第123話 門にて



馬車なら2か月掛かるだろう距離をジャイアントワイバーンのおかげで、僅か2日間でコハネに着いた。


やはり、空からの旅は速くて良いな。


乗り心地は、まぁ想像に任せるが景色は最高だ。


「空を飛ぶのは気持ち良いわねセレスくん、流石に空をこんなに永く飛んでいたのは初めてだわ」


「景色が凄く綺麗! セレスーっ、空を飛ぶのって気持ち良い」


「セレスさん! ワイバーンって凄く速いわね、景色がどんどん変わっていって凄かったわぁー-」



「セレスちゃん!本当に凄いわ、魔法とは大違いだわ」


魔法?


空飛ぶ魔法なんて俺は知らない。


俺の使えるスキルで『空歩』という物があるが、これは短時間、空を歩く物だ。


自由自在に空が飛べるわけじゃ無い。


「サヨさん、まさか魔法で空が飛べるの?」


「まぁ、一応は飛べるわ、私のオリジナルスペルなのよ…だけど『まるで使えない』から封印したのよ…」


空が飛べれば凄いと思うけど、どうも様子が可笑しい。


なんで『使えない』のだろう。


「セレスくん、また複雑そうな顔をしている! サヨにやって貰えば良いじゃない?」


「サヨ、セレスの為にちょっとやってあげたらどうかな?」


「そう? それなら少しだけ…これ本当に使えないのよ…『フライ』」


サヨが呪文を唱えるとサヨの体が少しずつ浮かびあがる。


その状態でサヨはゆっくりと旋回してみせた。


膝より少し短いスカートの奥に下着が見える。


決してマナーとして凝視はしない。



「凄い! これの何処が失敗なんだ、本当に凄いよ!」


「それが、そうじゃないんだな! ほら、セレス」


「姉さん、なんで石なんか」


ハルカがサヨに小石を投げた。


「痛いじゃないハルカ!」


コツンと小石がサヨにぶつかった。


本当の小石だから、多分それ程痛くない、多分ただの幼馴染同士のじゃれあいだな。


「これが一番説明がしやすかったらね、ゴメンねサヨ! だけど、これでセレスも解ったでしょう? この魔法は集中が必要だから使っている間は無防備、他の魔法も攻撃も出来ないし、防御も満足に出来ない。そしてスピードも出ない」


「そうなのよ、だから実戦で使ったら、ただ狙い撃ちされて倒されるだけなのよ…ねぇセレスさん使えないでしょう?」


確かにそれじゃ危なくて使えないな。


だけど『逃走』には良いんじゃないかな?


「確かに通常の戦闘じゃ使えないけど、城とか塔から逃げるには使い勝手が良いんじゃないかな?」


「セレスくん、それも夜限定になるわよ! フライを使いながら飛び降りてもファイヤーボールの方が速いから確実に狙い撃ちされるのよ」


「静子さん達は随分詳しいんだね」


「一応試してみたから」


「セレスさん酷いのよ! 空を飛んで喜んでいたら、皆して下から物投げたんだから!」


「そんな事あったかな?」


「ハルカ…貴方今も小石投げたじゃない?同じ事前にもしたわよ」


「もう昔の事じゃない、許してよ」


「まぁ良いけど…」


そう言うとサヨはフライを解いて降りてきた。


ちなみに4人以外は、ジャイアントワイバーンから降りるとすぐに茂みの方にヨレヨレしながら走っていった。


恐らくは吐いているのかも知れない。


ジャイアントワイバーンの上でも顔は青かったし、多分船酔いを更に酷くした状態なのかも知れない。


背中を擦りに行くか悩んだが、女性なら吐いている姿を見られたく無いだろう、そう思い止めた。


しかし、まさか、フレイやセシリア、リダまでもが船酔いならぬ空酔いになるとは思わなかったな。


ジャイアントワイバーンは暫くこちらを見ながら空を旋回していたが、俺が『ありがとう』とお礼の念を飛ばすと笑顔で去っていった。


俺は竜公になったせいか話をしなくても竜種の感情は良く解る。


本来ならオークかオーガの肉でもお礼にあげたいが、魔族と停戦状態の為狩れない。


それにもし狩れるとしてもあの巨体だ、どれ位食べるか想像もつかない多分、オークの10体や20体でも足りないかも知れない。


いつかこのお礼はしなくちゃな。


コハネに住んでいる人を驚かせちゃいけないと少し離れた場所でジャイアントワイバーンに降ろして貰った。


多分此処からコハネまで歩いて30分位だ。


全員が戻ってきたら行きますか。


余程気持ちが悪かったのか皆が全員帰ってくるまで1時間近く掛かった。


◆◆◆


歩く事、約一時間ようやくコハネにたどり着いた。


「英雄とくつろぎの地、コハネにようこそ!」


そう門番が挨拶してきた。


「英雄とくつろぎの地?」


「お前さん、知らないのか?この地を統括している方は、なんとあの英雄セレス様なんだぜ! とは言ってもこの地には居なくて俺も会った事無いけどな?」


リダがにまにましながら、門番に話しかけた。


「へぇ~この地の領主はセレス様なんだ、凄いね~僕会ったこと無いんだけど、セレス様ってどんな人なのかな?」



「俺も良く知らないが、あのマモンを倒したんだ! 多分見上げるような大男なんじゃないかな?」


残念ながらハズレだな。


俺は男としてそんなに背が高い方じゃない。


ゼクトと比べても背が低くマリアより少し高い位だ。


「見た感じ冒険者の方ですか? 身分証明書をお願い致します! お持ちでないなら此方で簡易判定の水晶での審議も可能です、その場合は1人につき銅貨3枚頂きます! もし審議の結果犯罪歴があった場合は、入れなくても銅貨3枚はお返しできません」


俺は此処の領主みたいな者だから、俺だけ見せれば通れるだろう。


ただ、釘は刺して置かないとな。


「城に行く前に少しお忍びで街を見てみたいんだ…騒がないで欲しい」


俺は冒険者証を門番に渡した。


「何を言っているんだ! 例え貴族でも…えっ!えぇぇぇぇー――っ」


まぁS級のプレートにセレスって書いてあるから、そりゃ身バレするよな。



「頼むから静かにしてくれ」


時間のせいか空いているが、後ろには数人並んでいる。


こんな所で大騒ぎしたら気づかれる。


「解りました、取り乱してすいません」


「それで、このまま全員通して貰って良いかな?」


「も、勿論でございます」


「それじゃ、仕事頑張って! それじゃ皆行こうか?」


「「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」」


こうして俺達はあっさりとコハネに辿り着いた。















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