第45話 第二部スタート 勇者は…



結局、俺たちは教会を頼り旅を続ける事にした。


『しかしつまらないな…』


確かにこれで清潔な生活が出来るようになった。


服も洗って貰えるし…食事も出る。


ただ…


「今日も一日女神に祈りを捧げましょう…」


出てくる食事に肉は少ない。


お風呂も勇者と三職だから入る順番は最初だが…あとにつかえているからゆっくりつかれない。


確かにベッドは綺麗だが…硬くて痛い。


書類作業も口頭で伝えれば、そのまま報告して貰える。


かなり楽にはなった。


楽にはなったが…それだけだ。


何でこんな事になったんだ。


「ゼクト…お前、弱くなったんじゃないか?」


「リダ…お前もな」


「ああっ…」


マリアとメルは何も言わない…


本当に弱くなったわけじゃ無い。


個々の実力は僅かだが上がった…


マリアとメルは新しい呪文を覚えているし…俺やリダも技に磨きが掛かった。


だが、それでも断言できる…今の俺たちは弱くなった。


事実、リダはオークキング相手に苦戦する。


ワイバーンすら倒したその姿からは考えられない。


何かが違う…実力は増した。


なのに…これだ。


今はボロが出ていない…だがいつか…これが問題になる筈だ。


強くなったはずの俺達が前以上に苦戦する。


セレスが抜けてから、連携がうまく取れていない。


そのせいだ…


このままじゃきっと…魔王はおろか四天王にすら敗北する未来しか見えない。



◆◆◆


俺には前世の記憶がある…


だから解る…多分この世の中で一番…損な仕事…それが勇者だ。


だってそうだろう?


他の仕事と違い、勇者は転職が出来ない。


そして、魔王を倒すか、自分が戦えなくなるまで戦わされる。


だが、それだけじゃない…


途中からその生活は更に悲惨になる。


魔王城に行くには 魔国、魔族の領地に入らなければならない。


そこの国では魔王が正義であり…勇者が悪だ。


誰も勇者に食料や支援物資を与えてくれない…だからやる事は決まっている。


魔族相手の追いはぎや強奪…魔族の殺害…


悪人の様な生活を送る。


相手は魔族とはいえ、罪人の様に、殺し奪う生活が続く。


そんな悪とも正義とも言えない生活の中…戦いから逃げる事は出来ず…その戦いの行きつく先は、魔王との決戦…勝てる確率は五分五分…これ程、悲しい人生は無い。


俺は、そんな人生に関わりたくなんて無かった。


だが、村の人達に恩義がある。


父親を亡くして母と二人で生きていた…それを助けてくれたのはジムナ村の人々だった。


更に母が死んだあとの俺を助け面倒を見てくれたのもジムナ村の人々だった。


お金を掴んで可笑しくなってしまったが…俺の子供の頃は、ちょい悪親父みたいで悪い事(女遊びや博打の話)を教えたセクトール。


初恋で母親みたいに思っていた静子。


兄の様に思っていたカズマ。


姉の様に思っていたハルカ。


人付き合いが出来ないが勉強を教えてくれたシュート


母親の様に優しかったミサキ。


頑固おやじの様なカイト。


同じく母親の様に愛情を注いでくれたサヨ。


そして爺ちゃんの様に可愛がってくれたナジム村長たち。


そんな人たちから…


『息子を娘を頼む』そう言われたら、逃げる事など出来なかった。


四職でも無いのに…俺は魔王と戦わなくちゃならない…


鍛えれば鍛える程…絶望しか無かった。


今の俺は恐らく、かなり強い…毎日死ぬ程体を鍛えて、大物を狩り続けていた...俺は、別れた、あの時点では、もしかしたらゼクトより、下手したら4人を一緒に相手にしても引けを取らない位の実力はあった…だが、多分、そこが限界だ…


簡単に言えば1日16時間勉強して東大に入れる秀才…それが俺だ。


それに対して、1日僅かに勉強すれば東大に楽勝で入れる天才…それがあいつ等だ。


たしかに、やり方は褒められたものじゃないが…


追放されてホッとしていた。


だから俺は…


『今度会った時は笑って話そうな...世話になったな。四人とも幸せに暮らせよ!』


その言葉を贈ったんだ


もし、ゼクト達にもう一度会うとしたら魔王の戦いの後だ。


その時に、死んでいるか、再起不能になっていたら『笑って話せない』


道は違えど…不幸になんてなって欲しくは無い。


『魔王に勝利し笑っているあいつ等と話したい』


それだけだ…


◆◆◆


「セレスくん、なんだか難しいそうな顔」


「そうか? そんなこと無い…もうじき街に着くから、これから3人も正式に妻にするんだ…そう思ったら少し緊張してきた」


「セレスはそう言うたまじゃないでしょう?」


「そう言えばセレスさんの正式な妻になるんですね」


「セレスちゃんの奥さんね、信じられないわ」


「信じられないのは俺だよ…大好きだった4人を妻にできるなんて」



『大人しく村に帰って田舎冒険者にでもなるか、別の弱いパーティーでも探すんだな』



ゼクト…お前は馬鹿にして言った言葉だが…その人生の方が『勇者パーティ』なんかより俺には遥かに楽しく感じるよ…まぁ王都に行くけどな…


『お前達は世界を救えばいいんじゃないか』


俺はそう言ったよな…


頑張って強くなって世界を救えよ…それしかお前達に道は無いんだ。


魔王を無事に倒した、その時には『義理の親父』になったって驚かせてやるからな。







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