1話 プロローグ① 皆、死んじゃう



私の名前はメル。


巷では『世界最強の大賢者』とか『魔王すら恐れる守護者』なんて呼ばれているけど…ただ寂しいだけの『もの凄く可愛い未亡人』だ。


私って凄く可愛くて、凄い人だから…普通の人間じゃもの足りないのよ。


だって、私が愛した夫は『勇者で国王のゼクト』そしてもう一人恋した相手は『神竜セレス』なんだから…


もう誰も愛せない…他の人間で私と肩なんて並べられる人が居る…


居る訳ないわ。



◆◆◆


「ゼクト死なないで…僕を一人にしないで…」


リダ…何処が1人なの、まだ皆いる。


「いやだ、別れたくない…」


マリア…死後の世界があるの知っているよね。


またすぐ会えるわよ…


マリンさんとルナちゃんと私は悲しそうな二人をただ、眺めていた。


老けたわね…だけど多分セレスが何かしていたのかな…此処にいる皆は100歳を越えているのにどう見ても50歳位にしか見えない。



「皆、凄く楽しかった…ありがとう…」


こうしてゼクトは死んだ…


これは茶番にしか過ぎない…皆、知っているのに…泣く事ないでしょう。


だって…冥界竜バウワー様の世界に行くだけなんだから…


どうせ、若返って、セレスに会うのが楽しみなんでしょう?


ゼクトの奴『いま笑ったわね』


ルナもマリンもドラゴンウィングを出している。


セレスから加護を貰ったから、冥界にも行けるからこれから行くのね。


だから、別れじゃない。


ルナもマリンも『竜公』では無いから行ったら戻ってこられない。


まぁ、女同士暮すよりは、愛するゼクトの傍に居たい。


当たり前だよね…きっと向こうではロマンスグレーな親父じゃ無くて若くてカッコ良いゼクトと、きゃははうふふ、するんだよね。


まぁ、私とリダとマリアは少しお別れ...でもまた会えるわ。


問題ないじゃない。


「それじゃ…メル頼んだよ」


「頼むわね…」


リダとマリアが何か言いだした。


まさか...


「あんた達、なに言っているの? 意味が解らない」


「僕は弱い人間なんだ…ゼクトの居ない世界じゃ生きられない…だから王であるゼクトの死に続く事にしたんだ」


「メル、先に行く私を許して下さい…王の死に私も続きます」


騙された…此奴ら…最低だよ…


前もそうだった…勇者パーティの時も書類全部押し付けて…


コハネの政治は代官に任せっきりで…代官が解らない事や出来ない事は全部私…また押し付けるの気だ...


「リダ、マリア…騙したわね『亡き夫、王への献身』で自殺…美談にしてあっちで楽しい生活を始めるんでしょう...酷いわよ…死んだ後の事まで、私に全部押し付けるの…やめてよ」


「あはははっバレちゃった」


「ごめんね…メル」


トントントン


「母上、お父様との別れは済みましたか…もう開けて宜しいでしょうか」


「母上…そろそろ私もお別れをしたいのですが」


「母上、悲しいのは解りますが...此処を開けて下さい」


不味いじゃない。


皆の子がドアをノックしている。


なんだか、騙されたみたいで腹が立つわ…このままにしないわ。


「1人残されても寂しいから、私が先に行くわ…リダ、マリアじゃぁね!」


「待ってよメル…それじゃ子供たちに迷惑が掛かるわ…後の事は貴方に…」


「僕の子が困るから…いやだ...やめてよ」


知らない…


「私…しーらない...」


私は持っていた短刀を首筋にあてて引いた。


「バイバイガクッ」


「メル、ズルいわ…」


「メル…先に死ぬなんて…」


何でもかんでも押し付けようとしないで…貴方達の子に任せれば良いのよ。


あはははっ、どうせあと少ししたら会うんだから…文句言ってきたら、返り討ちにしてあげるわよ。



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