第56話 勇者VS竜 ③ 謝罪無用
両腕の拳が砕け血だらけになった時…ようやくマリアが正常に戻った。
口もききたくない…
だが、そう言う訳にいかない…
「行くぞ…」
「あっ、あの…」
「私…」
「ごめん…」
「喋るな…行くぞ」
俺が不機嫌なのが解ったのか…その後は無言でついてきた。
俺の人生は…終わった。
どの位の人間が死んだのか解らないが、数千人単位で死んだはずだ。
流石に、教皇様や教会…王も怒るだろう。
◆◆◆
小さな街に着いた。
宿屋に二部屋とり、三人を1部屋に放り込んだ。
仕方が無い…凄く連絡を取りたくないが…通信水晶を使った。
出たのは…ロマリス教皇だった。
よりによって…教皇か…
「…」
何を話して良いか解らなかった。
だから黙っていると…
「お疲れ様でした…以上です」
それだけで…通信が切れそうになった。
「あの…教皇様…俺を責めないのかよ…」
「責めませんよ…」
「何故だ、俺は今回恐らく数千単位の人を…」
「それは勝手に死んだので、ゼクト殿が気を病む必要はありません」
「何故、そうなる…俺は」
「私は、セレス殿と約束をしました…だから責めません…これが千どころか億の人間が死んでもです」
「それはどういう事でしょうか?」
「そうですか…セレス殿は貴方達に話して無かったのですか? 以前に、貴方達が依頼に失敗して30人程の死人が出た時の事です」
あの時か…
◆◆◆
「勇者パーティともあろうものが、無様な失態をどう責任を取るつもりだ!」
「あんた、司教か? なんで俺達が責任取らなくちゃいけないんだ? 死んだのは村人が悪い!」
「セレス殿…幾ら何でも30人からの犠牲が出たんだ、謝罪の一つも出来ないのか?」
「勝手に期待して勝手に死んだ…それだけだ! ゼクト達はベストを尽くして、それでも死んだ…それ以下でもそれ以上でもない」
「セレス殿…幾らなんでもそれは無い…儂でもそう思うぞ」
「あのさぁ…勇者なんてルーレットみたいなものだ…ゼクトという数字に『世界』というチップを掛けて博打をしているんだよ…皆はさぁ…カジノで赤の0に賭けたのに負けました…責任を取れとディーラーにいう馬鹿は居ない…嫌なら賭け事なんてしなければ良い…それだけだよ」
「セレス殿…幾らなんでも不謹慎じゃないですか?」
「じゃぁ教皇様に言わせて貰うよ…ゼクト達やその親も村民で重い税金をしっかり払っていたよ…更に言うなら信仰深く、良くお祈りをしていた」
「それはどういう意味でしょうか?」
「だが…ある時オーガに襲われて村人の5人が死んだ」
「お前は何を言っているんだ」
「だが、領主様は罰されなかった…仕方が無いで終わった」
「意味が解りませんが…」
「村の人はかなりの税金を納めている…それなのに、死人が出ても仕方が無いで納得して終わるんだよ…王も教皇様も同じだよな…何処で何人が死んでも誰も責任を取らないじゃないか? なんでゼクト達が責任を取らなきゃいけない訳?」
「責任を挿げ替えるな!」
「俺達のメンバーで『魔王と戦いたい』そう思っている奴は居ねーよ! やりたくも無い命がけの仕事を押し付けて…失敗したら責任を取れ…なら、勇者辞めさせるよ! 他の人間が戦えば良い…良いか覚えておけ! 自分達は遊んでいて幸せに暮らしている、酒を飲んで女抱いて遊んでいる人間がこの世界に山ほど居る、ゼクト達に文句を言うなよ…少なくとも死んだ村人は家族を持っていた…さぞや楽しい人生を送っていたんだろう…」
「セレス殿…何が言いたい…勇者が不遇なのは解るが…だからと言って…」
「あのさぁ…俺が教皇なら、こんな戦い1か月で終わらせるよ、魔王なんて簡単に殺せる…あんた達はミスだらけだ」
「セレス殿なら1か月で終わらせるのですか? それが本当なら、その作戦実行して良いですよ…私が責任を持ちましょう…全権を譲渡します」
「はん、やれるもんならやって見せよ」
「良いぜ題して『進め1億火の玉だ作戦』」
「なんですか…それは…」
「簡単な話だよ…全ての人間に戦わせればよい、それだけだ…村人も商人も娼婦もシスターも全ての人が仕事や、やりたい事を全部捨てさせて魔王城に進軍させればよい『教皇の命令である、戦いに参加しない者は破門、逃げる者は破門の上死刑』それを言えば人類の勝ちだ…」
「狂っている…」
「そうかな? これなら簡単に勝てる…この中でこの作戦で勝てない…そう思う人居る? 少なくとも勇者パーティ4人より、確実に勝てる…そして魔族は全滅…もう誰も不幸にならない…全ての人間なんて要らない…最悪教会の信者全員でも余裕で勝てるかもな…やろうぜ…全人類VS魔族…確実に勝てるぞ」
「それは出来ません…よ」
「なぜですか教皇様『確実な勝利』だ」
「そんな事したら…誰もが生活が成り立たなくなるし、怪我を負い、死ぬかも知れません」
「解らないのかな…結局『自分達がやりたくないから勇者に押し付けている』それだけじゃ無いのか? 自分達が戦いたくない、お金を失いたくない…幸せに暮らしたい…その為に『ゼクト達が犠牲になっている』そうじゃないか? 『生活が成り立たなくなるし、怪我を負い、死ぬかも知れない』それが勇者達だと思わないか? そんな生活をこれからもゼクト達はおくるんだ…たった1か月全人類が同じ生活を送るだけで…魔族は全滅…全権をくれるって言われましたよね? さぁ…」
「待って下さい! 取り消します!」
「『私が責任を持ちましょう…全権を譲渡します』もう教皇様は言われましたよ!嘘は良くない十大大司教、今直ぐ国にふれを出すのだ、全ての人間は…」
「待ってくれ、そんな事出来ない」
「『やれるもんならやって見せよ』そうあんた言わなかったか? この作戦で負ける訳ないと思うぞ…」
「悪かった…儂が悪かった」
「儂たちが悪かった…もうやめてくれ」
「取り消させて下さい…お願いです…そんな事したら…世界が」
「意地悪を言いましたね…本当にそんな事する気は無いですよ…ですがね、全ての人間が自分達がすれば良い事を『4人に押し付けている』それが現状です…だったら『他人に押し付けたのだから文句言うな』それだけです…千人? 万人? 1億人…全人類の半分、どれだけ死のうが責任なんて取らせる資格なんて誰にも無い、自分達は幸せに生きて、やりたくも無い人間に『勝手に賭けた』…それだけじゃないかな?」
◆◆◆
「そんな事をセレスが…」
「ええっ…戦いから帰り、宿で貴方達が休む時、街を見ると思うそうです…酒場の冒険者は何故笑っているのか? 商人は何故商売を普通にしているのか? なぜ貴族が裕福に暮らしているのか? 本当の戦争なら、国全体で戦っているから、そんな幸せそうな生活送っているわけないだろう…と」
俺は本当に馬鹿だな…
「…」
「だから、私は決めたのです…大司教の中には反対する者もいます…ですが私はセレス殿に反論が出来なかった…だから、一切勇者パーティに責任は取らせないと決めたんですよ」
「…」
「では…ご苦労様でした」
そう言うと通信水晶はきれた。
俺は本当に馬鹿だった…
自分達の最大の理解者を…俺は追放してしまった。
どうして良いのか、俺にはもう解らない。
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