第10話 【閑話】セレスが抜けた穴
「なんで金が無いんだよ」
「そんなの私に聞かれてもな」
「まさか、セレスが持ち逃げでもしたのかしら」
「マリア、セレスはそんな事はしないよ、真面目が取り柄みたいな人だもの」
「いやだわ、メル冗談ですよ、冗談」
仕方なく俺は冒険者ギルドに話をしにいった。
「教会からお金が振り込まれていない?」
「はいゼクト様に言われたので調べましたが、その通りです」
可笑しい、今迄こんなことは無かった。
「解った、教会に確認してみる」
仕方なく三人を連れて教会に向かった。
「お金が振り込まれて居ないのですか?勇者様の案件は最優先処理なのでそんなことは無いと思うのですが? 調べてみますね」
「頼む、困っているんだ!」
「ゼクト様…何も書類が出されていませんが」
「書類ってなんだ?」
そんな話は聞いたことが無いぞ。
「行程予定書や支援金の要請書です」
「それってなんだ?」
司祭から話を聞くと『今こんな状況だからお金を送って欲しい』『こういう討伐をしているからその装備のお金が欲しい』そう言うことを細かく報告書にして提出、それからお金が振り込まれる、そういう話だった。
「俺は今までそんな書類を書いた覚えが無い、お前達は誰か書いたか?」
三人は首を横に振る。
「ちょっと待って下さい…他の方の書いた書類に勇者様のサインの入った書類が提出されていたみたいです、代書人の名前はセレス様になっています」
俺のサイン?
『教会に提出しなくちゃならないからサインくれないか?』
ああっあれか。
「あれか? あれは重要な物だったのか?」
「流石に、私達教会でも幾ら支援してよいか解らなければ、どうしようも無いですよ」
その場で俺は書類を書いて、金貨6枚(60万円)を貰った。
これで当座の生活費は貰えたが随分と少ない気がする。
「随分と少ない気がするが…」
「これは勇者様達の最低限の1か月の生活費です、他に経費の請求や達成目標に対する褒賞の請求できます。それらが無いからこの金額なのです」
「解った、これからは気を付ける、メル詳しく話を聞いてお前がこれからやってくれ」
「なんで私がそんな事を…」
「お前は賢者だ、俺たちの中で一番頭が良いんだ、当然だろう?」
「解ったよ」
なんだ、あの書類、本数冊分の厚みがあるぞ。
しかも結構メンドクサイんだな、メルの顔が真っ青だ。
「メル、結構大変なのか?」
「確かに出来なくはない無いけど、これ村長が書く領主様への進言書並みに大変だよ! これを私がやるなら他の仕事は免除して欲しい」
「メル、それは可笑しいだろう? セレスはその書類をしながら、雑用もしっかりこなしていたぞ」
「リダ、だったらこの書類作業リダがやってくれない! 文字は読めるし書けるんだからさぁ、マリアでも良いよ! そうしたら私、雑用頑張るから…これ本当に嫌!」
メルが騒ぐから俺と二人で覗き込んだら、凄くめんどくさそうなのが見た瞬間解った。
「メル、解った、それに専念してくれれば良い」
「そう…お金に対する報告書、めんどくさい! なんでこんな複雑なのかな? 後で皆が最近買った物の名前と幾らだったか教えて! ゼクトは当分の目標と魔王討伐に対して、それがどんな訓練になるのかもね!」
「解ったよ」
鬼気迫るメルの前にはそれしか言えなかった。
◆◆◆
「リダ…これもう少しなんとかならないか?」
「私が作る飯が嫌ならマリアに作らせるか、ゼクトが作るしかないよ? メルは免除なんだから…」
「私は文句いわないから…私よりリダの方がまだましだから」
「悪い」
「そうそう、焦がすよりましだろう?」
今いるメンバーで料理が出来るのはリダしかいない。
そのリダだって塩味の物ばかりだ。
肉に塩を振って焼いたり、塩味のスープ作れるだけだ。
マリアと俺はそれ以下で、マリアに至っては何故か食材が消し炭になる。
「セレスのオムライスが食べたい」
「ハンバーグは絶品だった」
「おい、マリア、メル、それは言うなよ!リダに悪い」
「いいよ、いいよ!私だって彼奴のつくるケチャップの効いたナポリを食べたいと思うからさぁ」
セレスの作るような料理は街に出れば食べられる。
だが、高級店にしか置いておらず、4人で最低銀貨2枚(約2万円)は軽く飛んでしまう。
しかも、そんな高級店の料理ですら、店によってはセレスより不味い。
「仕方ない、明日は外食しよう」
「「「そうね(しましょう)」」」
そうは言ってもきっとセレスの料理より不味いんだろうな。
結局、女性ものの下着や服を俺が洗いたくないから宿屋、必要な物の手配、買い出しが俺の役割になった。
マリアが洗い物をする事になった。
こんなんで討伐に集中できるか…俺だけじゃなくて三人もそう思っている筈だ。
◆◆◆
このままでは駄目だ、本当にそう思った。
日に日に皆が汚くなっていく。
髪型なんてマリアやメルはボサボサだ。
唯一真面な状態のリダに聞いて見た。
「そりゃ無理だろう?」
「無理ってなんでだ? 化粧水から洗髪水までちゃんと買ってやっているんだぞ」
「髪型で言うなら、私はただ後ろで縛っているだけだから、綺麗に洗えば問題はないよ? だがあの二人の髪型は当人の要望で髪を乾かしてセレスが整えてやっていたんだ…自分で出来ないからそりゃボサボサにもなるさ」
此処でもまたセレスか。
このままじゃ真面に旅なんて出来なくなるぞ。
皆が疲弊してしまう前に何とかしないと。
相談するしかないな。
「街中なら兎も角、危険な旅に同行は難しいですよ」
教会を頼れば街中でのお世話はして貰えそうだが、詳しく話を聞けば『教会で暮らせばよい』という話だった。
その話をマリアに話したら「絶対に嫌」だと強く拒絶された。
『教会は質素を旨に生活しているのよ! 肉すら滅多にでないし、ベッドだって固い、基本自分の事は自分でしないといけないの、まだ今の方がましな筈よ』
そう言えばマリアはヒールの練習で2週間程教会に居たんだったな。
そのマリアが言うなら間違いはないだろう。
教会は駄目だ。
「依頼ですか? 街の中は冒険者に頼る必要はありませんよ?店で済ませば良いんです!冒険者は皆そうしています。 外と言うなら多分1日金貨4枚(40万円)以上になると思います」
「余りにも高すぎるぞ」
「S級パーティのお手伝いですから、自分の身を守れると考えたらB級以下じゃ無理ですからね、もし安くしたいなら奴隷を買えば良いかも知れません」
「ああっ、済まない邪魔をした」
俺はやはり、てんぱっていたんだと思う。
この後、奴隷が欲しいと教会に相談して怒られた。
結局、セレスが抜けた穴を埋める方法は見つからなかった。
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