第68話 勇者辞めました



俺は通信水晶でロマリス教皇様に連絡をとった。


もう、あの三人は戦えない…だから、三人をパーティから抜けさせる、その相談だ。


結局、何も思いつかないまま相談する事になった。


「3人を辞めさせたい? もしかして、ゼクト殿も勇者を辞めたい? そういう事ですか?」


「…」


「いい歳して、だんまりですか? 結構です辞めて下さい…ではこれで」


余りにあっさりと俺の願いは聞き届けられてしまった。


「あの、教皇様…本当に良いのでしょうか?」


「本当に良いも何も…それが望みなんでしょう? 結構ですよ…ハァ~本当にゼクト、お前は情けない、何もかも幼馴染に押し付けて…今から勇者の地位は無効…残りの三職も解任…受け入れましたよ」


余りにあっさりしている…『幼馴染に押し付けて』?


「どういう事でしょうか?」


「セレス殿と以前お話をした事があった…その話にはまだ続きがあったんですよ…ゼクト、あんたね…まぁ良い、話してあげますよ」


一体、何があったと言うんだ。


◆◆◆


「簡単な話だよ…全ての人間に戦わせればよい、それだけだ…村人も商人も娼婦もシスターも全ての人が仕事や、やりたい事を全部捨てさせて魔王城に進軍させればよい『教皇の命令である、戦いに参加しない者は破門、逃げる者は破門の上死刑』それを言えば人類の勝ちだ、全人類VS魔族…確実に勝てるぞ」


「以前この様な事をセレス殿が言った…その説明は覚えていますか?」


「ああっ聞いたよ」


「あの後、セレス殿は更にこうも言ったんですよ『これって教皇様の許可なく号令を掛けられる人間が居るんですよね』とシレッとした顔でね」


「そんな事、教皇様以外で出来る人間が居る訳が無い…」


「いえ…それが勇者には出来てしまうんです、あの忌々しい『勇者絶対主義者』が作った『勇者保護法』その中にあった、一文…『勇者は魔族との戦いにさいし自由に戦力の調達が出来る』とあるんです…」


「それって…」


「セレス殿は笑いながらこう言いました…もし、ゼクト達が勇者を辞めたがった時に辞めさせなければ『聖教国、王国、帝国の全ての戦力を貸せ』と命令させると、そしてその上で魔族に対して『すべての人類で戦争をする』そう宣戦布告をすると言うんですよ…ハァ~確かにこれなら…合法的に全面戦争に持ち込めます、しかも『勇者保護法』には『一切の改ざんは認めず』と昔の教皇がサインしているから私にも改ざんは出来ない…よくも貴方はあんな存在を追放して野放しにしたものです」


※某国と同じで古い王の方が偉い…そういう風習がこの国にはあります


「セレスが、そんな事を…」


「しかも…セレス殿にそんな事をしたら何千何万もの死傷者が出る…そう話したらどう言われたと思いますか?」


「何を言ったのでしょうか?」


「顔も知らない人間より幼馴染1人の方が余程大事だ…だそうです」


「そんな事を彼奴が」


「色々話したら、痛い所ばかりついてきます…中央教会を手放すだけでスラムの人間が全員救われる…王家が全財産手放せば貧民街は全部無くなる…そんな事ばかり言われます…王族や貴族はお金を搾り取り、自分と家族が贅沢をしている…街では食事すら出来ずに餓死している人間が居るのに…と『所詮皆も俺と同じだろう』ですって…言っている事は正論です…食事に困っている人間が居るのも知っています…ですが、幾ら私でも王族や貴族すべてを敵になんて出来ません」


「そりゃ、そうです…ね」


「はい…そうしたら笑いながら『ほら、教皇様も同じでしょう』だそうです」


「その、なんて言ってよいか…」


「心配なんてしなくて結構…貴方は今から只のゼクトです…三職も全員ただの村娘です…もう二度と私も王族も貴族も関わらない…近くの教会に聖剣を含む、聖なる装備をすぐに返しなさい…お金はそのままで結構…それじゃ…只のゼクト….今迄ご苦労様でした」


セレスは…何者なんだ。


俺の知らない所で、こんな交渉までしていた。


シュートおじさんに小さい頃から本を借りて勉強していたけど…


それで教皇様相手にこんな話ができるのか?


俺には無理だ…


兎も角、これで俺たちは自由になった。


◆◆◆


時は少し遡る。


「セレス殿には困ったものだ」


「殿など要らぬ、セレスで充分じゃ…あんなのは無視すればいい…」


「大司教がこれですか…良いですか? セレス殿は竜が狩れるんですよ、それがどういう事か考えられましたか? 簡単に言えば『本気で怒ったら城に正面から乗り込んで王を斬り捨てて笑いながら帰る』それが出来る存在、それを忘れてはいけません」


「教皇様、確かに単騎で岩竜を複数狩る存在…最早人間ではなく、まるで小型版のマモンではないですか? ではどうするのです」


「搦め手を使うしかないでしょうね…セレス殿の弱点は幼馴染です…勇者達はセレス殿の意向に沿うようにする、もし辞めると言い出す事があったら辞めさせても良い…その代りそれを恩に着させて『セレス殿は逃がさない』それしかありません」


「そうですね」


「そうですねじゃありませんよ…ローアンヌ大司教、何故恩賞をまだセレス殿に与えてないのですか? あれからも竜を狩っていたのですから『褒賞のセシリア様との婚約』を何故結ぼうとしなかったのですか…他ならぬセシリア様も気にいっているのですから早く進めなさい」


「はっ」


「本来は勇者と一緒に魔王に挑んで貰うのが理想ですが…ゼクト殿とセレス殿…天秤にかけるならセレス殿です…幸い『勇者は魔族との戦いにさいし自由に戦力の調達が出来る』ですからこれは『勇者のみ』です…セレス殿をどう魔王と戦わせるか…それが急務です…結論が出るまで、此処から立ち去る事は許しません」


「「「「「「「「はっ」」」」」」」」


教会もまた動き出した。








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