第21話 女神の愛し子?


何が起きたと言うのだ…神竜セレス様が世界を平和にして数百年。


世界は種族を問わず、小さな小競り合いはあるものの平和になった筈じゃ。


それなのに…なんだこれは。


話を聞いても儂は信じられなかった。


王立学園に現れた伝説の大賢者メルが…王立学園の不正を訴え、王立学園をこの世から消してしまった。


それだけでも悪夢なのに…


「不死の王スカルキングが数万の死霊の軍勢と共に進軍してきています」


「なんの冗談じゃ」


「冗談ではございません…その後ろには魔王ルシファードが続いていると言う事です」


この国の終わりじゃないか…


儂の代で…ザマール王国が終わる。


四職は平和になり、この世界に生まれなくなり…この世に存在するのは大賢者と呼ばれる賢者メル様だけだ。


この場をどうにか出来る存在は『人類最強』と呼ばれる彼女だけだが…王立学園の不正を訴え王立学園を吹っ飛ばして去っていった。


助力は無理だ。


居たとしても他の四職が居ないから、恐らくは魔王軍には勝てない。


対抗手段が全くない。


降伏するそれしか無いのか…あるいは


「司祭に頼んで、女神イシュタス様に祈るしかない…最早神にすがるしかない」


「それが…無駄なようです」


「どう言う事だ!」


「そのまま伝えます、女神様が顕現なさって『今回の件の非は責は王国側にあります…ゆえに私は一切の助けは致しません』との事です」


終わった…全面降伏しかない。


最悪…我が命を差し出して、国民に危害を加えない様に頼むしかない。


◆◆◆


「我らは話し合いに来たのだ…進軍を阻まなければ、何もせぬ…だがもし阻むのであれば…そのまま攻撃に移る…我が死霊の軍団の怖さを知る事になる…道をあけ、門を開けーーー」


大魔王にして偉大なるセレス様の息子を落とすなど言語道断。


このスカルキングを身内のように扱い『お爺ちゃん』と呼ぶ

あの笑顔が曇っておったわ。


正直、皆殺しでも甘いと思うが、慈悲深いセレス様はそれを望まぬしセレナも同じ筈だ。


脅しを掛ける、この位が妥当だろう…


「何故です…魔族と人族…今迄仲良くやって居たではないですか…」


王宮関係者か何かか…


丁度よい…


「暴れに来たのではない…我と大魔王ルシファード様の知り合いが王立学園に入学する為に推薦を望まれてな…それで推薦状を書いたのだ…魔王様と我が推薦し大賢者メル殿が保証人となった…それでどうして落とされたのか聞きにきたのだ…どう考えても不正では無いか?」


「…それだけでございますか? それだけで死霊の軍勢を差し向けたと言われるのですか?」


少し、脅しておくかのぅ…


「それだけと申すが…その者は『神に愛された子』なのだ…今現在の能力で、すでに歴史に残るような勇者並みの力を持ち…成長すれば、魔族、竜族、そして女神との懸け橋になるやも知れぬ程の器の持ち主。それが入園すらかなわなかったのだ!余りに可笑しい!その事情を聞きに来た…そんな所だ…無論、正しいという根拠があれば、引き返す!王がこの場に来るか我らがこのまま王宮まで進軍するかどちらでも構わぬ」


「す、すぐに…王に取りつぎます…今暫く、今暫くお待ちください」


此奴にこれ以上言っても意味はないな。


◆◆◆


「これが恐らく…原因か?」


「ハッ、他の物が消失したなか、これが光輝き落ちていました」


「すみませぬ…」


「まさかこれが本物だとは、思えなかったのです…」


学園長と理事長が頭を下げて謝っておるが…今更だ。


確かに可笑しな願書ではあるが、魔王や死霊の王は兎も角…メル殿には問い合わせるべきだった…


いや、今更それを責めても仕方がない…


この願書を見て誰が本物だと思うかよ。


今迄、弟子1人とらなかったメル殿が保証人になる、どう考えても可笑しい。


担当した者を責めるのは酷というものじゃ。


「王よ相手は魔王なのです…此処は聖教国を通じ、女神イシュタス様に…」


「無駄じゃったよ、聖教国に連絡する前に、女神様自ら中央教会に顕現し、こちら側が悪いから一切助けてくれない、そう言われてしまった」


「本当でございますか?」


「ああっ、それだけじゃない、教皇様の所にも顕現して『王国許すまじ』と言われたそうで、今回のおさめ方が悪いと国境を閉じるとまで聖教国から連絡があった」


「セレナという人物はそこ迄の人物なのでしょうか?」


「メル殿と親交の深い貴族がメル殿に聞いた所『あの子は凄いわよ!本気の私と立ち会って2時間は戦えるわよ…尤もあの時はまだ子供だから疲れて眠くなったみたいね…寝顔も凄く…』そんな事を言ったそうです」


「本気の大賢者相手に2時間…」


「そればかりじゃなく…使えるそうです…」


「何がじゃ…」


「冒険者ギルドで聞いた所…剣聖のみしか使えない筈のスキル『斬鉄』を使ったそうです」


「それ、凄く不味いんじゃないか?」


「不味いですね…今の世の中四職(勇者 聖女 剣聖 賢者)は二度と現れません…メル様が最後の賢者です…それなのに剣聖のスキルを使える存在が居たとすれば…」


「どう言う事なのじゃ…」


「教会の神学者の話では『女神の愛し子』なのではないかという事です」


「愛し子?」


「稀に四職以外にも女神に愛され沢山の才能を秘めた者が生まれるそうです、それを『女神の愛し子』と言い、なんだかの使命を背負っているそうです…」


「どう言う事じゃ…」


「例えば、大昔の話ですがこの国で伝染病が流行し沢山の死者が出た時に、凄腕の回復師が現れ治療したそうです。 帝国では大昔『奇跡の治療院』という治療院があり、聖女でも治せない病や怪我を治したとか…いずれにしても国単位の危機を救ったそうです」


「それは、もしかしたら…この国の危機を救う可能性がある人物を学園が追い払ってしまった…そういうことじゃな」


「あくまで仮説ですが…あながち嘘とは言えませんな」


「そんな…」


◆◆◆


その後、王都の門まで来たという四天王のスカル殿と魔王ルシファード様に対し…


儂は王都に居る王族貴族を集め…土下座をした。


王都を囲む死霊の軍団はどう考えても勝てる相手に思えなかった。


しかも、それを運よく倒せてもその後ろには魔王が居る。


皆殺しで終わりだ。


「もう…良い」


この言葉を聞いた時は涙が流れた。


『救われた』


そう心から思った。


「馬鹿な奴だ…もしセレナを取り込めば、こんな物恐れる事もなかったろうに…」


「…」


「まぁ、セレナならこの位の死霊は倒せますな…」


「懐かしいな…死霊相手に5万人抜き…しかも…」


「『死霊さん達が可愛そうだからみねうちにしたよ』と傷つけずに5万人を気絶させたのには驚きましたな」


「…あの、セレナ…セレナ様とは何者なのでしょうか?」


「追い払った事は許した…だが追い払ったお前には何も教えん…魔王の顔に泥を塗ったのだ、当たり前だ!」


「教えてはやらぬ…だがそうさのう…恐らく1年もしたらメル殿より強くなるかもしれぬぞ…ははははは」


そう言いながら魔王様たちは去っていった。


命は助かった。


だが…セレナ様は恐らく女神の愛し子なのだろう…


それを追い出してしまった我々は…不安しかない。





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