第116話 全てをくれた場所




何か意味があるのだろうか?


リダの手に魔剣アンサラーという強い武器が手に入った。


メルの手には偽りの魔導書が…マリアの白銀の祝杖は別かも知れないが…


元三職に強力な武器が手に入った…俺には黄竜の力がある。


まさかと思うが…これから何かが起きるのか?


何か危ない事が起きそうだから三人に武器が渡った…そこ迄考えるのは考えすぎだろうか?


幾ら俺が黄竜だからと言って未来が解るわけじゃ無い。


運が良い…それは何処までの範囲か解らない。


幾ら考えても『解らない物は解らない』


警戒する…その位しか今は出来ないな。


◆◆◆


ジムナの村…いや町で、もうやる事も無くなったな。


逢いたい人間には全員逢えたし…皆元気でやっている。


余り長居して気を使わせるのもなんだしな…


王族が2人も居るし…幾らお互いに円満に暮らしているとはいえ元夫婦が3組に娘が3人…気まずさが全くないとは言えないよな。



特にリダ、マリア、メルの3人。


俺が考えた事とはいえ、自分の父親の後添えが、殆ど自分と同い年…そして自分に何処か雰囲気が似てる、娘として相当堪えているようだ。


必死で誤魔化しているが、流石に付き合いが長いから解るよ。


自分がした事とはいえ、少し罪悪感がある。


まさか、あの時の俺はこうして帰ってくるとは思わなかった。


『引っかからない筈の罠』にまさか引っかかるとは思えなかったし、まさかその現場に自分が居るとは思わなかったな。


だけど…それ程お互いが気にして無いのが救いだ。


「それで、皆はまだやりたい事やしたい事はある? 別に急いでは無いけど…そろそろコハネに旅立とうと思うんだが、どうかな?」


「そうね、セレスくんに賛成、確かに懐かしいけど、もう良いわ」


「私もセレスが良いなら良いよ…そろそろ良いかもね」


「セレスさんが良いなら、良いんじゃないかな」


「セレスちゃんが言うなら私も賛成」


「私はセレス様の故郷が見れてもう満足ですわ」


「私も同じ」


「そうか? それなら村長、いや違った町長にことわってから旅にでるか?」



「「「「「「うん」」」」」」


ちなみにリダ達は『家臣』『使用人』の立場を急に考えるようになり、こういう話に参加しなくなってきた。


個人的には少し寂しく感じるけど…仕方ないな。


◆◆◆


「ナジム町長…お世話になりました…そろそろコハネに向かおうと思います」


「そうか、寂しくなるな…なぁに此処はセレスの故郷じゃ何時でも帰ってきて良いんだぞ」


「此処は俺の故郷です…それはいつまでも変わりません、恐らく暫くは来ることが出来ないと思いますが…多分此処に戻ってくる…そう思います…その時まで町長もご達者で」


多分、町長や相談役にはもう年齢からして会う事は難しいだろう。


俺にとってはお爺ちゃんみたいな存在だった。


そう考えると少し寂しく感じる。


「そうじゃな、もう一度セレスがこの町に来る時まで頑張って生きているわい」


「そうだ、ナジム町長、何かして欲しい事や俺にして貰いたい事はある?」


俺は孫みたいな者だ、少し位孝行しても良いだろう。


「もう充分すぎるわい…お前は本物の息子や孫以上に孝行して貰ったわ…もう充分じゃ、子供の頃から本当に気を使い過ぎじゃよ『英雄』のセレスには必要ない事かも知れない…だが村から此処に住んでいる人間は皆、セレスの家族みたいな者じゃ、辛かったり悲しい事があったら泣きついても良いんじゃ…何時でも帰って来い」


「ありがとうございます」


思わず泣きそうになった。


「セレス、お前は身内じゃ、今も昔もそれは変わらぬよ『英雄』でもな…だから送別会はやらん…何時でも帰ってきて良いんじゃ…不要じゃろう?」


「そうですね…不要です」


多分、これでナジム村長に会う事は年齢的に難しいだろう。


そんな事は解っている。



それでも『帰って来て良い』と言うんだ…


凄いよな…俺は此処に生まれて良かった。


此処が俺に親友をくれた。


母替わりで優しい妻をくれた。


親友や幼馴染をくれた。


今思えば、俺の全てをくれたのが此処だった。


俺はジムナの子かも知れない。


俺が欲しかった物も望んだ物の多くは全部此処にあった。


「どうしたんだ急に黙って」


つい口をついた。


「爺ちゃん、おれこの村に生まれて良かったよ!ジムナは最高の村だよ」


「もう町じゃがな…そりゃ当たり前じゃ町長が素晴らしいからのう…英雄や領主に飽きたら『ジムナ町』の町長になってみてはどうか…まぁ飽きたらな」


これはきっと最高の褒め言葉だ。


一番大切なジムナを任せても良い…そう言う意味だ。


「それは英雄より凄いや」


「当たり前じゃ」



「確かに本当に凄い…いつか此処に帰ってきた時に…」


「そうじゃな」


町長と話し明日此処を出ることにした。


特に何かをしたりしない…だって此処は何時でも帰ってこれる故郷なのだから…









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