第91話 【閑話】俺の居場所が無い街④



こうして一人になって考えてみると…俺は一体何がしたかったのか。


つい考えてしまう。


『勇者』は全てを手に入れる切符。


そう言われていた。


お金、女、地位すべてが手に入る。


そう周りは言っていた…セレス以外はな。


だが、それは勝った場合だ…勝って、勝って勝ち続けた末に手に入るだけだ。


途中で負けたら、全ての権利どころか命も無くなる。


冷静になれば…こんなくだらない職業は無い。


『馬鹿だった』『幼かった』いま考えればそれに尽きる。


もっとしっかり考えていれば…違った結果があったのかも知れない。


俺はこれからどうするべきか?


どうすれば良いのか?


まだ結論は出せないな。


朝になりシュートの店を見に行った。


「シュートおじさん、お久しぶりです」


「おおっゼクトくんじゃないか? 随分大変だったんだな」


事の重大さから、俺の失態を知らない人間等、この世の中には居ないな。

シュートもまた再婚をしていているのか、横にはまるで令嬢の様に綺麗な女性が居た…少し気持ち悪い。


「その方は?」


「初めまして私はシュートさんの妻のシャルロットと申しますわ…以後宜しくお願い致しますわ」


「そうですか、俺はゼクトと申します宜しく!」


やはりそうだ…このシャルロットはマリアの上位互換だ。


マリアが気品を身に付けたら、こんな感じになる。


こんなに自分の娘に似ているのに気がつかないのか?


夫婦という事はやる事はやっている筈だよな。


実の娘に似た、同じ年位の女と『やっている』…まぁ気がつかないなら言う事も無いだろう。


「大変でしたね」


「まぁな…しかしこのお店大きくなったなぁ~」


しかし、この店も変わったものだ、小さな雑貨だった筈が、昔の広さの10倍位ある…しかも従業員も見ただけで6人居る。


「ああっ、セレスくんが昔、話していた『コンビニ』にしてみたんだ、最近は観光客や人口が増えたから24時間営業にして人を雇ってみたんだ、妻のシャルロットは経営が上手くてね街で4店舗経営しているんだ」


そう言えばこの店の半分位の大きさの店が宿屋の隣りにもあったな。


セレスは何者なんだ…


ライバル視していた俺が馬鹿みたいだ。


この街は皆が幸せそうだ…見た感じスラムも無く、全ての人が幸せそうに暮らしている。


セレスが何者か解った気がした。


彼奴はきっと『寂しんぼ』なんだ。


小さい頃『1人だったから』きっと自分の周りにいる人間が困るのが嫌なんだろう。


だから、自分の事以上に『自分の周りの人間』を心配しているんだ。


俺は勇者だったから、同じ事が出来るかと言えば出来たかも知れない。


だが、それは自分の全てを『故郷』や『自分の大切な存在』に使っての事だ。


セレスは、自分の事では全く贅沢をしない。


まるで故郷や妻や幼馴染に『全てを捧げている』。


そんな人間と同じ土台で争って勝てるわけが無い。


幼馴染の三人とは別れて良かったんだ…


彼奴らと結婚したら『献身的に尽くすセレス』と一生比べられるんだ。


きっと、すぐに破綻する。


あんなの…どんな愛妻家だって敵わないだろう。


『敵わないな』 こんな性格の悪い、俺の為に教会や王に怒り…追放した後も…恐ろしいマモン相手に戦ってくれた。


きっと俺も彼奴の大切な者の1人なんだな。


だから、此処迄の我儘を許してくれたんだな。


此処は俺の知っている故郷じゃない。


此処は優しい故郷だ…友達のセレスも俺に優しい。


だが、此処やセレスの傍に居たら…きっと俺は駄目になる。


出て行くしかないな。



俺は父さん達に挨拶をして街を立ち去った。


『帝国』にでも行ってみるか…


魔王と戦わない俺には時間も自由もある。


ゆっくりやりたい事を探せば良いんだ。










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