第104話 【閑話】勇者ゼクトのやり直し④ 奴隷と飯
※この話の方が気になるというコメントを頂いたのでもう少し、こちらの話を書きます。応援ありがとうございました。
◆◆◆
「さて、飯でも食いにいくか?」
部屋は汚いままだし、此奴は家事が出来ねー。
仕方ないな。
「そう…解ったわ」
ルナは子供と同じだ…何も知らない。
豚小屋で家畜のような生活を送ってきたんだ…子供以下かも知れない。
しかし、人と違うというのはこうも迫害される事なのか?
ルナは、透き通る程白い肌に白髪、そして目が赤い。
もし、それが正常な色だったら…そう考えると凄い美少女だ。
ガリガリに痩せているせいもあり、エルフの様に幻想的でもある。
それが、ただ色が普通じゃない…それだけで嫌われる。
たしかに魔族の中には人間に容姿が近く、ただ体の色が違う…そんなタイプもいる…だが、それは白ではない。
『そこ迄気にする事じゃねーよ』
本当にそう思う…
だが、なんで此奴悲しそうな顔をするんだ。
「おい、さっきは随分嬉しそうだったのに…なんで悲しそうな顔をするんだ!飯を食いにいくんだぞ?!」
「私、ご飯は1日1回しか食べた事ないわ…食べるのを見ている…辛いわ」
「ルナ…お前な、俺が一人で食うような奴に見えるのか…いや不毛だな、良いかよく聞け『一緒に食べる為に食いに行くんだ』ちゃんとおまえの分も注文する…ほら行くぞ!」
酷い扱いを受けてきたルナに…俺は違う。
そう言った所で過去が酷かったのだから信じられるわけが無い。
「それは私も食事が貰える…そう言う事なの…」
「そういう事だな」
此処迄話してようやくルナは自分も食べられる。
そう思って貰えたようだ。
「そう…ありがとう」
相変わらずの能面顔だが、ほんの少し口元が緩み笑ったような気がした。
洋服の時といい…笑うと案外可愛いのな。
◆◆◆
碌な物を食べた事が無い…
今日くらいは美味しい物を食わしてやろうと思い、色々と考えて…少しだけ豪華な食堂を選んだ。
流石に貴族も行くような店ではなく、冒険者がちょっと稼げた時に食いに行く店だ。
ルナなら、普通に冒険者ギルドの横の食堂でも喜びそうだ。
まぁ此処に来たのは見栄だな。
「いらっしゃい、適当に空いている席にお座り下さい!」
なんだ、あの目…まぁ良いか。
「そら、座れよ」
俺はルナの椅子を引いてやった。
「奴隷は床に座るって聞いたわ」
奴隷だからって床に座らせなくちゃいけないわけじゃ無い。
虚栄心の高い奴が勝手にしているだけだ。
「普通に座って普通に食えば良い…それだけだ」
「解ったわ」
俺はオーダーする為に店員を呼んだ。
「おい、ミノステーキ2つくれ、パンとスープつきでな」
「はい、毎度…」
なんだ、あの嫌な目。
ミノステーキと言うのは『ミノタウルス』のステーキだ。
普通に食べているのはオークステーキ、ミノタウルスはオークに比べ狩るのが難しく、高級食だ。
「ミノタウルスのステーキセットでございます」
暫くすると、ミノタウルスのステーキのセットが出てきた。
ルナは目の前のステーキに目を輝かせている。
「良いかルナ、こういう所で食べる時は、ルールがあってな、俺の真似をしながら食べろよ」
「解ったわ…お肉…凄く美味そうだわ」
一応は、肉は食べた事があるようだ。
「いいか、このフォークで突き刺して、ナイフで切りながら」
「なんだ、あれ化け物が飯食っているぜ」
「首輪があるから奴隷だよ…だけどエルフとかの高級奴隷なら兎も角、あれは無いわ」
昔の俺なら飛び掛かったかも知れない。
だが…この位我慢だ。
ルナもなんとも思ってない。
「解ったわ…真似て食べれば良いのね」
「そうだ」
案外、器用だな。
たどたどしいながらもどうにか真似て食べている。
ボロボロとこぼしているのは愛嬌だ。
「化け物が化け物の肉食っているぜ」
「本当に気分悪いわ、折角の食事が台無しだよ」
ルナの手がとまった。
「私…ここで食べちゃいけないのかな…」
「馬鹿言うなよ! 俺がちゃんと金払うんだ自由に食って良いんだぞ!」
「そう…そうだよね」
仕方ない…揉める前に早く食って出るか?
「お前ら、いい加減出て行けよ…皆が嫌な思いしているのが解らねーのか?」
「坊主、俺が叩きだす前に…自分から出ていけよ…化け物連れてよー-っガハハハハハッ」
「俺は此処の代金は持っているぜ、奴隷を連れているのは俺だけじゃねーだろう...別に問題ないよな…店員」
近くに店員がいるから声を掛けた。
店の中の揉め事は店の責任だ。
俺は店員を巻き込む事にした。
「なぁ店員さんよ、俺達はお前達が言えないから代わりに言っているんだよ…お前もそう思うよな」
「どうなんだ、店員…他にも奴隷連れがいるのに俺だけに文句いうのか?」
「俺達が守ってやるから、言えよ!」
「ふ…普通の奴隷なら兎も角、化け物を連れているなんて迷惑なんだよ…」
これが嫌な目の正体か。
この店には冒険者らしい奴がかなりいるな…ざっと20名位か。
全員が此奴らの知り合いなのか…
「そうか、俺は冒険者だから、あんたには手を出さないから安心しな…」
「…」
『冒険者は一般人に手を出してはいけない』
これはルールだ。
冒険者は一般人より強いからだ。
「ルナ…そのまま飯食ってて良いぞ…それでお前ら何級だ、さぞかし強いんだろうな!」
「解ったもぐもぐ」
良くこの状況で震えながらも食えるな。
「うわははははっ俺はB級のゾルバ様だ、此処に居るのはB級からD級のベテランばかりだぜ…解ったら出ていけ」
なんだ…雑魚だな。
良い言葉だ『冒険者どうしの揉め事は自己責任』『そこに命のやりとりも含む』
つまり、此奴らには何をしても問題はないんだからな。
「出て行かないって言ったらどうするんだ?」
「摘まみだすって言っただろう?」
「それはお前だけじゃ無くて他の奴らも同じか?」
「「「「「ああっ目ざわりなんだよ」」」」」
「そうか…ムカつくな、お前ら摘まみだすなら剣を抜くぜ」
「それを抜いたら半殺しにするぞ」
「ハンデやるよ、お前ら全員剣抜けよ…全員対俺1人で良いぜ」
「舐めた野郎だ…あの化け物と一緒に袋叩きにしちまえ」
馬鹿な奴ら。
「そう? それじゃ行くぞ」
俺は剣を抜くと冒険者たちの間を駆け抜けた。
「なんだ、お前…確かに素早いが、何もしてねーじゃないか?」
「此奴怖くなって、奴隷おいて逃げようとしたんじゃねーの…逃げ足だけは早いなルーキー」
まぁ若いから新人でも可笑しくないな。
「お前ら全員、すぐに腹を押さえた方が良いぜ…死にたく無ければな」
「腹がどうした…嘘だろう…ああっ、なんだこの血は…やばい腹を斬られている」
本来のこの技は俺じゃ無くリダの技だ。
腹を綺麗に斬る…ただそれだけだ。
だが、これをやられると腹を押さえなければ傷口が広がって内臓をぶちまける事になる。
逆に治したいなら、ヒールやポーションで簡単に治せる。
尋問とかに使えるなかなか良い技だ。
「全員の腹を斬らせて貰った、内臓ぶちまけて死にたくなければ、お腹をしっかり押さえろよ…今のお前らガキに殴られても死ぬからな」
「ああっあああっ、腹が腹が…お前何者なんだよ」
「なんでこんな事するんだよ…」
「俺の名前? ゼクトって言うんだよ! それでまだやるか?」
「ゼ、ゼクト、あのS級冒険者で元勇者のか…」
「悪い..いや、悪かった…あんたとは揉めたくない」
「他の奴らももう文句ねーよな」
もう誰も文句は言わなかった。
「そうか、それじゃ和解だ」
俺は収納袋からポーション20本を取り出してテーブルに置いた。
「そら…使って良いぞ」
ポーションを受け取ると全員がすぐ腹に振りかけ、そそくさと逃げるように去っていった。
◆◆◆
「ルナ、どうだ? ミノステーキは美味しかったか?」
「凄くおいしかったわ」
皿まで舐めていたんだ美味いよな。
「それなら、俺の残りも食べて良いぞ」
「いいの?」
「ああっ食え」
「ありがとう…」
流石に騒いだから店主も居るな。
さっきの店員にわざとオーダーを頼んだ。
「エールとホロホロ鳥のから揚げくれ」
「ひぃ…はい只今、すぐにお持ちします」
「店主に言って置く…お前らは一般人だから手を出さない、だが『冒険者』になら俺は手を出せる、もし今度俺達に不愉快な思いをさせたら、この店の前で入ろうとする冒険者全員に喧嘩売るからな…これは『合法だ』…覚えておけ」
セレスなら多分…こう言うかもな。
「今回の件はこちらが悪かった、二度とこんな事にならないように気をつけるから勘弁してくれ」
「解った」
これも嘘だ…最初に揉め始めた時から店主はこちらを見ていた。
恐らく、俺が負けていたら…ただ袋叩きにあうのを黙って見ていた筈だ。
俺は出てきたホロホロ鳥の肉をルナに分けてやった。
「これも美味しいわ」
「良かったな」
しかし、本当に美味しそうに食べるな。
誰かと飯を食うのは本当に久しぶりだな。
案外…こう言うのも悪くない。
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