第115話 【閑話】勇者ゼクトのやり直し⑧ 黒竜



今日は久々に狩りに来ている。


狙いは竜種だ。


ワイバーンに地竜…いつもこの辺りを狩っている。


お金はもう使いきれない程ある…だが俺はしっかりと仕事はするようにしている。


俺の父さん、セクトールは働かない人間だった。


逆に母さんの静子は働き者だった。


俺が働かない姿はルナには見せない方が良いだろう。


だから、俺は週に数回狩りを必ずする。


そうしないとルナの教育に悪いからな。


帝都の中にルナを知らない人間は殆ど居ない。


地道に、スラム街の炊き出しと治療を続けた結果…ルナは人気者になった。


もう一人にしても問題ない。


最初の頃は、こっそり後をつけたが…問題は無かった。


「ルナちゃん買い物かい、偉いね、これサービスだ」


「ルナお姉ちゃんガンバっ」


ルナが世間知らずな事につけ込む人間は居ない。


買い物をさせればよくサービスを貰ってくる。


こうなれば、ルナの為にも少し自由にさせた方が良い。


社会勉強を兼ねて一人の時間を作るのにも俺が狩りに出るのは丁度良い。


暫くして街での生活が出来るようになったら…一から冒険者の仕事でも教えてみるか…


絵本でも買って文字を教えるのも良いかもな…


まだまだ、やる事は多いな…多分ゴールは永遠に来ないのかも知れないな。


◆◆◆


竜種…それを狩れる存在は少ないから、狩り放題だ。



オークやオーガ辺りだとまだ他の冒険者と取り合いになるが竜種辺りはもうA級にすら狩れない。


だから、狩場の競合は無い。


とはいえ、俺に狩れるのは竜種の中で地竜とワイバーン…そこから上は流石に怖くて手を出さない。


今日は体の調子が良い…運よく単独でいる奴を見つけられたから、ワイバーンと地竜それぞれ1体ずつ狩った。


これで俺の収納袋は一杯だ…これで充分だ。


「随分手際よく竜を狩るもんだな!」


「まぁな、俺にとっては竜だってこんな物だ」



なんだ、この黒ずくめの奴。


「ほう…そうか『竜がこんなもの』だと、トカゲを倒して満足している奴が良く言う」


なんだ此奴…俺を馬鹿にしているのか?


「お前、俺が誰か知らないのか?」


「あいにく世に疎くてな」


「そうか、俺はS級冒険者ゼクトだ…余り絡んでくるな」


昔の俺なら殴っている。


だが…こんな事でいちいち喧嘩する必要は無い。


「そうか…少しは強いのか? まずは人の身でありながら下位とはいえ竜を狩った事は褒めてやる…だがお前は竜という物を舐めすぎだ…わが種族を『こんな物』扱い高くつくぞ」


此奴俺が『元勇者』と言うのを知らないのか?


セレスでもない限り今の俺より強い奴なんていない。


「高くつくとはどういう事だ? 『わが種族』だと自分が竜にでもなった気になっているのか? だが竜でも俺には敵わない…俺は元勇者だ」


マジで此奴俺に喧嘩売っているのか。


仕方ない、手加減して終わらせるか。


「ならもう良い、我が名は黒竜…決闘だ!」


「解ったよ、仕方ねーな、掛かってきな! 手加減はして…うえぁごばぁぁぁぁっ」


なんだ、今此奴の動きが見えなかった。


可笑しい…リダより速い…


腹を軽く殴られただけなのに吐きそうだ。


「おい、まさかこれで終わりとか言わねーよな」


「言わねーよ」


此奴…強い。


ちゃんと目を見て強さを計れば…解る。


マモン並みかも知れない。


「どうした? 今度は俺が受けてやる…掛かって来い」


ならば、最大の一撃で終わらせる。


勇者だけが使える奥義の一つ。


「くらえー―――っこれが奥義――っ光の翼だぁぁぁぁー――っ」


巨大な光の鳥が俺の剣先から現れた…そして巨大な光の鳥はそのまま黒竜にぶつかった。


ズガガガガガッー――ガン!


決まりだ…此奴がマモンでも無い限り…これで終わりだ。


「人間にしてはなかなかだが…通じないな」



嘘だろう…無傷だと。


「そんなのが奥義なのか? 全然効かないな…今度は俺から行くか? 可哀そうだから、ただ殴るだけでいいや、行くぜ」


「うがぁぁぁぁぁー――っ」


なんだ此奴、攻撃が避けられねー。


しかも、ただ殴られているだけなのに…痛覚を軽減していてなお痛い。


結局俺はなすすべもなく歩けなくなるまで殴られ続けた。


「ハァハァハァ…俺の負けだ…殺せ」


「この黒竜に殺されるのだ、それは強者の証だその栄誉を持って死ね」


「結局、俺はハァハァセレスのように成れなかったな…ルナが気がかりだが、仕方…」


「はぁ~セレスだぁぁぁー-っ」


なんだ、此奴驚いた顔しやがって…


「はぁはぁ…どうかしたのか」


「お前、セレスの関係者」


「幼馴染で親友…のつもりだ」


「そうか…なら良い…もう竜種は殺すなよ…俺もセレスとはまぁ親友だ…そうだこのポーションをやろう…多分これで治るだろう」



「ああっ、充分だ」


なんだ此奴セレスの知り合いか…元勇者の俺が手も足も出ない。


世界は広いな。


「そうか…それじゃ俺はもう行くからな…セレスに会ったら宜しく言っておいてくれ」


「解った」


そう言うと黒竜は羽を出して飛んで行った。


あの羽『竜』なのか?


しかし、セレスの親友で良かった。


もし、そうじゃ無かったら、多分俺は死んでいたな。





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