第146話 VS軍神 終わり 死



岩をも溶かす俺のブレスをアークスに吐いた。


マモンはマグマで死んだ。


それを超える温度の竜のブレス、マモンなら跡形も無く灰になる。


「ふんっ!」


だが、アークスは拳を突き出すだけでそのブレスを消し去った。


「なんだ!それは?」


「これでも軍神だからな! だが上の世界じゃないから神剣は無いんだ(笑)」



本当に脳筋だな。


ついていけないな。


だが、もう此奴は四天王でも魔族でもなんでもない。


「なぁ、アークス、いやアークス様、あんたもう軍神なんだろう?いたいけなトカゲ虐めるのは止めようぜなぁ」


「何がいたいけなトカゲだ! お前は竜公、竜の王族や神に連なる存在じゃないか?そしてその中でも、冥界竜の次に強くなるんだろう?」


そう言いながらもお互いに動きを止めない。


アークスの拳を避けながら、俺はブレスを吐いた。


ドラゴンの最強の技はブレスだ。


それを防げる時点で手詰まりだ。


あれ、当たれば山でも吹き飛ぶし城なんか消し炭なんだけどな。


しかし、幸運と言うのも凄いな。


こんな巨大なドラゴンに人間の大きさのアークスの攻撃が当たらないんだから。


「俺はまだ竜になったばかり、いわば赤ん坊だよ! もう止めようぜ」


「あはははっ、その赤ん坊に軍神の攻撃が当たらないんだぜ! 見ろよ周りをよ!」


「ああっ凄いな!」


台地は焼け焦げクレーターが幾つも出来ている。


もう、此処には人等住めない。


それでも、お互い無傷だ。


「こんな好敵手、俺が見逃すと思うか?」


「いや、俺なんかより強い奴は沢山いるぞ! 竜公で一番の新参者なんだからな!」


「嘘言うな! 他の竜公が『黄竜が最強』だと言っていた!『運を味方につけ未来さえ変える竜』なんだろう」


クソッめんどくさいからって、押し付けたのか…


だが、確かにアークスの方が黒竜より強そうだ。


俺が戦えているのは相性が良い。


それだけだ。


恐らく実力はかなり格下だ。


「ふんっ! そんな事言われても俺も解らない! 何が幸運だと言うんだよ! 俺の人生こんなのばっかりだぞ! 俺は村で畑でも耕してただ嫁さんと暮らしたいだけだ。英雄なんて成らなくても良い! ただ、平和な世界で平凡に暮らしたいだけだ、それなのに…黒竜にマモン、ようやく平和になってゆっくり出来ると思っていたのによ…死んだ筈のマモンが何故、軍神アークスになんてなって蘇って来るんだよ…ハァハァ」


俺は静かに暮らしたいだけだ。


冒険者ならオークマン。


村人ならジムナ村の村民で良い。


コハネの領主でなくても、大好きな妻や幼馴染と楽しく暮らせればよいんだ…


「うわっはははははっ! 何を言うんだ! 強敵との戦いに次ぐ戦いの毎日! 強くなる力! 幸せじゃないか? そこには一切の退屈は無いだろう?」


脳筋にはそうなんだろうな!


俺にはそんな幸せ要らない。


これは一体いつまで続くんだ。


クレーターが増えていき、今はマモンの部下も遠く離れた。


巻き添いを恐れたのだろう。


かなり離れた場所から、俺達の戦いを見守っている。


「マモン様は軍神になられたのか…凄いな」


「それを言うなら、セレス様だって竜公で黄竜だぜ! 流石はマモン様の好敵手だ!」


竜は結構耳が良い。


『様』だと…なんだ?


「ふわぁはははは、どうやら俺の部下もお前を気にいったようだなセレス」


「だから、俺は戦いが嫌いなんだ…」


「そうか? だが…前の時もそうだが、お前笑っているぞ! 俺と同じで楽しいんだろう! 極上の酒を飲んでいる時、極上の女を抱いている時、それすら霞むわ」


「お前と違う! 少なくとも俺はこんな戦いより妻と一緒の時の方が楽しい…」


「そうか、残念だな! それじゃ、少し条件を変えてやる! もし、俺との戦いで俺を満足させたら、お前に『平和をくれてやる』どうだ?これならやる気が出ただろう!」


「ああっ…」


◆◆◆


どれ位時間が経ったのか解らない。


「月が綺麗だなアークス!」


「そうだな…もう戦いは終わった、終わった後はいつも虚しさしかない」


「そうか…ぐふっ、俺は何時も終わった後はホッとする」


「そうか? 俺とは違うな! 俺は生まれながらに強者だった。もう大昔になるが僅か5歳で当時の四天王を倒し無敵だった。竜にも魔物にも魔族にも敵はいねー。魔王すら俺の顔色を窺っているんだ…つまらない人生だった…」


「魔族が、いや軍神が人生ね…魔生とか神生とか言うんじゃねーのかな…」


「茶化すな…まぁなんだ! この世の全てが俺より下、友達なんか出来ねー。親すら俺には恐怖で逆らわなかった、まぁ親父は前の四天王でな、早々戦って本気じゃなく手加減したが死んだ」


「なんだ5歳で倒した四天王って親父か…」


「そうだ、俺はマモンの時、お前と戦い死ぬ時、すげー幸せだったぞ…俺より強い奴が居たんだとな」


「あの時なら黒竜とやれば良かったんだ、遥かに強かったぞ」


「存在を知らなかったんだ仕方ねーだろう」


「そうだな…なぁアークス、俺は死ぬのか?」


「多分、死ぬな…幾ら竜公でも首だけじゃな」


そうか…死ぬのか。


「そうか? もう終わりか…」


「ああっ、楽しかったな、セレス俺はもう行くぞ! 軍神として上の世界にな…約束だ、良い戦いだった!ほらよ」


「なんだ…」


「どうせ死ぬから関係ないだろうが、軍神アークス俺の加護だ、この世界でお前だけが持つ加護…まぁ死んでいくんだし意味はねーが約束は約束だ」


「…」


「おいセレス、なんだ死んだのか…じゃぁな、俺の唯一の強敵(とも)よ」


もう何も見えない。


アークスの声も聞こえてこない。


音も無い闇の空間。


俺は…死ぬんだな。










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