第53話 黒竜
「同族が次々と狩られているだと」
「はっ、それが解っているだけで100以上の同族が狩られております」
我ら竜種が狩られるなんて事は殆どない。
ワイバーン等亜竜と呼ばれる血が薄い、我らからしたら竜とも呼べない知能も真面でない存在ですらまず狩られない。
「一体、どの位の軍勢だ5000か1万か?」
それ程の竜を狩るのだ、その位の数は必要だ。
「それがたったの1人です」
「本当に1人か?」
まさか、竜を一人で狩る等…そんな存在はまずいない。
勇者、剣聖、等の四職、魔族の幹部その辺りしか考えがつかない。
もしそうであっても、それを我々は咎められない。
それは『竜とは強い者』だからだ。
生まれながらの強者…種族の頂点。
いかなる種族も竜は倒せない…その考えが根強く残る為。
多対一なら兎も角一対一で戦い勝利した者には、寧ろ称賛しなければならない。
仲間が殺されたのに…『よくぞ同胞を倒した者よ、強者よ』等と強者として称えなければならない…そんな掟さえある。
あながちこれは間違っていない。
魔族にしても人族にしても…一部の優れた者しか我らに届かない。
しかも、その優れた者からして、中級の竜しか届かない。
恐らくは我、冥界竜バウワーどころか、幹部である五大竜公にすら殺される存在だ、所詮、勇者も魔王もその程度…
故に我は動けぬ。
「捨ておけ、他種族に倒される存在など…血が薄い…」
「ですがバウアー様、倒された竜の中には炎竜や岩竜、水氷竜、風王竜なども含まれております…」
「それは本当か?」
「はっ」
今、言われた竜は本物竜だ。
我からしたら地竜やワイバーンなどは竜とは認めない、竜モドキだ。
だが、その上は別だ。
だが、掟がある以上は何かするわけにはいかぬ。
だが、仕方が無い…こうも狩られては問題だ。
「黒竜、黒竜はおるか…」
「はっ此処に」
「うむ、実は此処暫くの間に大量のわが同胞が狩られておるのだ」
「はん…他種族に負ける存在など竜にあらず…放って置いても良いでしょう」
「それがたった1人によって行われたものだとしてもか?」
「大量とかまた大げさな…」
「1人に100もの同胞が狩られていてもか」
「はっ、何の冗談ですか? バウアー様…そんな存在、まさか魔王自らが竜を狩ったとでも言うのですか? なら俺が行って粛正して参りましょう」
「いや、それが魔族ですらなく、只の人間のようだ、悪いがお前自身で調査して、場合によっては…頼む」
「俺なら遅れをとる事は無い…殺してしまえ、そういう事か?」
掟から言えば、相手を褒め称えなければならぬ…だが、これ程の竜を狩った男を野放しには出来ぬ…
「いや…我らが竜である以上、表立っては責められぬ…竜である以上一対一で戦って勝利した相手には敬意を示さなければならぬ…調査した上で、警告…だがそれでもと言う時は…任せる」
「解った…警告をして、それでもひかない時には俺のしたいようにして良い…そういう事だな…」
「ああっ…頼む」
五大竜公の1人 黒竜であればよもや遅れをとる事はあるまい。
魔王や勇者でも無い存在に、まさか竜国ドラゴニウムが誇る五大竜公を差し向ける事になろうとはな、我も思わなかった。
◆◆◆
しかし、バウワー様も耄碌でもしたのか?
国すら亡ぼせる俺をたかが人間1人の為に差し向けるとはな。
勇者だ魔王だ騒ぐが…5000年も生き続けている、我ら『真の竜』にとっては虫けらも同然だ。
俺が1200年前に国ごと勇者達を皆殺しにしたのを忘れたのか?
虫けら退治なんて…めんどくせーな。
ちゃっちゃっと終わらせて、酒でも飲むとするか…
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