第23話 カイト


「セレス、よう来たな」


俺は今、カイト(サヨの旦那)の所に来ている。


これから俺はサヨを頼んで貰わなくちゃならない。


カズマと違いカイトは筋肉がついた厳つい親父。


そして暴れ者だ…緊張しない方が可笑しい。


「何をしている! さっさと座れ! 馬鹿もんが」


「はい…」


俺は言われるままに座った。


可笑しいな。


歓迎等されない…そう思っていたが目の前にはごちそうが並んでいた。


「まずは、酒だ! どうだ、飲めるようにはなったんか!」


「はい、少しは」


「そうか、それじゃ儂がついでやろう、そら!」


「ありがとうございます!」


酌までされてしまった。


勿論、俺もお返しで酌をした。


カイトの年齢はサヨより年上でおおよそだが30歳半ばだ。


自分の事を儂と呼んでいる事からも解ると思う。


昔は丸太のようなゴツイ手をしていたが…随分と細くなった気がする。


「ガキだったお前も随分立派になったもんだ、一人前の男の顔をしておるな」


「お陰様で、此処迄に成れました」


親を失っても家を取り上げない、食料を分けてくれて、生活に必要な物を分けてくれた。


この村は弱い者には優しい。


村によくある、成功者への妬みはあるが…此処迄弱者に優しい村はこの世界では無いと思う。


多分、俺が隣の村に生まれていたら、恐らくは奴隷として売られるか、孤児として村に住めなかった筈だ。


「感謝などはする必要は無いわい、儂らは畑仕事や家畜の世話しか教えておりゃせんわ、お前の冒険者技術は自分で身に付けたもんじゃ」


「それは違う…冒険者がこの村に立ち寄ると…このガキに何か教えてやってくれと、カイトさんを始め皆が言ってくれたからです」


「そうか?そんな事もあったかのう…もう忘れたわい」


「そればかりじゃない、古い七輪や家具だってカイトさんがくれた…」


「何言っておるんじゃ、ガキが困っておるんじゃ、村の者が助ける、当たり前じゃよ」


「それでも、俺は感謝して…」


「おうおう、本当にお前は俺を困らせてばかりじゃ、こんな厳つい親父に懐く子はお前位じゃ」


「厳ついなんて思わない…竹トンボや竹馬も作ってくれたし、まるで親父みたいでしたよ」


「実の娘すら嫌う頑固おやじじゃ、それでもしつこく懐くんじゃ仕方なか」


俺は本当は懐いていたんじゃない。


孤児になった俺にはそう言う生き方しかできなかっただけだ。


幸い、俺には虫食いだが前世の記憶もあった、だからこそあざとく生きただけだ。


前の世界の上司に比べれば頑固おやじも可愛いものだった。


心がチクりと痛んだ。


「俺にとっては村の人は親父であり母親ですから」


「お前は昔からそれだな…お前が今日来た理由はもう解っておる、サヨだろう?」


「はい」


流石に殴られる事くらいは覚悟するべきだ。


「何、目を瞑っているんじゃ…サヨが欲しいならやる…本当にお前は…お古ばかり欲しがるな」


確かに俺は…新品の物は…買った記憶が無い。


だが、これは違うだろう。


「そんな事は…」


「まぁ良い…サヨは儂に良い思い出はないじゃろう、儂の嫁に来て、うちは親父が死に掛けとはいえ健在じゃった、儂の親父に『女子など産みよって、立派な跡継ぎを産まんかい』と良く怒鳴られていた…結局、男を産めなかったサヨにはつらい毎日だった筈だ…親父が亡くなってからはそれなりに接したが…もう手遅れ…男と女には成れなかった…仕方ない事だ…散々、親父と一緒に辛気臭いと罵っていたんだからな、再構築など出来ない、当たり前だ」


「確かに、子供の俺から見てもサヨさん、辛そうに見えましたね」


だが、カイトは今思えば口が悪いだけで暴力を振るっている姿は見ていない。


どうして良いか解らなかった…それだけか。


「ああっ、俺にはもうどうする事も、最早出来ぬ…ガキの頃からサヨを追いかけていたお前なら良い…くれてやる、連れて行っていいぞ」


「すみません…」


俺は謝って、お金を取り出そうとしたが…


「そんな物は要らない、メルの支度金で潤っておるからな…謝る必要も無い…お前には本当はメルをやりたかったが、それはもう出来ない…だから、娘の代わりに嫁をやる…まぁ後は頑張れ…サヨ、もう入ってきて良いぞ」


扉を開けてサヨが入ってきた。


「貴方…ごめんなさい…」


「サヨ、お前が何故謝る、儂が親父から庇えず、それどころか一緒にお前を責めた…謝るのは儂じゃ」


「それでカイトさんはこれからどうするんですか?」


「儂? 儂は辛気臭いババアが居なくなったから、若いのち添えでも買いにいくわい、金は沢山あるし、若い女奴隷をな、わはははっ」


「貴方…ちょっとお話が…あるわ」


サヨの顔が黒くなって温度が下がった気がする。


「サヨ…お前はもうセレスのもんじゃ、儂の妻で無い…よって文句などいえんよ」


「うぐぐぐっ…そうね、最後に一言言わせてもらうわね」


「なんじゃ」


「大嫌いー――っ」


「儂もババアなんか好きじゃないわ」


明らかに違いすぎる。


俺やサヨに気を使わせない演技じゃ無いのか…


『幸せにします』


そう心に思い…俺はカイトの家を後に…


「その辛気臭い顔は本当に萎えるわ、ほらセレス、サヨはやったんだ...ほれっさっさとと引き取れ、辛気臭くてかなわん」


「嫌い、嫌い、嫌いー-っ大嫌いっー-」


本当に演技だよな?







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る