニクに醤油…良く手に入れてきたね…うん、美味しい!」


「だろう? 肉の刺身は新鮮じゃ無いと食べられないからな、ある程度食べたら、モツや他の肉は、焼肉にするから、そこの網で焼きながら食べてくれよ」


「案外いけますわね」


「へぇ~肉の刺身ですか、珍しいですね」


「刺身が終わったら、焼肉もジャンジャン食べてくれよ! こっちは特製のタレを用意しているから、それか塩で食べてくれ…美味しいぞ」


「焼肉もなかなかいけますわね!このタレ美味いですわ」


「確かに美味しいですね」


「うん、これは凄いね…肉の刺身は初めて食べたよ、それに焼肉は僕もつくれるけど、このタレは美味いね、うん食べた事無いや」


「そうだろう? この辺りは皆、工夫しているんだ! このタレはあたいの秘伝だから、世界で1つの物なんだ」


「だからか、凄く美味しかった」



「そう言って貰えるとあたいも満足だ…それで?」


「それでどれが1番ですの?」


「私のですよね?」


不味いな、そう言う話だった。


引き分け…そう言いたいけど、多分納得してくれないよな。


「ちょっと考えるから、明日まで待って…」


「「「ええっ…」」」


「ごめんね、なかなか決まらなくて…1日だけ…悪いね」


「仕方ありませんわね」


「明日が楽しみですわ」


「明日かぁ」


取り敢えず、1日だけ、伸ばした…明日までにどうにかしないと。



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