第67話 【閑話】 ある猟師の伝説 ~旧題:リリ勇者と一緒に行かないで~ リリSIDE



私の名前はリリ、普通の村娘だった。


私には大好きな男の子がいる。


近くに住む、ルディ、凄く可愛らしい男の子だ。


本当に凄く綺麗で可愛いんだよ?


肌なんか私より白いし…目が凄く澄んでいるの。


正直、ルディと幼馴染の私ってついていると思う。


だって、ルディがもっと大きな村で、沢山女の子の居る場所に生れたらモテモテだと思う。


だから、いつも私はルディの傍に居る、そうしないと他の女の子に取られちゃうから。


こんな小さな村にもライバルは何人か居るの、まぁ歳が少し離れているから、私が一番有利なんだけどね。


だけど、最近、ルディは元気が無い。


せっかく、仲良くなれたのに、実質上の彼女になれたのに…いつも寂しそう。


私の傍に居るのに居ない…そんな感じがしてならない。


ルディは何時も私に優しい、それなのに何故か寂しそうだ。


12歳になった時、私から強引に結婚の約束を切り出した。


何故かルディは拒んでいたけど、最終的には婚約してくれた。


これで、もうルディは私の者だ、うん安心。


それからも二人で楽しく過ごしていた。


だけど、何故かルディは前以上に寂しそうな顔を良くする。


私が傍にいるのに、寂しそうな顔をする。


だけど、そこが惚れた弱みなのかな…その儚げな横顔にも見惚れてしまうんだ。



それから時がたち、2人とも14歳になった。


明日は成人の儀式だ、つまり大人になる。


何が言いたいのかと言うと…ルディとの婚約が結婚に変わる日だ。


待ち遠しくて、しょうがない。


だって、明日が過ぎれば…何時でも結婚出来る。


きっと奥手のルディの事だ…告白はしてくれない。


だから、私からプロポーズする!


ルディがジョブを貰って、私がジョブを貰ったらプロポーズするんだ…もう決めた。


わたしは何のジョブを貰うんだろう…一番欲しいのは『お針子』。だって良くルディは服を破るから。


そして、運命の日が訪れた。



やはり、ルディのジョブは猟師だった。



「良かったねルディ、希望のジョブで」


ルディが猟師のジョブを欲しがっていたのは知っていた…なのに何で悲しそうなの?


「うん、ありがとう…」


何で泣きそうなのよ?


「元気ないね、ルディ、あっもしかして騎士や冒険者に憧れていたとか?」


「うん、ジョブなんて実は何でも良いんだ…リリと一緒に居られさえすれば」


どうしよう?顔が赤くなる…私らしくないよ…不意打ちはずるいと思うな


「そうなんだ…何だか照れちゃうよ…ありがとう!」


いよいよ、私の番だ。


ルディの時と同じように近隣から来た5人と一緒に並んだ。


神官様から紙を貰い神官の杖に合わせて祈りを捧げた。


そうしたら何故か天使が降りて来て…真っすぐに私の方に来た。


知っている…これって聖女や勇者のジョブの時に起こる事だ。


嫌だ…来ないで…ルディの傍に居られなくなる。


天使は私の前に手を出すと私を抱きしめた。


そして、暫くすると帰っていった。


私は茫然としていた。


何で、何で私なの…


◆◆◆


「これは凄い、何とリリ、いやリリ様のジョブは聖女だ」


「えっ聖女って」


私は戸惑いの中、司祭や他の皆に囲まれていた。


聖女になるって事は誇りに思わなければいけない…泣きたい気持ちを押さえて笑顔を作った。


家に帰って思いっきり泣いた。


泣きながら私は婚約の破棄をルディに伝えて貰うように両親に伝えた。


両親はもうどうする事も出来ないのを知っている…


《何でこの子が聖女なんだよ》


そうお父さんの言葉が聞こえてきた。


《貴方…》


悲しい顔で両親は引き受けてくれた。


そして1週間、私は未練がましく遠くからルディを眺めていた。


直接話す勇気は無かった。


そして勇者ケインが私を迎えに来た。


これからの人生はこの人と過ごさなければならない…私の女としての人生もルディに対する思いも捨てなければいけないのかな…


だが、違っていた。


この人、勇者ケインも別に好きな人が居たんだ。


「だけど、俺は勇者だから、彼女の事は諦めるしか無いんだ!だけど万が一早く魔王を倒せたら…その時に彼女が一人だったら、プロポーズするつもりだ!」


私はルディの事を話した。


いつも彼は黙って聞いてくれた。


そして、私はケインにお願いをした。


ルディが見ている前で彼にキスをした。


泣き顔でルディは走っていった。


「これで良かったのか?」


「ええ、だってルディには幸せに成って欲しいから…こうでもしないと彼義理堅いから一生独身で過ごしそうだもん」


「それが君の幸せじゃないのかな?」


「彼、モテるんだよ! 私が居なければ…きっと他の子と幸せになれる…だから」


「そうか、お互い辛いな」


彼と私は同じだ…そう思った。



ルディは別れが近くなると急に変わった。


何が何でも私と別れたくない、そういう感じになった。


嬉しくてしょうがない…もし出来るなら抱きしめてあげたい…だけど出来ない。


あのルディがこんなにも私を望んでくれる、嬉しくない筈がない。


だけど、私は聖女になった、私やケインが戦わないなら世界が終わる。


仕方ないんだよ…



「リリ、君が旅立たないでくれるなら何でもする…だから行かないでくれ!」


ありがとう、凄く嬉しい…でもそれはどうしてもできないの、自分の気持ちを押さえて言い訳をした。


「ねぇ、ルディ、貴方は何を言っているの? 勇者や私が戦わないと世界が困るのよ」


私だってルディと居たい…このまま一緒に居たい。


「戦いなら他の勇者や騎士団に任せれば良いじゃないか? ここで暮らしてくれないか…頼むから」


それが出来るなら私だってそうしたいよ…


「他の勇者なんて居ないじゃない?それに私はケインを愛しているわ!私が愛してるのは勇者ケイン…貴方じゃない」



私、貴方が大好き...だけどね、貴方には幸せになって貰いたいの...だから私の事なんて忘れて…


「僕を愛してくれなくても構わない…だから行かないでくれ」


《そこまで心配してくれるの…残れるなら貴方を愛すよ…貴方を愛さないならここに居る意味もないよ》


「はぁ-見苦しわよ…ルディ、本当に見損なった、何で貴方が好きだったかわからないわ、目の前から消えてくれる」


気持ちに反した言葉を言うのは辛い…もう辞めて…


「何でもするから、お願いだから行かないでくれ」


嬉しい、だけど答えられないのよ、私は一生貴方を忘れないよ…さようなら…


そこにケインがやってきた。


悪い事をした、彼は憎まれ役を買ってくれた。


ルディを罵倒して殴りつけてくれた。


これで良い…これで良いんだよ…


「ただの猟師のくせに、難癖付けるから、そうなるのよ? もう話し掛けないで、もう顔も見たくないわ!」


これで本当に嫌われるわよね、私なんか忘れて幸せになってね。


「全く、本当に最低の男だな…見苦しい」


「リリ…行かないで…」


最後まで…心配させて、ごめんね


ケインと話し合い直ぐに旅立つ事にした。


「本当に良かったのかい?」


「仕方ないじゃない…ルディの顔を見たら涙が止まらなくなりそうなんだから」


「そうだね…彼も泣きそうだな」


「そうね」


「そうだ、男の俺から教えてやる…彼は君に一途だ、多分死ぬまで君を待っていると思う」


「そう?」


「そうと決まったらさっさと魔王を倒してお互いに愛しい人の元に戻ろうぜ」


「うん」


少しでも早く強くなりたかった。


無理に無理を重ねた。


そのせいか、既に魔族ですら倒せる位になった。


そして、救援の知らせが騎士団経由で届いた。


正直、この城の貴族を殺してやりたくなった。


相手が誰か聞いたら来なくなる、そう考えた領主は誰が攻めてきていたのか隠していた。


街は破壊され、城に居たのは「剛腕のマモン」だった。


出会ってしまったからは戦うしかない…他のジョブなら助かるかも知れない…だが、勇者と聖女のジョブ持ちを魔族が逃がす訳はない。


未熟な勇者と未熟な聖女…歯が立たなかった。


ケインの聖剣は簡単に折られ、剣技や魔法も歯が立たない。


私の結界は簡単に砕かれ、回復魔法じゃ追い付かなくなる位の攻撃を食らった。


ケインはマモンに腕を潰され、次に頭を潰され死んだ。


次は私の番だ…


「女、俺は女をいたぶるのは好かない」


私は、服を剥かれ裸にされた。


「聖女である、お前が人前に肌を晒したんだ…負けだ…何処へでも逃げるが良い」


好きな人を諦めて、同行した勇者が死んで、逃げても私の人生は終わりだ、ここを生き延びてもこの街は終わっている、だれも助けもこない、魔物に犯されて死ぬか、もし生き延びても、野盗に犯され死ぬ…そこを逃げ延びても、逃げ帰った聖女にはどんな人生が待っているんだろう…もう終わりだわ。


「マモン、貴方との戦いを望むわ」


「ならば死ぬが良い…」


マモンは人間を虫けらにしか思っていない…残酷な殺され方をしても凌辱はしない。


人は虫けら、それが此奴の考え。過去に美姫が色仕掛けで命乞いをしたが「虫を抱きたい人間は居ないだろう」と殺されたらしい。


これで、女としての尊厳だけは守れるわ


まるで、虫けらの様に焼かれて、手足をもぎ取られた…もう終わりね…痛さより何より..ルディ、貴方に会いたい…な。


◆◆◆

ここは何処なの?


「天界よ」


「貴方は誰ですか?」


「私は女神イシュタス、貴方を聖女にした女神です」


「私は…聖女になんかなりたくなかった!」


「知っています…勇者ケインも貴方もなりたくはなかったのよね…ごめんなさい!」


「謝って貰っても仕方ないわ」


「そうね…だからお詫びに一つ願いを叶えてあげるわ」


「どんな願いでも?」


「ええ…勇者ケインは愛する彼女の元へ行ったわ」


「そんな事できるんですか?」


「勿論、だけど、体が無いから、彼女の近くに子供として生まれることになるわね」


「.....」


「私は、ルディと結婚して幸せに暮らしたいのよ!」


「そう、それなら彼が死んで天界に来るのを待ちなさい…そして二人で転生すれば良いわ」


「良いの?」


「まぁ役立たずだったけど…頑張ったから良いわよ…その人生を奪ったような物だから」


「じゃぁ、お願い」


「彼が此処に来るまで待っていてね!サービスで彼の人生が見れるようにしてあげるわ、案外他の方と結婚してたりして!」



この女神…結構意地悪だ。


ルディが見える水晶を貰った。


水晶を覗いてみた。


嘘、何でそんな事をしているの? 猟師の貴方が魔物を狩るなんて、何故、まさか私のせいなの?


あんな酷い事したのに、それでもまだ、私を思ってくれていたなんて…


「彼、凄いわね…猟師のジョブなのに、まるで聖騎士並みの強さだわ、こんな事って、あり得ないわ」


「私のルディは凄いでしょう」


「ええっ、何で勇者のジョブが彼を認めなかったのかしら? 能力なら確実にケインより上なのに」


何で、そんなに一生懸命なの…凄く嬉しい、だけど…そんなに無茶しないで…


「.....」


何でそんな悲しい目をしているの…ねぇ、私が居ないからなの…


「解かったわ…彼凄い精神力、多分貴方の為に強くなったのね…神や邪神の考えを越えて強くなっているわ」


嘘…マモンと戦うの…何で?


「解っているでしょう? 貴方のかたき討ち…凄い気迫…でも駄目、猟師のジョブじゃ無理だわ」


「煩いわ、黙って」


やっぱり、ルディ貴方は…


「彼、猟師なのにマモンの目を奪ったわ…凄い…凄い執念…勇者も聖女も誰も傷すら与えられなかったのに」


凄い、あんな戦い方があったんだ。


「正に知恵ね…だけど、もう手が片方無いし、頼みの猟銃も無い…終わりよ、終わり」


「静かにして」


何で、私が傍に居られないの? 私が居れば回復させてあげれるのに。


「凄い、マモンの角を折っちゃった。勇者にも英雄にも出来ない事を...猟師の彼が。信じられない。だけど、流石に此処までね」



「彼の傍に行きたい、直ぐに行きたい、謝りたい…そして癒してあげたい…労ってあげたい」


「良いわ…迎えに行ってあげなさい…良い物を見せて貰ったわ…その駄賃に許してあげる」


「はい」


『私が貴方を愛してくれてないって?酷いよルディ…せっかく迎えに来てあげたのに…』


『リリなの…本当に?』


『うん、ごめんなさい…そして愛しているわ、ルディ』


『僕だって愛しているよ…リリ何処にも行かないで』


『うん何処にも行かないよ…ずうっとリリはルディの傍に居るからね』

                                 

◆◆◆


女神イシュタス


「可笑しいわ、普通の人間が、ただの猟師が 四天王をあそこまで追い込むなんてありえないわ」


まだ、この世界にマモンを倒す存在は居ない…


次の勇者にはマモンと戦わずに魔王と戦うように神託を降ろします。


「ルディという少年は…きっと導き手だったのでしょう…気が付かなかったわ」


ルディ、私は貴方に感謝します。


今は、次の勇者が作る平和な世界で二人で幸せに暮らすと良いわ…「猟師」と「お針子」として。


マモンの魂は強すぎる…いつか魔王すら超えて強くなる。


きっと私の勇者たちは敵わないでしょう…


ですが…ルディは可能性を見せてくれました…


何時かきっと、第二、第三のルディの様な少年が現れる…


マモンすら倒す人間がきっと…現れる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る